第9話 子育て開始

 翌日、早速おじいさんは山を下りて町の市へ買い物に、おばあさんは慣れない子育てをすることになりました。


「いってらっしゃ~い」


 おばあさんが体を斜めにして、背中の桃太郎から出かけるおじいさんがよく見えるようにして、そう言いました。


 おばあさんは桃太郎が落ちたりしないように、大事にしていた博多帯でしっかりおんぶしました。博多帯は幅広で生地に厚みがあって締めたら緩まないという特徴があります。赤ん坊をおんぶするにはもってこいとこれを選びました。

 ちなみにこの帯は、まだ若い、二人が出会った頃におじいさんが剣術の稽古をしていたので、重い刀を差すために使っていたものです。物は古いですが、趣味の物にお金を使うのを惜しまないタイプだったもので、年数が経ってもしっかりとしていて、使っていたので適度になれているため、おばあさんの肩にもやさしいおんぶ紐になりました。


「さてさて、それじゃあまず、川に洗濯をしに行きまちょうかね~」

 

 赤ん坊に話しかけると、どうしても赤ちゃん口調になってしまうのは仕方がありません。


「そうそう、太郎のお弁当も持たなくてはね~」


 命名は桃太郎だったはずですが、すでに省略して「太郎」と呼ばれてしまっています。


 桃太郎のお弁当は昨日の桃です。

 おばあさんは出産していないので残念ながらお乳が出ません。そんな時にはよく「重湯おもゆ」を代わりに飲ませるものですが、残念ながら今はお米がほとんどなくて、二人とも昨日は麦に米が混じったようなご飯でで猪鍋を食べていました。


「桃から生まれたんだから桃でいいんじゃなかろうか」


 おそるおそる桃の汁を飲ませてみたら、んぐんぐとおいしそうにたっぷり飲んで満足していたので、


「とりあえず桃でいいか」


 と、桃太郎の主食にすることになったのです。

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