第91話 空想

 太郎は悩んでいました。

 長い間、そんな感情も感覚も麻痺してしまっていたのですから、まあいい傾向とは思います。


 それを考えると、多少ぶっとんだ行動だったとは思いますが、おじいさんとおばあさんの、


「太郎を鬼ヶ島に行かせてひきこもりからひーろーにしようぜ作戦」


 は、成功とまでいかなくても少なくとも失敗ではなかったように思えます。


「鬼ヶ島かあ……」


 どんなところなんだろうな、とちょっとばかり太郎は興味を持ちました。

 

 想像の中の鬼ヶ島には赤鬼、青鬼、黒鬼、ピンク鬼、黄鬼、紫鬼、色んな色の鬼がいて、


「俺たちは不死身だ!」


 と、ずらっと並んでこちらを見てポーズを決めていました。


 まるでどこかの戦隊のようですが、そもそも鬼ってどんなものなのか実物を見たことがないので、そのへんは適当に思い浮かべてもしょうがないと思います。


「宝物ってなんなんだろう」


 一般的に宝物というと金銀・宝玉、錦織、さんごや瑪瑙めのうなんかが浮かびます。


「鬼が宝物を持って集まって見せ合いするって言ってたかな」


 色とりどりの鬼が光り輝く宝物を持って、にこにこしながらお互いの宝物をほめあっている。そんな場面が太郎の頭の中に浮かびました。


「いい光景じゃないか……」


 考えてみれば、太郎は今まで「悪い人」というのを見たことがないのです。

 なので、いくら考えても恐ろしい鬼というのが想像できないのです。

 おじいさんとおばあさん、洗濯娘やその他の小作人、今まで出会った人たち、どの人もニコニコした顔で太郎に接してくれていました。


「いや、おじいさんとおばあさんはそうじゃなくなってたかな」


 ここ何年かは2人は悲しそうな顔ばかりしていた気がする。

 太郎は思い出してなんだか自分も悲しくなってきました。

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