第53話 ぺちぺち
そうして地道に2人は訓練を続けました。
雨の日も、風の日も、寒い日も。
それなりにちゃんと装備をして、無理のない程度に訓練を続けました。
天気が悪い日は遠くまで行くのをやめて、行ける範囲で歩きました。
「とにかく休まないことを心がけないと」
「そうじゃな」
あまりに疲れた翌日は家の庭を何周か歩くだけの日もありました。
お天気が悪すぎる日は室内をぐるぐると歩いたりもしました。
毎日訓練に行く前には太郎に声をかけてから行くのも忘れませんでした。
「太郎や、今日もちょっと訓練に行ってくるよ」
「行ってくるぞ」
「行ってらっしゃい」
太郎は返事だけはしてくれますが、特に2人を振り向いたりもしませんし、「訓練」という言葉に反応もしません。
それでも、おじいさんとおばあさんは太郎に声をかけ、毎日毎日休まずに歩く訓練を続けました。
そしてある日……
「おじいさん、わたしは今日は洗濯ができそうですよ」
「おお、わしもじゃ」
「じゃあやりますか」
「やろうかの」
2人して、川の水に持ってきた洗濯物を
「ぺちぺちぺち」
がんばって叩いても今はそんな音しかしません。
「ぺちぺちって……」
おばあさんはその音を聞いてがっかりした顔になりました。
「なあに、川に来るのだって最初はあんなにつらかったんじゃ、段々とまたいい音になっていくさ」
「そうですね」
訓練の2日目には休みたそうにしていたおじいさんが、今度はそう言っておばあさんをはげましました。そして2人でそれぞれ1枚の洗濯物をぺちぺちと、時間をかけて叩きました。
「汚れが落ちましたかねえ」
おばあさんは持ってきた手ぬぐいをピッとひっぱって伸ばしてみました。
「わしのはまだかのう」
おじいさんは持ってきたふんどしをピッと引っ張って伸ばしてみました。
「明日からおじいさんもてぬぐいにしてくださいね」
今の2人にはまだふんどしはハードルが高そうでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます