第52話 1日1歩3日で3歩

「じゃあ洗濯は洗濯娘たちに任せるのかい?」

「いえ、できたら洗濯もできたらいいと思うのでわたしは1枚だけ持っていきます。おじいさんは手ぶらでもいいですよ」


 そう言われたらおじいさんもなとなく手ぶらでは行きにくい。


「じゃあ、わしもそうするよ」


 そう言ってそれぞれ1枚ずつ洗濯物を、カゴには入れず、帯にキュッと差し込んで川まで行くことにしました。


 昨日は行って洗濯もしないとと思うのでそこそこ早足で行ったんですが、今日は一歩一歩ゆっくりゆっくり。


「太郎が初めて歩いた時みたいにゆっくり行きましょう」

「そうじゃな」


 2人で手をつないで、お散歩のスピードで川まで歩きました。


 ゆっくりだったせいか、川に着いた時にはそれなりに汗ばんではいましたが、昨日のように息を切らすようなことはありませんでした。


「よっこらしょ」


 昨日は張り付くように座り込んだ洗濯の大岩の上にゆっくりと腰を降ろしました。


「気持ちのいい風ですねえ」

「そうじゃのう」


 運動をして少し熱を持った体に川風が気持ちいい。


「あまり冷えないうちに帰りましょう」

「そうじゃのう」


 そうして2人はまた手をつないでゆっくりと家に帰り、


「途中まで行ってみましょうか」

「そうじゃのう」

 

 と、また手をつないで川への道の途中まで歩き、またゆっくりと帰ってきました。


「やっぱり無理はいけませんね」

「そうじゃのう」

「歌にもあります、1日1歩3日で3歩、3歩進んで2歩下がるって」

「焦らず行こうな」

「ええ」


 確かにありましたが、その調子で訓練をしていたら、洗濯ができるようになるまで何年かかることか……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る