第58話 気がついたことがある

「どうしたらいいんでしょうねえ……」

「どうしたらいいんだろうなあ……」


 2人は向かい合って座ると、はあっと大きなため息をつきました。


「考えてみれば、おばあさんが力がなくなっても太郎の力はなくなっておらんかったのだった」

「そうでしたね」

「そのところだけはちょっと安心なんじゃが」

「ええ」

 

 どういう理由かは分かりませんが、太郎の不思議な力は元通りだったことを思い出します。


「そういえば、おばあさんの力は洗濯で大岩を叩いていて身についた力だが、太郎のは違う」

「ええ、どっちかというと生まれつきでしたよね」


 そうでした。

 赤ん坊の太郎が平気で薪をまとめてぽいと折ってしまったこと、それからおばあさんが怪力でギュッとしても何事もなく無事だったことからそのことを知ったのです。


「そもそも、なんで太郎はああなってしまったんじゃ?」

「言われてみれば」


 よく考えてみたら、2人とも太郎が引きこもっていること、その前は寝てばっかりいたことを心配して、どうしてそうなったのか聞いたことがなかったのです。


 5年もかい!

 もっと早く聞いたらんかい!


 心配して、


「大丈夫かい?」


 と聞いたことは何百回、何千回、何万回もあったと思いますが、


「どうしたんだい?」


 と聞いたことは1回もなかった。


「聞いてみましょう」

「聞いてみよう」


 2人は太郎の部屋に引き返しました。

 太郎は変わらず同じ場所にじっと座っています。


「太郎や」

「なに?」


 いつも寝ていなかったら返事だけはしてくれます。


「聞きたいことがあるんじゃ」

「なに?」

「太郎は、どうしてそうなってしまったんじゃ?」

「そうって?」

「太郎は、どうして何もせずにそうしてじっと座っているだけなの?」

 

 2人は初めて、そうして太郎に理由を聞いてみました。

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