第92話 やじろべえ

 太郎は「う~ん」と首をひねりながら考えます。


 そもそも太郎が引きこもりになった原因は、あまりに自分の能力が高過ぎて、何をやってもやり甲斐がなくなくなってしまったということが大きかったのです。

 今まで見たことも聞いたこともなく、「鬼ヶ島」だの「鬼の宝物」などという、刺激的な単語に触れただけで、なんとなく心がざわざわしてきていました。

 この状態、ほぼ引きこもり解消まで来ていると言ってもいいのでしょう。


 ですが、それと同じぐらい、何か理由をつけて行かずにすむ方法はないか、と考える気持ちも大きかったのです。まあ、さぼりたい人間の心理とですな。


「そうだよ、鬼たちが本当に宝物を奪ってきているかどうかも分からないじゃない」


 太郎は気になる気持ちを抑えるように、色々といいわけを探していました。


「それに今までそんな話聞いたことないけど、本当なのかな? 作り話じゃないの?」


 一理あります。

 有名どころではネッシーにツチノコ、ビッグフッド、ヒバゴン、口裂け女からトイレの花子さん、古くはおいてけ堀だののっぺらぼう、古今東西にそんな話はゴロゴロ転がっていますが、どれもこれも実在する、実在したなんて証明されたことはないと思われます。

 でもまあ、そういう部分、あるかないか分からないってところも面白い部分と言っていいんでしょうけどね。


「本当にそんな事件があるんなら、おかみが黙ってないと思うんだけどなあ」


 太郎は理論武装にかじを切ることにしたようです。


「そうだよ、そんなに持ち寄るほど宝物が奪われているんなら、とっくに大騒ぎになってるはずだ、やっぱり嘘じゃないのかな」


 太郎の中で気持ちがあっちとこっちをふらふら、ふらふらと揺れています。

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