第30話 清き一票を!

「そ、そうかい、た、太郎」

「そ、そうなのね、た、太郎」

「だろ!」


 2人ともなんだかとてもがっかりしてしまいました。

 だって、太郎が一向に自分たちのことを呼んでくれないんですから。

 そして、どうして呼んでくれないのかにやっと気がつきました。


「お互いを呼んだことってあまりなかったですよね、最近」

「そうだなあ、太郎太郎って太郎にばっかり」


 2人の目がきらりん! と輝きました。


「さあさあ太郎や、このおばあさんが抱っこしてあげましょうね」

「あ、ずるい。太郎や、このおじいさんがお散歩に連れていってあげるよ」

「いやいや、ちょっと! 太郎や、おばあさんが、このおばあさんが、おいしいご飯を作ってあげるからちょっと待っておいで」

「おいおい! 太郎、太郎や、このおじいさん、おじいさん、かっこいいおじいさんと一緒に猪でも獲りにいこうかな?」

「もう遅いですよ、今から山なんて。それより太郎、太郎や、かわいいかっこいい太郎や、このおばあさん、おばあさん、やさしくて力持ちのこのおばあさんをよろしくお願いします!」

「いいや、おじいさん、おじいさんです! 次のお言葉はぜひぜひこのおじいさんに!」


 と、なんだかうっとうしい選挙運動みたいに話しかけるようになってしまいました。


 そして、いよいよ投票日、じゃなくて、太郎が次の言葉を口にする日がやってきました!


「だ……た、たろう!」

「おお、ちゃんとたろうと言えている!」

「すごいですよ、たろう!」

 

 おじいさんとおばあさんがパチパチと拍手をすると、太郎は得意そうに一つ胸を張り、


「おじいさんおばあさん!」


 と、2人を続けて、一緒に、いや、一緒くたにして呼びました。


「はい!」

「はい!」


 おじいさんとおばさんは同時に返事をして、


「まあいいか」

「ええ、いいですよね」


 と、同率3位入賞をお互いに称え合えました。


 よかったよかった。

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