ゼダの紋章 なぜなに質問箱 Part5 第一回生態解析編

主宰しゅさいライザー・タッスルフォート(以下、砦の男)「満をしての俺の登場」

軍師ぐんしアリアス・レンセン(以下、軍師)「さらに満をす主人公格軍師アリアス参上っ!」

ジョセフ・バーンズ解剖医師(以下、ジョセフ)「そして私こと、エウロペア医学界の革命児となる難民キャンプ医師改め、龍虫の解剖生態かいぼうせいたい調査班担当医ジョセフ・バーンズ」

女皇正騎士マグワイア・デュラン医学薬学博士少佐(以下、マギー)「最後が紅一点となる女皇騎士団騎士長で女皇サマの御典医ごてんいの私ですわね」

軍師「正に納得なっとくの人選ですね」

ジョセフ「このメンバーなら何を話すかもはっきりしてますな」

マギー「逆にこのメンバーで他に何を話せと?」

砦の男「解析という意味でのネームド、ネームレス、ハイブリッドの違いと龍虫の話に決まってるわな」

軍師「もう、さくさく行きましょう。そもそもメロウの規定きていしたネームドとネームレスの違いからです」

ジョセフ「解剖学的には大差ありません。それは治療にあたる我々、医師や医務官たちが把握していますが、違いはほとんどないです」

マギー「ネームドとネームレスの違いは、まずは意思伝達手段ですね」

砦の男「劇中でも出てくるけど、言語で会話するのがネームドで、思念信号波で会話するのがネームレス。両方やれるのがハイブリッド」

軍師「まだネームレスコマンダーが出てきてないのですが、《虫使い》ネームレスたちは長い耳を持つのが外見上の最大の特徴です」

ジョセフ「いわゆるみたいなのがネームレス」

砦の男「思念信号波の送受信に必要なので耳が発達している。もう一つの外見的特徴が顔が平坦へいたんとらえどころがないということだな。ネームドと違い、ネームレスは個体を組成そせいするナノ・マシンが不安定なのだな」

マギー「なるほど、中間的存在というハイブリッドたちが“ネームドの顔を奪える”というのは物理的にも組成そせいナノ・マシンの安定度を操作出来るってことですわね」

砦の男「そういうことだ。ハイブリッドにも二種類居てネームド寄りとネームレス寄りとがいる。ネームレス社会で暮らす上では耳の形がネームドに近い(短い)だけで顔はとらえどころがない。ネームド社会で暮らす上では人体と顔の組成そせいがかなり安定していてネームドとは見た目ではなかなか区別がつかない。そして、ネームドは名前があるだけでなく、顔や身体的な特徴がはっきりしていて個体特定が見ただけで分かりやすくなっている」

ジョセフ「おそらくはその事とナノ粒子りゅうしにも関係があると現時点で考えられます。毒性はないものの異物であるナノ粒子りゅうしがネームレスとハイブリッドにはそれほど悪影響がないのに、ネームドには深刻な健康障害を引き起こす」

軍師「ネームドには血液に耐性因子たいせいいんしがある(騎士因子きしいんし)というのも認知の罠かも知れません。皆がそう思っているけどそうじゃない。真戦騎士ませんきしたちは個体としてネームドの中でも比較的不安定なのかも知れません。だから負傷の回復も早い。覚醒騎士となるといよいよそれが顕著けんちょになる。その意味で思念信号とか情報共有とか個体識別と能力性格の把握はあくとか、擬態ぎたいだとか身体能力の底上げだとか自己治癒じこちゆが可能になる」

ジョセフ「ほほぅ。流石さすがは軍師殿。なかなかするどい指摘ですな。血液内に耐性因子たいせいいんしがあるなら、因子いんしがある騎士たちから輸血すれば特効薬となりますがそうした症例はありません。後天的に因子いんしを増やせる手段はと考えた方がよさそうですな」

マギー「そうね。逆にネームドのなにがナノ粒子りゅうしに悪さされているか?特に影響を受けやすいのが呼吸器と生殖器せいしょくき。症状としては不妊ふにん喘息ぜんそくなどの肺疾患はいしっかん。症状が悪化すると深刻な慢性肺炎まんせいはいえんを引き起こす。それにこれは推測の域を出ないのだけれど、循環器系じゅんかんきけい(心臓と血液循環)にも悪影響が出ているのかも知れない。残念ながら私たちの医学では解剖学かいぼうがくと病理学がまだまだ未成熟なので、心疾患しんしっかんによる死者は明確な死因がよく分かっていない。心停止に至る過程が実はよく分かっていないからです」

ジョセフ「解剖学の権威けんいとしては粒子りゅうしの細かすぎるナノ粒子りゅうしが死者の体内にどの程度まで蓄積ちくせきされているかは、解剖かいぼうしても見た目で判断出来ないのです。だからこそ、ナノ粒子りゅうしの特定が大発見にもなりました」

軍師「つまり、解剖かいぼうしても臓器ぞうきそのものはネームドとネームレスで大きな違いはないのだけれど、ネームレスたちはナノ粒子りゅうし臓器ぞうき内に蓄積ちくせきせずに排泄はいせつされているけれど、ネームドはナノ・マシンが安定している分だけまりやすい?」

砦の男「こうした話こそが俺の言う“人類の叡智えいち”ってわけさ」

軍師「ライザー師匠ししょうは答えを知っているので?」

砦の男「いや、知らん。俺にも全知全能全分野の学識があるわけじゃない。だからこそ、調べようというのに積極的に協力しているのだし、コツコツとした地道な検証を重ねていこうと考えている」

軍師「人として変われないなりに知る努力は続けているってことですか?」

ジョセフ「それでも知見ちけんとして我々にヒントを示している。ライザーさんは未確定の事実そのものの存在は“ナコト写本”や“まことの書”の解析で、過去に観測された現象は示せる。自分の目に見えるものは可能な限りなんとかされようとしている」

砦の男「そっ。俺が龍虫の生体解剖せいたいかいぼう調査班と生態研究班とをジョセフたちと立ち上げたのだって俺にも興味はあるし、調べて結果や標本を残しておきさえすれば、電子顕微鏡でんしけんびきょうみたいな技術革新でなにを調べるべきなのだか分かるってことだ」

軍師「ひょっとしてティルトたちの時代にはナノ粒子りゅうしそのものがなくなる?」

砦の男「アタリ。ないものは調べようがない」

マギー「そういうことか。“虫使い”たちとの完全な共生社会が成立するとナノ粒子りゅうし自体がなくなる」

砦の男「やはりマギーは才媛さいえんと言われるだけはある。実はナノ粒子りゅうし自体の発生原因はわかっていない。龍虫が家畜かちくや野生動物としている分にはナノ粒子りゅうしは発生しないんだ」

軍師「それじゃ発生原因は龍虫戦争?」

砦の男「そうじゃないかとまでは推測されてるが、具体的な事は分かってない。ただ、龍虫戦争発生時はお互いに無茶なことをしている。龍虫の兵器運用と真戦兵ませんへいによる駆逐撃退くちくげきたい。そもそも平和な時代には因子いんしなんかなくても“虫使い”のナワバリにネームドの連中だっておもむいてるが、ナノ粒子りゅうし汚染で死んだなんて話は聞いた事がない。ただ荒廃地こうはいちだな。その荒廃地こうはいちについて“大地を腐らせる”なんて言ってるけど、実際に腐ったわけじゃなくて、ナノ・マシンが正常に機能しなくなっている。ファルツとフェリオの旧国境にある“黒き森”。あれは正に荒廃地こうはいちと正常地の境界きょうかいにあたる」

ジョセフ「それでライザーさんは龍虫の解剖調査かいぼうちょうさをしようと言い出したんですね?」

マギー「荒廃地こうはいちには“虫使い”たちも近づきたがりませんわね。単にナノ粒子りゅうしだけが原因なら彼等が恐れる意味が分からない。むしろ我々ネームドに立ち入れない聖域なので彼等は喜んで縄張なわばりにしますわね」

軍師「ライザー師匠ししょうがいう“荒廃地こうはいちではナノ・マシンが正常に機能しなくなっている”というのなら“虫使い”にとっても脅威きょういです。つまり空気が空気で、水が水でなくなっているなら誰も入れない」

砦の男「おっとこの話はそろそろ保留ほりゅうに。本編内でちゃんと語られるからな。それとある医官の言った“ナノ粒子りゅうしが休眠状態で、龍虫の体内で再起動する”というカラクリは満更まんざらハズレでもない。ただし、“全ての龍虫がではない”となる」

ジョセフ「そうですな。“生贄いけにえの龍虫”こと“黒衣こくいの天使”たち」

軍師「そのことと俺に関係が出てくるとか?」

マギー「文明のない“虫使い”たちが医学に替わるものとして何を利用して傷をやしたりしているかですわね。薬学博士の立場で言うと薬草だけでは到底難しいです」

砦の男「実は俺たちを救う者たちのカラーはほぼ全て“黒”だとされる。“黒”髪の冥王、“黒”衣の天使、漆“黒”のフレアール、“黒”きメリエル、“黒”き仮面の男、“黒”の源真生みなもとまさお、そしてこの俺の正体を指す大暗“黒”天ってな」

軍師「白と黒の秘密ですね?なんか俺にも関係しそうな予感。逆に“白”はそう簡単に扱えないとか?」

マギー「“白”の隠密機動、純“白”のフレアール、“白”痴の悪魔、“白”き救世主・・・確かにそうね」

ジョセフ「なにものにも染まりやすい白に対し、なにものにも染まらない黒ですか」

砦の男「まぁその辺りにしておこうか。キャラクターガイド以上の話はしない。したらせがれに怒られる」

軍師「ネタバレしまくりのアイツがとやかく言わないで欲しいです」

一時休憩いちじきゅうけい

軍師「いやはやこのメンツだから休憩きゅうけいはさめますね」

ジョセフ「理性的なメンバーだからねぇ」

砦の男「ちょ、マギーなにんでるんだっ!」

マギー「“般若湯はんにゃとう”(仏教に詳しい方ならご存じの・・・。じゃなかったらググれ)ですよ。肩こりと緊張をほぐすにはこれが一番」

軍師「俺も少し頂いていいですか?」

マギー「いいわよん。アタシゃ、戦線参加時期の問題からイケメン軍師サマとむ機会が実はあまりないから。アホへーかがアタシをなかなか放してはくれないもんで」

ジョセフ「それじゃあ、私も頂戴ちょうだいして」

マギー「バーンズせんせいもお一つどうぞっ」

ジョセフ「いやぁ、美人のおしゃくで一杯やれるなんて、質問箱に参加して大正解でしたわ」

(ほぼ下戸げこという《砦の男》ライザーの血の気が引く)

砦の男「一時休憩いちじきゅうけいも実は罠だったか・・・」

軍師「ししょー、なに固まってんですぅ」

ジョセフ「いやぁ、至福しふくのひとときでしたわぁ。なにしろ戦線じゃあまり出回ってませんのでねぇ、ライザーはん」

マギー「さぁ、続きをいってみよー」

砦の男「へべれけになったっ払いどもと続きを話せって無茶ブリじゃねぇかぁ!」

休憩終了きゅうけいしゅうりょう

軍師「で、お次はなんだっけかなぁ?」

ジョセフ「なんかどうでも良くなってきましたわぁ」

マギー「生態なんですから、坊や(ディーン)たちの性癖せいへきだとか」

軍師「アイツだって相当溜そうとうたまってるはずなのに、露骨ろこつ我慢がまんしてますよって」

砦の男「やめんかっ!っ払いども」

(ディーン、“フレアール・エンデ”にてさっと登場)

ディーン「生々流転せいせいるてん発動っ!まったくもぅ」

(ディーン、さっと退場。一時休憩いちじきゅうけいまで戻る)

・・・・・・

軍師「いやぁこのメンツだから休憩きゅうけいはさめますね・・・ってアレ?」

ジョセフ「理性的なメンバーだからねぇ・・・っておやっ?」

マギー「疲れたときはやっぱり“般若湯はんにゃとう”・・・ってコレただの紅茶だわ」

砦の男「やれやれ、本当に便利な絶技だ」

一時休憩いちじきゅうけい終了)

軍師「次は龍虫の生態ですか」

ジョセフ「現在確認されている龍虫種はキルアント、トランプル、ストライプス、マンティス、ハウリングワーム、ボウリングビートル、フライアイといったところですな」

マギー「名前の通りですね。大きさは30cm(センチメルテ)から8m(メルテ)程。キルアントはアリ。トランプルは飛べない黄金虫こがねむし。ストライプスがスズメバチ。マンティスがカマキリ。ハウリングワームが芋虫いもむし。フライアイがトンボ。ボウリングビートルがゴキ・・・」

砦の男「マギー、ボウリングビートルはゴキブリじゃなくて小型の甲虫な。ボウリングビートルがゴキブリだと主に食うことになるので気色悪きしょくわるい・・・とある人から怒られた。ハウリングワームは芋虫いもむしだけどアレで成体。分泌液を飛ばしてそれが砲弾ほうだんみたいに色々とぶっ壊す」

軍師「用途別だとフライアイが上空の偵察型ていさつがた。キルアントが偵察ていさつ対人駆逐型たいじんくちくがた。トランプルが先行突撃型。マンティスが打撃型。ストライプスが小型飛行型。ハウリングワームは砲撃型ほうげきがた。ボウリングビートルだけ用途がイマイチわかってません。なんか種類が足りてないなぁ」

砦の男「ボウリングビートルは百鬼夜行ひゃきやこうのオマケみたいなのでウロチョロしてる割に戦力外。つまりはコイツが生贄いけにえ黒衣こくいの天使。美味な上に便利なのと繁殖力旺盛はんしょくりょくおうせいで、龍虫たちの体躯たいく維持に必要な滋養じよう豊富な食用という存在なわけだ」

ジョセフ「というのを我々、解剖かいぼう調査班が解明かいめいするとなるのですな」

軍師「そんなとこですね」

マギー「意外とつまらない」

砦の男「いや、マギーは最前線にまだ来ていないから。意外とデカいので実際に見てみると脅威きょういなのだって。キルアントなんてアリンコとか馬鹿に出来ない体長3mの高機動タイプだよ。トランプルも6m程度のヤツから10m超えの巨大カブトムシみたいなのが出てくるし、黄金虫こがねむしとか言ってるけれど先端に角がある。こんなのにスタンピードされてどっと来られたら、真戦兵の一個師団いっこしだんでもコロっとやられるし、バスランやトレドの城壁だっていつまでつやら・・・」

軍師「他に存在が分かっているのがヒュージノーズ。“長い鼻”だとか呼称されていますが、ほぼドラゴンみたいな一番厄介な巨大飛行型」

ジョセフ「それが脱皮だっぴを繰り返してどんどんデカくなるって聞くとゾッとしますな」

砦の男「あとはセンチピード。つまりはムカデな。まだ個体自体が確認されてないけれど、《金色の乙女》が多分連れて来る」

ジョセフ「“風の谷のナウシカ”の王蟲オームみたいなのまで出てきそうですね」

砦の男「キングワームな。アレも個体確認数が今のところ少ない。数での脅威となるとローカスト。早い話、バッタだけど食欲旺盛しょくよくおうせいな上に飛ぶからなぁ」

軍師「ローカストはなんでまだ出てきてないのでしょう?基本的にアイツらが機動先行部隊になる筈なのですが、それが不思議で」

砦の男「本職のネームレスコマンダーが来てないからだろ。なにしろ2、3匹なら大したことないけれど、200匹、300匹来られたら正に悪夢だわ。ただし、集まれと命令しても言うこと聞かないから数がなかなか集まらないってとこじゃねぇか?」

ジョセフ「ああ、そういうことですか。思念信号波に割と従順なのとそうでないのがいるんですね」

マギー「騎士でも従順で真面目な人たちとやさぐれて言うこと聞かないのがいるもんねぇ」

砦の男「少し話を戻してネームレスコマンダーとハイブリッドの違い。思念信号波の有効範囲だな。ネームレスコマンダーの思念信号波有効範囲は恐ろしく広い。ハイブリッドはせいぜい全方位500mから1500m」

ジョセフ「全方位となるとハイブリッドでも広いですな」

軍師「なんか第4幕以降の伏線内容が多いような気が・・・」

マギー「あたしの婚約者(放浪子爵)が暗黒大陸に偵察に出向いてる筈ですけど」

砦の男「そのうちクシャ公のしてる事だって分かるってば」

ジョセフ「それじゃあ新種龍虫の出てくる続きもあるってことですね」

軍師「メルの担当している技術解析編と同様に第2回があるってことで」

砦の男「いきなり酒盛さかもりから始まったなら、今度こそ逃げる。今回はせがれに感謝だ」

軍師、ジョセフ、マギー「えっ?」

砦の男「そんなわけで引き続き本編をお楽しみください」

      (第5回もどうにか無事終了。やれやれ)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゼダの紋章 ガイド編第一弾 永井 文治朗 @dy0524

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る