第10話 子育てと家事

 おばあさんはいつものように洗濯物が入ったカゴを、背負おうとして、


「あらあらそうでした」


 背中には桃太郎を背負っているのでカゴを背負えません。


「どうしたものか」


 考えて、カゴは前に抱えるようにして両手を通しました。よくじゃんけんで負けた小学生が他の子のランドセルを背負う時にやるスタイルです。


「これでいけまちゅでちゅね~」


 相変わらず桃太郎に話しかける時には赤ちゃん口調になるおばあさんです。


 いつもの道のり、いつもの川、いつもの洗濯のはずですが、やっぱり赤ん坊一人抱えるといつもより大変です。


「やれやれ」


 背中に桃太郎を背負ったまま、腰を屈めて洗濯するのは結構な大仕事。


「ふう……」


 おばあさんはいつもだったら続けて終わらせるはずの洗濯を、今日は休み休みやりました。

 何回か休んで、やっといつもの洗濯をやり終えました。


「さてさて、今度はこっちでちゅよ~、っと」


 次は桃太郎のおしめです。

 いきなりやって来た赤ん坊、出産準備など何もしていなかったので、とりあえず手ぬぐいや古い布をおむつの代わりに使ってました。それも洗濯しなくては。


 ばしんばしん。

 おばあさんはいつものように大きな石の上を洗濯板代わりにして、汚れをさっと流したおむつも叩いてきれいにしていきます。


 おばあさんは洗濯が好きです。

 汚れていた物をきれいにするのは気持ちがいい。

 特に、おじいさんとケンカした翌日などは、おじいさんに対する鬱憤うっぷんを洗濯物にぶつけて、文句を口にしながら洗濯をします。そうしてる間にすっきりして、帰る頃にはもう腹が立ったことなんて、すっかり忘れてしまうのです。

 長く夫婦をやるコツです。

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