第69話 鬼、まんじゅう

「いやいや、気にいってもらえてよかったよかった」

「はい、本当においしかったです」


 洗濯娘「い」がニコニコして答えます。


「そうかそうか、市へ行ったら売っていてね、それで買ってきたんですよ」

「そうだったんですか」

 

 洗濯娘「ろ」もニコニコして答えます。


「思いがけなく買ってしまったんだが、若い子は好きかなあと思ってね」

「はい、お芋さん大好きです」


 洗濯娘「は」もニコニコして答えました。


「このおまんじゅうな」


 おじいさんはちょっとだけ間を開けて、ちょっとだけ声を大きくして、


「鬼」


 と言ったところで一瞬言葉を止めます。


 洗濯娘の3人がピクリと動きました。


「まんじゅう、という名前なんじゃよ」


 3人の娘がほおっと体の力を抜きました。


 娘さんたちの様子を見て、


(これは、やっぱりなにか知ってますね)

(ああ、知ってるな)


 おじいさんとおばあさんは目と目を見交わして合図を送ります。


「気にいったんなら、市に行った時に鬼まんじゅう屋さんはどこですか、そう聞いたら場所を教えてもらえるよ」

「はい、ありがとうございます」

「けど、あたしたち、あんまり市へな行きませんので」

「うん、行ってもねえ」

「ほう、どうして?」

「買い物するお金もないですし」

「時間もね」

「そう、どっちもあまりなくて」

「そうなのかい」


(これは、うまく話を持っていけたら)

(ええ、何か話してもらえそうですね)


 おじいさんとおばあさんはまた目と目を見交わして合図を送りました。


「そうかい、じゃあお休みとお小遣いがあったら市へは行けるってことかな?」

「ええ、そりゃあもう」

「でも、お仕事もありますし」

「うん、忙しいですし」

「色々と大変じゃなあ」


 そう言いながらおじいさんは懐から小袋を3つ取り出して、


「チャリチャリチャリ」


 と、鳴らして見せました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る