第56話 洗濯セッション
今のおじいさんとおばさんの目標は、
「洗濯を叩く音がばしばしんになること」
です。
って、違うだろ!
太郎を社会復帰させることだろう!
違うんです、ええ、違うのよ。
ですが、そう思い込んでがんばっている2人の老人にそんなことが言えますか? いや、言えまい。
とりあえず、今はおじいさんとおばあさん、特におばあさんが怪力を取り戻すことが、イコール太郎を立ち直らせる一歩と信じている2人の訓練を見守ってやってください。
とにかく、それがどういうことだとしても、おじいさんとおばあさんはがんばってがんばって川へ洗濯に通ううちにどんどん体力がついてきたのは事実です。
「初めて来た時はあんな感じだったのになあ」
「本当ですねえ」
今では2人は洗濯物をカゴに入れ、それをかついで川へ来て、
「ばしんばしん」
そう、あの音を出して洗濯ができるぐらいまで体力をつけてきました。
「いい音しとるのお」
おじいさんが自分も洗濯を叩きながら、おばあさんの洗濯の音をほれぼれとしながら聞いています。
考えてみれば訓練を始めたのは昨年の秋から冬にかけての頃です。たった数ヶ月でここまで戻ってこれたのも、本当の一から始めたからではなく、どこかで体が覚えているのでしょう。
「おじいさんだって素敵な音ですよ」
そう言っておばあさんが耳を傾けるおじいさんの洗濯の音は、
「べちべちばしばしべちばしん」
ぐらいですが、なんとなくリズムがいい感じです。
「これぐらいではおばあさんにまだまだ追いつけんぞ」
そう言いながら、おじいさんも自分のリズムを心地よく感じているようです。
「よおし、わしも負けんぞ~」
「あらあらわたしだって負けませんよ~」
川べりに2人の笑い声が響きます。
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