第11話 子育てグッズ

「ただいま」

「おかえりなさい」


 そうしておじいさんとおばあさんの子育て初日の夕方を迎え、市に行っていたおじいさんが帰ってきました。

 おじいさんは桃太郎の子育てのために必要な物を色々と買って帰ってきました。


「大変だったでしょう、重かったでしょう」

「いやいや、おばあさんこそ一人で太郎の相手、大変だっただろう」


 やっぱりおじいさんにも太郎と短縮されて呼ばれています。

 桃太郎と名付けた意味があるんだろうか。

 ま、いいか。


「これはおむつにする生地だろう、それから赤ん坊のおべべ、それからこれは、あれは」


 おじいさんが色々と並べてくれておばあさんもにこにこと見ていたんですが、


「あら、あれがありませんね」

「あれ?」


 年を取ると「あれ」や「これ」や「いつもの」と呼ばれる物が増えます。


「あれですよ、あれ」

「ああ、あれか」


 そして夫婦の間ではそれで通じるから不思議です。


「ちょっと待っておれよ」


 おじいさんはちょっと家の外へ出て、そして一本の縄の端を持って家に入ってきました。


「めええええええええ」

「あら、めえめえさん!」

「そうじゃ、赤ん坊にはヤギの乳がいいと聞いてな」

「あらあら、まあまあ」


 昔から赤ん坊のお乳の足りないのには「重湯」を足しますが、それでももっともっと足りない人はご近所の産婦さんのお乳を「もらいぢち」するかヤギのお乳を「もらい乳」することが多いです。


「よくまあ、そんなうまくお乳の出るヤギなんて手に入りましたね」

「そこよ」


 おじいさんはちょっとばかり悪い顔でニヤリと笑いました。

 若い時、いつも真面目なおじいさんが時々やるこの「ニヤリ」にやられた部分もあったな、とおばあさんはふっと思い出していました。真面目な男から垣間かいま見える「ちょっと悪い空気」に女は「キュン」とすることもあるのです。


「その人はな、ちょっと家族に病人が出たとかで、新鮮な猪肉ししにくを探してたんだよ」

「あらあら、まあまあ」

「それでどうしてもわしの持ってる猪肉がほしいと言うんでな、それと交換したというわけじゃ」


 聞いてみたら全然悪い空気のかけらもない、逆にいいお話でした。

 ちょっとだけ「キュン」としたことが損した気がする。 

 なんでそんな顔して笑った、おじいさん。

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