第80話 右から左へ受け流す

「た、太郎や」


 おじいさんは一人で太郎の部屋へ行きました。


「なに?」

 

 太郎は相変わらずおじいさんを見ず、天井か壁かどこかは分かりませんが、そのあたりをぼーっと見てじーっと座ったままです。


「ちょっと、話をしてもいいかな」

「いいよ」


 返事は「いいよ」ですがその内容は全く違います。

 本心では「どうでもいいよ」なんです。


 おじいさんにもそれはよく分かっていました。

 今まで、何度も何度も話しかけてきて、その度にそうしてがっかりして部屋を出るばかりでしたから。


「ちょっと面白い話を聞いてな、それを話したいと思うんじゃ」

「そう」


 実は、今までにも何度か鬼ヶ島の話はしているのです。 

 でも太郎の記憶には一切残っていないようです。

 きっと、右の耳から入ったおじいさんとおばあさんの言葉はそのまま左の耳から出ていっていたのでしょう。


「鬼ヶ島という島があるんじゃ」

「そうなの」

「そこにはな、鬼が宝物を持って集まるそうじゃ」

「そうなの」

「それでな、その宝はきっと鬼が人から奪ったものだと思うんじゃ」

「そうなの」

「宝を取られた人はきっと困っておるじゃろうなあ」

「そうだろうね」

「もしも、その宝を取り戻して返してあげたら、困っていた人たちは喜ぶじゃろうなあ」

「そうだろうね」

「その宝をなんとか取り返してあげられないかねえ」

「どうだろうね」

「なあ、太郎やってみないか?」

「いや、いいよ」

「太郎ならできると思うんじゃがのう」

「どうだろうね」

「わしは、やってほしいと思っておる」


 そこで太郎が言葉を切って、おじいさんを振り向きました。


「太郎……」

「もう話は終わり? ちょっと眠いからまた今度ね」


 おじいさんはすごすごと部屋を出るしかありませんでした。


「太郎……」


 一体どうすればいいのでしょうねえ。

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