第71話 お休みの行方
3人の洗濯娘、手の中に入った小袋の感触に、困ったように顔を見合わせます。
「どうした、足りんのかな?」
「いえ、いいえ」
「そ、そんなんじゃありません!」
「はい、違います」
洗濯娘たちはそう言ってから、
「あの、ちょっとだけ相談していいですか?」
そう言って、縁側から離れたところに集まって何か相談を始めました。
少しの間、うんうんとうなずきあって相談がまとまったらしく、おじいさんとおばあさんのところへ戻ってきました。
「あの、お休みのことなんですが」
洗濯娘「い」が意を決したように口を開きました。
「あの、そのお休み、今じゃないとだめですか?」
洗濯娘「ろ」が続けます。
「あの、お休みは欲しいんですが、もうちょっと後でもらえたらうれしいです」
洗濯娘「は」も続けました。
「ああ、そんなこと。好きな時に取ってくれていいんですよ」
「そうか、水が冷たくて仕事がつらいから冬にとりたいのかな?」
おじいさんとおばあさんは娘たちの要望がそんなことでホッとしました。
「いえ、そういうことじゃないんです」
「はい、冬でも井戸水は温度が安定していてそんなつらくはないです」
「ええ、そんな先じゃなくていいです」
じゃあ洗濯娘たちは一体いつお休みを取りたいと言うのでしょうか。
「一体いつお休みしたいの?」
「あの、お盆の頃に」
「ああ」
おじいさんとおばあさんは納得しました。
この時代、奉公に出ている人にはお休みなんてほとんどありません。
あるのは「薮入り」と言って、お盆とお正月の頃に1日だけです。
遠い土地から奉公に来ている者は、もちろん故郷に帰るなんてことはできません。
「そうか、なるほど」
「ええ……」
洗濯娘たちは、きっと長くお休みを取って故郷に帰りたいんだな。
おじいさんとおばあさんはそう思って涙ぐみました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます