第45話 岩から板へ
「どうしてこんなことに……」
おばあさんはがっくりと力を落としましたが、なんとなく心当たりはありました。
今から10年前、あの「墾田永年私財法」で少しでも多くの土地をゲットするために3人でやみくもに開拓を進めていた頃、あの頃まではおばあさんは毎日毎日、畑仕事に洗濯にと、忙しく立ち働いていました。
ですが、山を手に入れ、段々と使用人が増え、洗濯も川へ行かずに井戸端で洗濯娘がやってくれるようになってから、おばあさんの生活から洗濯という作業が姿を消してしまいました。
あの大岩の上でばしんばしんと洗濯物を叩き続けていたからこその、あの怪力です。
「あそこで洗濯をしなくなって何年になるでしょうねえ……」
おばあさんがさびしそうに小さな声でそう言いました。
土地を開拓してすぐに家事をやらなくなったわけではありません。
井戸を掘り、川へ行かなくなってからも、洗濯板でしばらくは洗濯をしていました。
岩の上でばしんばしんと叩く作業はなくなりましたが、洗濯板に洗濯をこすりつけ、ごしごしと洗っていました。
「そういや、あの頃は洗濯板も何枚も折っておったのう」
「ええ、そうでした」
おじいさんとおばあさんがちょっとさびしそうにそう言って笑い合います。
「それで、洗濯娘を雇って洗濯をやってもらうようになったんでした」
「そうだったなあ」
そう、あまりに洗濯板をボキボキ折るもので、これではきりがないと洗濯娘を雇うことにしたのです。今は住み込みの洗濯娘が3人います。
「そういえば、川べりに座って洗濯していたから足腰ももっと丈夫だった気がします」
そう、あの頃は足元がふらつくなんて全くありませんでした。
人は、運動不足から足腰が弱っていくものなのです。
今のおばあさんの体力は、普通のおばあさんとさほど変わらないという事実に、2人とも呆然としてしまいました。
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