第29話 セカンド・ワード

「そ、そうかい、た、太郎かい」

「そ、そうですね、た、太郎なのね」

「だ!」


 やっとおじいさんとおばあさんに自分の言葉が通じたことがうれしくて、太郎は目をきらっきらと輝かせながら、


「だろおおおおおおお!」


 を、繰り返しました。


 考えてみれば無理もないと思います。

 だって、太郎が一番聞いている言葉はおじいさんとおばあさんが呼びかける「太郎」なんですから。

 

 インコちゃんだって、毎日毎日「ピーちゃん」と呼びかけてやったら「ピーちゃん」を一番最初に覚えるのではないかと思います。


「ま、まあな、これは無理もないことだって」

「そ、そうですね、無理もないですね」


 2人は太郎のファースト・ワードが自分の名前の「太郎」だったことをやっとのことで納得させました


「じゃあ、次の言葉はなんでしょうね」

「そりゃあれだよ、おじいさんだよ」

「いいえ、おばあさんですよ」


 と、振り出しに戻る。


 そして2人は次の瞬間、太郎が自分の名前を呼んでくれるだろう瞬間のために、また穴が開きそうなほど太郎を見つめました。

 

 太郎にも分かっていました。

 2人が、自分の次の言葉をワクワクして待っていることに。

 さあ太郎、2人の期待に応えてあげて!


「だろ!」

「うん!」

「だろ!」

「うん!」

「だろ!」


 なかなか次の言葉が出てきませんでしたが、ついに、その瞬間が!


「だろ、かこい!」

「へ?」

「だろ、かあい!」

「え?」

「だろ、かちこい!」

「え?」

「だろ、ひろ!」

「あ、あれ?」


 なんとなくおじいさんとおばさんは理解しました。

 いつも2人が太郎にかけている言葉……


「太郎はかっこいい!」

「太郎はかわいい!」

「太郎はかしこい!」

「たろうはひーろー!」


 そう、太郎が次にしゃべった言葉、それはことごとく、


「自分をほめてくれる言葉」


 でした。


 ちょっとだけナルシストにならないかが心配です。

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