第46話 力はあれど

「えっ、じゃあ」

「もしかして」


 おじいさんとおばあさんは同時に思いついて顔を見合わせました。


「太郎!」


 2人はバタバタと大慌てで太郎の部屋に飛び込み、


「これ!」


 と、さっきおばあさんが折れなかった薪をズバッと太郎に差し出しました。


 こんなもんいきなり突き出されてもどうせえっちゅうねん、と思います。

 年寄りはついつい言葉が少なくなるのはしょうがないですが。


 ですが太郎は黙ってそれを受け取ると、


「はい」


 何事もなかったようにポキっと真っ二つに折って2人に返しました。


「…………」

「…………」


 おじいさんとおばあさんは言葉もなく折れた薪を見ていましたが、


「ありがとうね」


 それだけ言って2本に増えた薪を受け取り、静かに太郎の部屋から出てきました。


「折れましたね」

「折れたね」


 2人は太郎の力が、もしかしたら多少のことはあったとしても、最低でも赤ちゃんの時の力は残っているようで安心……


「いやいやいやいや」

「そうですよ」

「赤ん坊の頃と同じでは」

「そうですよ」


 ということで、もう一度テストするために薪の束を抱え、もう一度バタバタと太郎の部屋に飛び込みました。


「太郎!」

 

 ぽきっ


「太郎!」

 

 ポキっ


「太郎!」


 ポキっ


 これを繰り返しますが、なんと、太郎は10本重ねても薪をこともなげにポキっと折ってしまいました。


「お、おう……」

「え、ええ……」


 そう言うと2人は折れた薪を集め、


「邪魔したね」

「ごめんね」


 そう言ってまた太郎の部屋から出て、囲炉裏のある部屋に戻りました。


 パチパチパチ、囲炉裏の火が弾けています。

 2人はそこに、太郎が折った薪をちょっとずつべて、それが燃えていくのを静かに見ていました。


「力は落ちてませんでしたね」

「そうだったな」

「でも」

「うん」


 そのことよりも、太郎が一言も話さず、何も聞かず、黙って薪を折り続けたことがどうにも不安な2人でした。

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