第70話 いいからいいから

「ここにな、ちょっとしたお小遣いがある」


 3人の洗濯娘はおじいさんが音を鳴らす小袋に目が釘付け。


「おまえさんたちにな、ちょっと聞きたいことがあるんじゃよ」

「ええ、そうなのよ」


 おばあさんも優しく優しく言います。


「わしらの知りたいことを教えてくれたら、このお小遣いとお休みをあげようかなと思うんじゃが、どうかな?」

「え?」

「え?」

「え?」


 「い」「ろ」「は」の洗濯3人娘が同時に驚き、3人で目を見合わせます。


「教えてくれたらうれしいんですけどねえ」


 おばあさんも優しく優しく続けます。


 3人は、ちょっと困ったなあという顔をしながらも、お小遣いとお休みがもらえると聞いて、そわそわとしているようです。


「どうかのう?」

「どうかしらねえ?」

「あの、ちょっとだけ待ってくださいね」


 そう言って3人は顔を寄せ合い、何かコソコソと相談をし、


「あの、もしもあたしたちに分かることだったら、もしかしたら、お力になれるかも、しれません」

「はい、もしも知っていたら、ですけど」

「ええ、知らないかも知れませんが」


 と、ちょっと控えめにOKを出しました。


「そうかいそうかい」

「よかったよかった」


 おじいさんとおばあさんもニコニコです。


「じゃあ、ほれこれ」

「え!」


 娘さんたちはまだ何も話していないのに、おじいさんがさっさと3人にお金の入った小袋を握らせました。


「あの、困ります」

「はい、まだ知ってるかどうかも分からないし」

「ええ、知らなかったらどうしたらいいか」


 少しびびりながら3人の娘さんが答えますが、


「いやいや、いいからいいから」

「ええ、もしも知らなかったとしても、その時はその時です」


 さすが老獪ろうかいなインテリ夫婦、うまく洗濯娘3人組を追い込むことに成功しました。

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