第54話 べしべし

 2人はそうして、それからは、お天気が悪くて川まで行けない日以外は毎日、それぞれてぬぐいを1枚ずつきれいに洗濯をしてから帰ってくるようになりました。


 洗濯を叩く音も、


「ぺしぺし」


 から、今は、


「べしべし」


 ぐらいの音になってきました。


「はあ、座っているだけで足腰にきますねえ」

「そうじゃのう」


 2人は時々立ち上がって腰を伸ばし、休んではまた叩くを繰り返しました。

 毎日毎日、川まで行って1枚を丁寧に選択して戻ってくる。


 最初のうちは座って洗濯をするのにかなり時間がかかりましたが、今では続いてべしべしできるようになってきました。


「ちょっとずつですが強くなってますねえ」

「全くだ」


 最初の頃はなかなか進歩が見えませんでしたが、今から初日を振り返ると、それはもうすごい進歩です。


「早く元通りの力に戻りたいものです」

「いやいや、焦ってはいかん」


 おじいさんはおばあさんを優しく諭します。


「もしも無理して休んでしまったらまたやり直しじゃ、焦りはいかんぞ」

「そうですね」


 そうして今日も2人してべしべし、べしべし、べしべし、べしべし……


「あ!」

「どうした!」

「今、今ちょっとだけ……」


 おばあさんがあらためて手を上げて洗濯物を叩きました。


「べちっ」

「おう!」


 そう、


「べしべし」


 がちょっとだけ、


「べちっ」


 という音になりました。


「これはわしもがんばらないとな」

「無理は禁物ですよ」

「うむ、分かっておる」


 そう言いながらも、なんとなく互いを意識して、


「よおし、追いつくぞ!」

「まだまだ追いつかれませんよ!」


 と、切磋琢磨せっさたくま、というにはレベルがまだまだ低いですが、励まし合いながら訓練の日々が続きます。

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