第20話 教育方針

「何を言い出すんだ、いきなり。ひーろーって、おまえ、そりゃ一体どういうことだ」


 おじいさんは驚いて聞き返しましたが、おばあさんは太郎をじっと見つめたまま動きません。


「おじいさん」

「は、はい」


 なんとなくびびっているおじいさん。


「わたしは太郎が来てくれてとっても幸せです」

「ああ、わしもだよ」

「ですが、わたしたちはおじいさんとおばあさんですよね?」

「そうだな」

「太郎が大きくなるまで一緒にいてやることができるでしょうかねえ……」

「あ……」


 おじいさんはおばあさんに言われてハッとしました。


「もしかしたら、この子が自分で生活できるようになるまで生きていてやれないかも知れません」

「おまえ、何を言うんだい!」

「毎日子育てに忙しくて、幸せだ幸せだでごまかしていましたが、本当は分かってました」

「おまえ……」


 本当はおじいさんにもおばあさんが言ってることがよく分かっていたのです。

 ですが、そんな日が来るかも知れないということを考えないようにして、そんな思いにフタをしていました。


「でもこの子は普通の子じゃありません、それがはっきり分かったんです。だからこの子を強い子に育てて、わたしたちに何かがあっても一人で生きていけるようにしてやろうと思ったんです」


 おばあさんはおじいさんをキッと振り返ってもう一度宣言しました。


「明日から、この子が強くなれるように厳しく育てていきます」

「厳しくって、おまえ、どうやって」

「今はまだ太郎は歩くこともできませんから、寝ていてもできる訓練からですかねえ」

「寝ていてできるって?」

「たとえば、寝たまま重い物を持ち上げるとか、そういうところから始めましょう」


 翌日から太郎の筋トレの日々が始まった。

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