ゼダの紋章 なぜなに質問箱 Part4 天技と絶技編

オードリー・ファルメ・ラファール夫人(以下、エセル)「なんか名前だけで長っ」

ビルビット・ミラー少佐(以下、エドナ)「過去最大人数か。そして本編にロクに出てない人たちがっ」

剣聖エリンベルク・ロックフォート(以下、エリン)「わし正式には出てないわな」

ティリンス・オーガスタ少佐(以下、破壊王)「ほんで進行はアタシに丸投げですかいっ」

ヴァスイム・セベップ(以下、聖騎士)「ほぼ話に参加しないオーディエンスとして俺が(と言ってるのにちゃっかり主役に)」

剣皇ディーン(以下、剣皇)「むがーっ!(主人公なのになんで猿ぐつわまされてんの)」

聖騎士「剣皇陛下は余計なことまで言いそうなので、オーディエンスとして俺が居ることになりました。つまり俺はディーン陛下の監視役」

エセル「確かに。エウロペア聖騎士頼みましたよ」

エリン「つーか、0代目のわし、3代目のエセル、5代目の冥王に、ラストのエドナねぇ・・・」

エドナ「なんだかカオスだなぁ」

破壊王「まぁ、天技の話をするのに花鳥風月かちょうふうげつのエリン様と抜きもアレなんだと」

エドナ「波乱の予感(的中確率92%)しかしない・・・」

エリン「しかし、なんで“辺境王へんきょうおう”(2代目ファーン=メディーナ)がおらんのさ?絶賛捕縛ぜっさんほばく(または包囲)中のアルフレッド坊やと4代目のカールはともかく」

破壊王「あっ、逃げました。“不肖ふしょう末裔まつえい”(エセル)と“二番目に厄介やっかいな人”(エリン)がいるので、確実にメンツに入る自分の副団長(エドナ)と幼馴染おさななじみ(ディーン)に丸投げしたんです」

エドナ「・・・そういうことね。そもそも僕とエリンは敵だったとはいえ近いです。そして《女皇戦争編》で天技の大量生産をしているそこの“冥王”と“聖女”には手を焼いてます」

剣皇「ふんがぁーふがふが!(なんじゃそらっ!、そもそも天技には“歩方”とか攻撃系でないのが少ないしっ、ビリーのせいでボクたち夫婦は散々だったから。それに本当はエリン様、義母かあさんししょー、ウチの嫁サンで行く予定だった)」

聖騎士「・・・とか言ってます。まっ、俺はともかくケイロニウスが一つ追加したので」

エリン「朧月おぼろづき。確かにあれはまぁよく出来ている」

エドナ「ですねぇ。十六夜いざよいと違い一発技ですけど」

エセル「ウチの上の子(シモン)は常識的ないい子ですが、ファーンさまが一番厄介だとかいう下の子(ルイス)は適当過ぎるのと私の素性を丸裸にしてますので」

剣皇「むがぁ!(そのルイスをボクに押しつけた“義母かあさんししょー”が言うことじゃないっ!)」

聖騎士「・・・だそうです。ちなみに俺も出来の悪い“破壊王”を誰かさんに押しつけられたクチということで」

エドナ「誰かさんって僕かよっ!」

破壊王「出来が悪いとかって会ってもいないのに言うかっ!」

聖騎士「文句はそこにいる《光の剣聖》に言ってください。残りモノには福があるということで、ティニーはアニーさんどころの話ではない幸せをつかみますけどね」

エリン「まぁ、そうだのぉ。ルーシア皇后こうごうとしたっぱ軍人の嫁サンでは比較にならんわっ」

エドナ「最終剣皇さいしゅうけんおうがしたっぱ軍人って・・・ヴァスイムいい加減に黙れっ!」

エセル「エドナが珍しく怒った。私なんて旦那がしがない古本屋なんかに」

破壊王「“非売品”でアンタの日記が置いてあるとかいうトンデモ古本屋なんですけどね」

エリン「そろそろ本題に入ろう。天技とは龍虫大戦当時の特選隊とくせんたい騎士たちだったわしら騎士の技の究極を龍王子エドナが見ていて、こりゃ凄すぎるとなり、ネームドに帰化したあとでそれをまとめようとした。ただし、“伝道書でんどうしょ”であって使える人間が限定されてる陽炎かげろうとか、絶技に相当する傀儡回くぐつまわしやら自分の真・鏡像残影きょうぞうざんえいなんかはせなかった。あと、危険すぎて教えてはマズいアイギスの聖なる盾やら紅蓮剣三閃ぐれんけんさんせんなんかも排除してた」

エドナ「そうですねぇ。基本的に乱用すると誤解を招くものと、魂と引き換えにするとか、あんまり破壊力が高すぎてナノ・マシンがナノ粒子化しちゃうのはちょっとねぇ。そんなわけで天技は絶技への境界線なのです。大筋で理解していたのはディーンとルイス。そして僕は基本的に《砦の男》(ライザー)と話し合って決めていたというのが真相です。ライザーさんが名付け役で、主な推薦者すいせんしゃが冥王と聖女。彼等も技の発掘掘り起こし役です」

エセル「指南書にある汎用性はんようせい天技は私が消えてしまったエリン様にかわってエドナに見せました。《白痴の悪魔》誕生以降である21周回から続く《アリアドネの狂気》こと《オリンピア攻防戦》に参戦してた皆のをまとめる意味でも。私がエリン様の影であり、事実上の花鳥風月かちょうふうげつの継承者という意味でも役割を果たしたというわけです。花鳥風月かちょうふうげつの天技に関しては基礎をエリン様が残したという話は番外編内でライザーが語っていた通りですわね」

聖騎士「メモメモ・・・。あとでケイロニウスにも教えてやろう」

破壊王「それをネームレスからネームドに鞍替くらがえしたあたしたちも真似ていましたし、けものの天技は私たち由来ですね」

エリン「そうじゃ。わし特選隊とくせんたい騎士として参加してたレイゴール(ミトラ)やリュカインがライアックたちに伝えていたのだ。つまり、天技とはわしら女神由来の剣聖、始祖シンクレア由来かアリアドネ由来のすめらの血を持つ純潔じゅんけつネームドの騎士剣聖たち、龍皇子りゅうおうじとネームレスコマンダーたちの帰化組の集大成ということで、エドナが《天技指南書》にまとめ、それもメロウがセカイ内に永続的に残したという事であるな」

聖騎士「偉大だわやっぱり。天技を愚弄ぐろうしてた傭兵ようへい騎士団にも教えてやりたいわ」

エドナ「でもって、ライザーさんが今回参加してないのは、自分は騎士じゃないからという遠慮と、おそらく質問責めに合うせいだと。ヴァスイムはそこんとこ分かるだろ?」

聖騎士「ですねぇ。俺ら新参しんざんの覚醒騎士たちは間違いなくそうしちゃうし、ベテランさんでもということですね」

エドナ「そして絶技ですね。絶技に関しては才能があるだけではどうにもなんないし、絶技使い同士がうっかり衝突するとメディーナとロイドさんみたいなことになります。幼いディーンが衝突事故で死んでたら二人のトラウマになって神風かみかぜと霧風の舞が封印されてました。絶技は“制約”を理解しているブレーキを利かせられる精神的に成熟した騎士たちが使うべきものだし、基本的に使えないです。現象としてライザーさんが名前は用意するけど、伝道はしない方針」

エセル「使う使わないに関しては自己判断か、先輩覚醒騎士が使用許可を出します。でないと無闇に連発する女狐みたいなアホ娘がセカイを滅茶苦茶にしてしまいますわね」

エリン「エセルは絶技は使わんものな。天技のなめらかな連発攻撃こそが極意ごくいと冥王やアリョーネ嬢ちゃんに仕込んだというわけ。数が使えるより、きわみに近づけることが技の極意ごくいであり、きわみ認定されてるのも、ルイス嬢ちゃんの紅孔雀べにくじゃくきわみ十六夜いざよいきわみ、冥王の勿忘草わすれなぐさきわみなんかじゃな。きわみ天技は破天の巫女や“騎士殺しの悪魔”でもどうもならん」

聖騎士「あー、“騎士殺しの悪魔”を俺がどうにかするってそれのことかぁ。別にどうもしませんけど」

エドナ「ちなみにきわみ認定者は僕とライザーさんの別にいますがな。きわめたと見極みきわめるのはまさに真のモノノフたる“神眼”ということです」

破壊王「使えるか使えないかの判断がアヤしいあたしなんかもまだまだ未熟ってことですか」

エリン「基本的に“天技は剣技なんだ”という認知も罠じゃよ。アリョーネ嬢ちゃんが“鈍器どんき”を好むのも、ルイス嬢ちゃんがえて実戦ではすぐ使い物にならなくなるレイピアを研鑽けんさんに使うのも、冥王が色々な武器で試しているのも、トリエル坊やの“無手むて”も、得意だ好きだでなく、きわみに至るには一番難しいと思えるもので試して技の本質を問うということじゃ。現状で虎砲こほうきわみに一番近いのがトリエル坊や。突入角や修正角で更に威力を上げようと考えている。砲術屋の才能とあわせてみようとしている」

破壊王「さっきからディーンがやけに大人しいのはひょっとして・・・」

エドナ「ああ、本格思考モードに入ってる。基本的に僕とディーンはよく本格思考モードに入ります。あっ、それかぁ対って」

エセル「やっぱり集まって話すと色々と考えることがあるということですわね」

聖騎士「とても勉強になります」

破壊王「それにしてもエリン様って居ないのによく騎士たちを見てますね」

エリン「居ない?オバケじゃなくてわしはちゃんと居るよ。それこそお前さんが飛燕ひえんを長剣でしか使えないと思い込んでいるのをジェラール“嬢ちゃん”にたしなめられている場面もな。それも、天技、絶技を使う騎士たちの思考や想いが龍虫と真戦兵の観測情報として届く場所で他になんもすることがないので見てた」

エセル「やっぱり破壊王が地雷踏んだか・・・。軽率に地雷踏むとこまでアリョーネにそっくり。読心の巫女みこなのに陛下も天然なので」

エドナ「人の想いが集積される場所であめ御柱みはしらでないとしたら同質の存在ということになり、エリン様にゆかりのあるところって・・・」

聖騎士「やめましょうって。エドナさんまで解析しないで」

エリン「そりゃもちろん、純白の・・・」

破壊王「わぁ、ちょっとたんまたんま。ネタバレにも程があった」

エリン「ちなみに覚醒騎士たち、巫女みこ龍皇子りゅうおうじ、ネームレスコマンダーの未来認知の正体な。あれは過去周回の記憶と未来の演算結果の予測領域を垣間見かいまみているのじゃよ。ナノ・マシン情報集積体へのアクセサーこそが覚醒騎士。それと気づいた冥王は生々流転せいせいるてんを完成させたんじゃ」

聖騎士「そういうことでしたかいっ。俺は突然どうかしちゃったのかと思いました」

エリン「聖騎士は可愛いのぉ。第4幕で“その場に居たらわし特選隊とくせんたい抜擢ばってきしてた”と言った破天の巫女みこ嬢ちゃんのアレも正解じゃ。レイスのぼんくらや気取り屋アルフレッドとは比べ物にならんわ。あの一族は自分たちが最高とか思ってる思い上がりの激しい連中じゃからな。同じ血統なのに大失敗と無力感を痛感してたボストークの経験と記憶とを受け継ぐから、お主とナダル坊やはそれじゃダメなんだと分かっている。そして、奈落ならくに落ちていくというイメージはお主のでなく、それも純白のイメージ共有じゃ。冥王と破天の兄妹がお前さんこそが理想の騎士かも知れないと思うわけだ。冥王は剣皇じゃなくて聖騎士になりたかったクチだからのぉ。逆にお前さんは聖騎士でなく初代剣皇だったかもな」

聖騎士「俺ってそんなにスゴいんだ」

エリン「天然に謙遜けんそんしとるとこがまた可愛いのぉ。エドナの試しも、実は天意であって、天に導かれ、天に選ばれて聖騎士になったんじゃ」

エドナ「えっ、僕は散々悩んだのになにそれですよ」

破壊王「そもそもってなんです?」

エリン「天技とはを言う。対して絶技は

エセル「そうですわね。セカイ内の真理に従順なのが天技で、真理に抵抗しヒトの反逆の意思を示すというのが絶技」

エドナ「だからなのかっ。絶技の危険性は度を超しているけど、絶技の反則ぶりの言う反則が真理に対する反則ってことでしたか」

エリン「真理とはルールであり、ルールを守りましょうとお主が率先そっせんして言い出した。自分がルール違反の真・鏡像残影きょうぞうざんえいを持つからであるな。だから光の剣聖なのだとライザー坊やが認めた」

エドナ「それでもルールを逸脱いつだつしてでもなんとかしようと考える人が出てくる。ただし、自分の利益や目先の勝利のためでなく、未来を切り開くとかそうでないとか言って使う。月光菩薩げっこうぼさつ流星剣りゅうせいけん神風かみかぜ、霧風の舞なんかは正に」

エリン「心得違いで絶技を使うと後で必ず後悔する。結果責任が必要になるのが絶技なのだわな。ルール違反への懲罰ちょうばつだったり、セカイの破壊」

破壊王「だから基本的に絶技はから生まれるという事なのですね?」

エセル「そう。私はもう後悔したくないから使わない。私は性格的に絶技を使うのに向いていない。ミトラだってそうよ。真理に従順たろうとしている。それでもなんとかしたいと考えて天技を極めている。その気になれば絶技が使えるのにね」

エドナ「確かに兄さんの連獅子れんじしは絶技でなく究極天技だった」

エリン「百獣の王と呼ばれたライオンこと獅子ししは生命としてはハーレムを作り、めすたちが群れのリーダーたるおすのために狩りをする」

聖騎士「レオ・・・レオハートが獅子心、そして獅子は可愛い子は試練の谷に突き落とす。第4幕で俺の姓がレオンハルトに。しかし、なぜレオハートでなく、レオンハルト?それにライオンの生態がルーシアの実情に酷似こくじしている」

エドナ「ちゃんとそう考えるヤツであり、ルーシアをどう変えるべきか考えるヤツだからこそ、ライザーさんは“レオンハルト”の名をおくった。その中にあるえとかわきを満たすのはおすとして最高の状態の他のおすを倒すこと。そして、倒したおすに復讐されないためには同じおすとして共に歩む道をくこと。与えられたすべてを有益に生かしてこそが真の王者。だから、アウグスト・ブランの娘であるティリンスをお前がめとることになるのも、ハーレムなんて二度と作らないという強い意志。最高のめすがいるのに他を求めるなんて意味がないにも等しい。優しいアルセニアがなにを考えていたかはティリンスがティリンスとして生きていける道。ティリンスの強さはネームレス種の生命力に依存していて、龍虫たちを従えたように、半端者はんぱものの騎士たちを導いている。お前という存在が僕の迷いを消した。そして、僕がその才を愛したティリンスを事実上になるけどゆだねた。女神マーガレット・アテナイが密使みっしとなるティリンスになにをゆだねるかだなんて僕も知らない。お前が執着しゅうちゅくしたフリオニールは聖戦の鍵となる騎士。すべての天技を扱えるというのは僕と同様に天意に従い、ルールに準じて戦うことこそが聖騎士の矜持プライドであり、お前が天技をきわめ、光の王子がフェリオに未来を作り、お前がルーシアに未来を作る。剣皇騎士とはファーバの司祭騎士であり、ケイロニウスも偉大な先達であるリヒャルト・ホーフェンの遺志いしを継ぎ、戦いの後にルーシア初のファーバ枢機卿すうきけいとなる。そして、ルーシアもまたエウロペアだというライザーさんの真意を体現するのはお前になるということだ。それにお前の父がそうと示さず、お前の母がそうと示さず、ツァーリである兄がなぜお前を買ったかだ。セリーナの言う“無償むしょうの愛”をらなかったのは、それに甘えるなという獅子心に他ならない」

聖騎士「うわぁ、責任重大だぁ。つーか、光の剣聖まで俺にそこまで期待しちゃいますか?」

破壊王「マジ?ルーシア帝室ていしつにあたしも入れってのはそういうこと?」

エセル「ルーシアはセカイ内初の社会主義国になりますが、帝室ていしつは残ります。そこまでルーシアを導いたツァーリの血統を重んじたからです。しかし、ヴァスイムとティリンスは政治は素人しろうと。解体したゼダは女皇国を卒業しますけど、“君臨くんりんせずとも統治する”という心意気はやがてはルーシアに受け継がれるってことですわね」

エドナ「やがてはセナもそうなる。社会主義国としてすべての国民を統治とうちするには社会主義国として国民全員が国家のとなるという形に。けれども、大皇帝がつむいできた偉業は引き続きその血脈が維持する。それが本家中国とは違い易姓革命えきせいかくめい(国家には寿命じゅみょうがあって時代ごとに変わるという考え方)を継承しなかったセナの最終形であり、皇帝の聡明そうめいさが国を存続させるというのを卒業する。皇帝がバカでも国民全員ひとりひとりが小皇帝となって国を支えるという心意気はセナの持つ強さだな」

エリン「まぁ、女神たちの願いはそんなところさね。その一方でしゅうまとめた“合衆国”を作るのも元女神の偉業になる。代表者にはならん。なってはいけない。民衆を導く自由の女神こそが真の王。だが、王の不自由さには辟易へきえきしとってだ。誰でもいいからやりたいヤツがやれ、期間限定で制限はもうける。そして、あたしはちゃんと見守ると称したんじゃ。27周回の奇跡じゃな。人間たちはそうやって幾つもの奇跡を示してメロウリンクの審判を待ったのじゃ。だからこそ、まがい物のセカイが人の起こした奇跡の数々で本来の人の持っていた世界とは似て非なるものを作り上げた。それが天意であり、相互理解と相互尊重のカタチだった。だからこそ、アーサーは人々と共に命をかけて守ろうとし、過酷な試練に挑み、メロウリンクと共に白き救世主としてセカイにエンドレスをもたらした。それがこのおとぎ話の醍醐味だいごみさね」

破壊王「なんか天技と絶技の話なのに凄く壮大そうだいな話になった」

聖騎士「それが27×3000年の果てなんだものね」

エセル「だからこそ、ギルバートさまやフィンツは人を試したんでしょうね。人間が人間として輪廻転生りんねてんせいするセカイにおいて、一人のあやまちがすべてを台無しにしたりしないセカイの創造と、なんど失敗してもやり直せる構造。避けられない人の死もまたセカイの持つ優しさという真理。人を形作るのがDNAだけでなく“人の魂”というもう一つの設計図のたまもの

エリン「先ほどの天とはなにかという答えこそが、天とは神ならざる人々の願いの先にある我々が尊重しなければならぬものであり、闘争と相克そうこくゆだねられた我々は天と対峙たいじしてあるいは尊重し、あるいはそむいてでもセカイを守るという意志の力じゃ。真理に背いてでもまごころを守るというのが冥王でなく聖王たらんとするディーン坊やの矜持きょうじであり、聖女とはすべてのヒトを救済しようという嬢ちゃんらしい矜持きょうじなのじゃな。だから“白痴はくちの悪魔”にかわるものとして冥王と聖女をラスボスにしようとしたことが、ヤツらが終末戦争で惨敗ざんぱいした原因。自分たちが完全無欠なんかじゃなく、つけいるすきなんてその親友だったにしたらいっぱいあるし、メリエルを超えるメリエルたる“メロウリンク”にしてもよく分かっておった。嘘つきヘタレとニブチン分からず屋のコピーなんざ、“あたしたちが一番強さと弱さを理解してまーす”と言って送り込んだ者の浅はかさを嘲笑あざわらった。冥王と聖女は送り込んだ張本人のことまで理解しとった」

エドナ「人と人との意志と能力を結びつける“コンバージョン”というのがまたすんごい力です。力の摂理せつりでなく、単に“きずなの力”だというのがまた。僕も皆もその一部でしかない」

エセル「そのために私たちは単なる力でなく、対として呼び合い一つになるきずなの力をみがいたのです。天技あるいは絶技として」

聖騎士「一人の持つ力は単なるパーツでしかない。天技も絶技もまた単なるパーツだということですね?」

エリン「そういうことじゃ。だからこそ、騎士たちあるいは龍皇子りゅうおうじとネームレスコマンダーも欠片かけらを持つだけの存在。発揮はっきする力はどうあれ、それだけでは何事もなしえない。“コンバージョン”してこそ威力絶大なのじゃ」

剣皇「ふがっふふふ(まっ、そういうことです)」

エドナ「ディーンの生々流転せいせいるてんってマサカ?」

エリン「究極の絶技だな。お前さんの真・鏡像残影きょうぞうざんえいは人の認知をいじるという記憶改竄きおくかいざんや認知の改変と敵味方の識別しきべつ書きえに過ぎぬ。しかし、“生々流転”は場所と時間跳躍じかんちょうやくが可能で過去の出来事と未来の出来事に干渉し改変可能だという究極の反則技。だが、冥王は自分だけの力に頼らず、真戦兵や堕天使徒だてんしととの連携れんけいと、真巫女まなみこの持つ集積記憶へのアクセスにより、ナノ・マシンへの負担のない技として作りあげたのだ。しかし、それは己が積極的に用いるためでない。たちにゆだねるために研鑽けんさんに身をけずって作った。ナノ・マシンを大量消耗たいりょうしょうもうするというのも未完成だった頃の話であり、その意味するところを知ったらお主も“唯一無二のきわみ絶技なのだ”と理解するじゃろ。そして、ラウンドのMasterシンクレアはいずれはそうした超越者ちょうえつしゃとしての騎士が登場すると予見よけんしておった。だから補助となるものまで用意しておったのだ」

エドナ「それ自体がディーンの後悔から生まれて、なんとかしたいという想いと願いから生み出されたのですか?そしてディーンでなくMasterシンクレアの想定通りだった?補助となるもの?それってマサカ・・・」

エリン「似て比なる《真の書》と《真史》に他ならぬわ。まことの書は《ナコト写本》の記述を集積して作られた戦闘記録の集大成で、真史しんしは人の歩みの真実。周期周回と座標、発生時刻。シンクレアとイスルギがなぜ記録するよう命じたかは生々流転せいせいるてんによる跳躍ちょうやく座標だからよ。そして実際は跳躍ちょうやくはしておらず、タイムマシンではない」

聖騎士「そんなネタバレしちゃっていいんですか?剣皇陛下を拘束こうそくしてた意味ないし」

エリン「なぁに第4幕冒頭で早速一発目が発動する。実はそこにはわしも関わっておる。わしの話などヒントの一端でしかなく、なぜそんなことが可能かについては物語が終盤に近づくにつれて徐々に明らかになる。《アイラスの悲劇》、《タッスル事件》、《オードリー・ファルメ事件》といった過去の事件の持つ意味。改変は出来るのにしなかった。少しでも改変したら後の時代が変わってしまい結果責任が誰にも負えない。すなわち事件検証のためだけに利用したということよ」

エドナ「本当に恐ろしい絶技なのですね」

エセル「《オードリー・ファルメ事件》ですか?ヒントとして言っておきましょう。私の名をかんする事件であるというのに、実は私は一切関わっていません」

破壊王「えっ?どういうこと」

エセル「オーガスタきょう紋章もんしょう騎士本来の役割とはなんです?」

破壊王「其処そこに居ない陛下の御心みこころあらわす」

エセル「では、貴方のる私であるオドリ・アンドリオン女子爵とは?」

破壊王「数ある陛下の影武者の一人であり、アリョーネ陛下に自由を与える・・・ってあ゛ー!」

エセル「いつどの時点のアリョーネがアリョーネでなく私だったかは永遠の秘密にしておきましたかったのですが、少なくとも《オードリー・ファルメ事件》の真実は明らかにされます。私とアリョーネ、ルイスはとても似ている。アリョーネが私の新女皇家直系で、ルイスが私の実の娘だから。そしてアリョーネがオリビア・スレイマンでなく私を重用ちょうようしたというのも、私の威厳いげんは正に過去に玉座ぎょくざに君臨した女皇エクセリオンその人そのものだったから」

エドナ「うげっ、それじゃ僕等も。女皇騎士団までまんまとあざむかれていたという事ですか?」

エセル「エドナの慧眼けいがんもエキュイムの腕前もたいしたことはありませんわね。まあ、女神と剣皇女皇を見破れというのも無理難題でしょうけれど。盤面にあるクイーンがすり替わっていたとまではさすがの名手たる光の剣聖でも。しかし、トリエルとディーンだけは常にどちらが私かアリョーネかを見破っていました。トリエルは姉弟のきずなで、ディーンは師弟のきずなで」

剣皇「むはは(どうだまいったかい、ベルベ)」

聖騎士「壮大そうだいな話のオチとしてはなんだかなぁ・・・」

エリン「さてわしがいよいよ登場するまでサクっと話を進めるぞい」

                       (無事完。本編に続く)



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