第51話 現実的に考えよう
「今日はどうするんだい?」
おじいさんがおばあさんにおずおずと聞きました。
昨日、2人で川に洗濯を兼ねた訓練に行ったところ、川へ行くだけでふらふらになってしまい、へとへとになって帰ってきたからです。
「ちょっと、足が痛いのう……」
おじいさんは、今日は休みたそうにそう言って足をさすりました。
おばあさんもやはり足がガクガクです。
「それに、なんだか雲行きも怪しいような……」
おじいさんがそう言って、雲ひとつない空、季節のせいで真っ青ではないですが、まあ雨が降ることはなさげな空を見上げます。
「はあ、やれやれ、昨日は本当に疲れました……」
おじいさんがそう言いながら右手で自分の左肩をトントンと叩き、ちらりとおばあさんの様子を伺います。
おばあさんは黙って自分の足をさすっています。
「あの、おばあさんや……」
「さあ、行きますよ!」
「え!?」
「え、って?」
「いや、いやいや」
おじいさんはこのぐらい言ったらおばあさんが、
「今日はお休みしましょう」
と言ってくれると思っていたのです。
「どうしました?」
「いや、なんでもない。じゃあ、その、今日も洗濯に行くんだね」
「いえ、洗濯には行きません」
「え?」
「わたしは昨日のことで思い知りました……」
おばあさんはキリッと顔を上げると言いました。
「1日休んで7日後戻り、そんな言葉があるでしょう」
「ああ、あるね」
習い事など、手に技術をつけるための鍛錬は1日休んだら7日前の状態に戻ると言われています。
「わたしはもう7年か8年は洗濯をさぼってるんですよ、ということは……」
7年の7倍は49年、8年だと56年になります。
「つまり、生まれた時と同じ状態に戻ってしまっているということ。いきなり洗濯は無理なんです。だから、まずは川への往復から始めたいと思います」
おばあさんはリアリスト。
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