第55話 べちべちばしん

 おじいさんとおばあさんは毎日毎日洗濯をがんばりました。

 そうしてるうちに新しい年になり、みんなが1つずつ年をとりました。


 今はお誕生日を迎えると1つ大人になりますが、この物語の当時は個人のお誕生日はほぼなく、みんなお正月になると一緒に1つ大人になっていました。


「太郎もとうとう15歳」

「大人になってしまいましたね」


 そう、お正月も自分の部屋でじっと座っているだけの太郎も、当時の大人、武士の世界でいうところの「元服」の年齢を迎えてしまいました。


「焦っても仕方がない、わしらにはわしらのできることがある」

「ええ、そうですね」


 そうして、お正月もおじいさんとおばあさんは川へ洗濯へ行きました。


「おじいさん、ほら、ほら、聞いてください!」


 おばあさんがそう言って洗濯物を叩くと、


「べちべちべちべち」


 と、さらに一歩力強い音がするようになっています。


「よおし、わしも負けんぞ~」


 おじいさんもがんばって叩くと、


「べちべちべしべちべし」


 まだちょっと音が揃ってはいませんが、かなりおばあさんに追いついてきています。


「まあ、負けてられませんね」

「おう、すぐに追いつくぞ」


 今では毎日の訓練が楽しくて仕方がない2人です。


 そうしてお正月が過ぎ、少し暖かくなってきた頃、


「おじいさんおじいさん、聞いてくださいよ!」


 そう言っておばあさんが洗濯物を叩くと、


「べちべちばしんべち」

「おおっ、それは!」


 そう、この物語の一番最初のお話、おばさんが大きな桃を「ふんぬ!」と抱きかかえたあの頃の音が交じるようになってきています。


「もう少しですよ、もう少し」

「わしも負けんぞ~」


 そう言うおじいさんの音は、


「べちべちべちべちんべち」


 こんな感じですが、とにかく2人共進歩しているのは間違いがありません。

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