第39話 魔法陣と洗濯機 ガイア1817年9月19日〜

 ジャックが偶然見つけた樹脂の混合物を『樹脂プラスチック』、略して『樹脂プラ』と名付けた。


 ほぼすべての部品をクロームモリブデン鋼で製作途中の小銃を、火薬の爆発に耐える強度が必要な銃身と機関部以外を樹脂プラに変更し完成させた。


「ヒロさん、それが自衛隊時代に使っていた鉄砲ですか?」

「う~ん、少し違うけど、ほぼ似た物が出来たと思うよ」

「それで銃の威力の方はどうなんですか?」

「銃弾自体は今までと同じだから、変わらないかな。この前の三つ目のレッドベアークラスだと使い物にならないね。次は口径を大きくして対物ライフルを作ってみようと思ってる」

「そうなんですね。でも、それを作るのは少し延期して貰って良いですか」

「もしかして?」

「ええ、お待たせしました。ミスリルがやっと入荷しましたよ。ミスリルゴーレム1体分の素材が手に入りました」

「これで魔法陣を教えてもらえるんだ。ありがとう!ケン」


 冒険者ギルドからやっとミスリル鋼が送られてきた。品薄状態が慢性化していて、外部のお客様優先で俺の所にまで回って来なかったのだ。まぁ仕方ない。魔法陣工房を営んでいる人たちにとってミスリルが切れるという事は、ご飯が食べられなくなるという事だ。勉強目的の俺とは必需性が違う。


 ミスリル鋼はユマララプシ王国のダンジョンで、A0のミスリルゴーレムを倒すと手に入るそうだ。昔はミスリル鉱山も有ったらしいが、今では枯れてしまって全て閉山したとか。先日の三つ目のレッドベアーと同じぐらいの強さであるA0のミスリルゴーレムを倒せるパーティーも少ないらしく、供給が間に合わないらしい。当時、Dランクだった俺にはまだ早いと許可されなかった。


 ミスリル鋼と炭と植物油を使って魔法陣用インクを作ると、魔法陣の授業が始まった。


 簡単なものは六芒星の周りに2重に円が描かれ、その円と円の間に共通語で呪文が書かれ、六芒星の中に使用する属性の精霊を示す記号が描かれている。しかも機密性や危険性が高いものになると呪文が漢字で書かれている。

 

「ねえエリザベート、漢字で書いても見よう見まねで書かれたら意味無いんじゃないの?」

「魔法の授業の時、呪文が唱えられても、意味が分かってないと正しいイメージが出来なくて魔法が使えないって教えたでしょ?あれと同じよ。魔法陣を書くときにイメージも書き込まれているから、必要量の魔力を流せる人ならだれが使っても同じ結果が出せるの。だから読めなくても何の問題も無いわ。でも、書き込むときにちゃんと呪文の意味を理解して、イメージする事が出来ていないと魔法陣は動かないの。これで無秩序な複製が防止できるのよ」


 そうだった!この世界に来た時、エリカに呪文を教えてもらって挑戦したけど魔法は使えなかった。耳コピではダメだった!


 その事を思い出しながら羊皮紙に魔法陣を書き込んでいく。いろんな種類の魔法陣を覚えて行った。アイテムボックスの魔法陣を覚えた時はすぐに革で作ってあったウエストポーチに魔法陣を書き込んだ。既にアイテムボックスの属性適正は+プラスになっているので起動も維持コストも最小で済む。俺の作った魔法陣を使ったアイテムボックスならだれでも最小のコストで使えるらしい。これはかなり高価な金額で売れるとナンシーが教えてくれた。本当にここで教わる錬金術や魔法陣が有れば生活に困ることは無いな。

 

 物理や魔法の防御系魔法陣を覚えた時はキャンピングカーにも書き込んだ。金属に刻み込みそこにミスリルを流し込む方法も覚えた。

 

 1番苦労したのが魔石の内側に魔力で魔法陣を描く事だった。想像して欲しい。クリスタルガラスのトロフィーの中に描かれた3Dの彫刻、あれと同じ事をレーザー彫刻機も無しで自分の魔力を指先から細く細く流し込んで魔法陣を書き込めというのだ。それもわずか直径10㎜〜20㎜、厚さ5㎜~10㎜に加工した魔石に……


「エリザベート、なんとか魔石の中に魔法陣を書いてみたんだけど見てくれるかな?」

「ええ、良いわよ。あら駄目ね。これ、横から見てご覧なさい。魔法陣が波打ってるわよ。この先、多重構造の魔法陣を描く時に干渉して動かなくなるわよ」

「魔石が小さい分、魔力の出力調整が難しいわ。なんかこう、紙に書いてある魔法陣をコピーして縮小した物を印刷する様に出来ないかな?」

「あら、ヒロ、とんでもない魔法でも開発する気?」

「そんな簡単に出来ないと思いますよ……」


……


 ハイ、1か月掛かりましたが出来ました。スキャナーで原稿を読み込み、レーザー彫刻機で書き込むイメージを基に色々試行錯誤していたら出来ました。魔法の名前は「コピペ」にした。コピーしてぺったんの略じゃないよ、コピー&ペーストの略だ。


 

 何種類もの魔法陣を作っていく。最後の課題は1メートル四方もある大きな魔法陣だった。

 

「これは錬金術で使う魔法陣よ。かなり難しいけど、これが作れたら次からは錬金術が楽になるわよ」

 

 大きな魔法陣の中に小さな魔法陣が20個もある。

 

「この小さな魔法陣は?」

「ライブラリーね、よく使う機能がまとめて組み込まれてるのよ。大賢者様がプログラミング言語というのを参考にして作ったって言ってたわ」

 

 錬金術用の魔法陣が完成するのに10日掛かった。確かに魔法陣を使っての錬金術は楽だった。洗濯をする時、洗濯板を使って手洗いするのと全自動洗濯機を使って洗濯するぐらいの違いが有った。そういえば山小屋では電気が無かったので手洗いだったんだよな……


『ナンシー、ちょっと教えて欲しいことが有るんだけど?』

『なんですか?スリーサイズですか?上から『この世界に洗濯機ってあるの?』』

『なんですか?洗濯機って?』

『人が手で洗わなくても自動に洗ってくれる機械だけど……やっぱり無い?』

『無いですし、聞いたことも無いですよ』

『じゃあ、やっぱり洗濯板を使って手洗いしてるの?』

『そうですよ。私が心を込めて毎日洗ってますよ』

『そっか、大変な事をして貰ってごめんね。ありがとう』

『いえ、楽しんでやってますから』


 たらいの中で水を回転させて洗うのはすぐに出来た。ケンが旋盤等の機械類の動力として使っている水属性魔法のメイルストロム渦潮で渦を発生させた。問題は脱水だった。最初はトルネードを使ってみたが側面に張り付くだけで思ったより脱水出来なかった。次に錬金術のセパレイティング分離で水分を分離してみた。カラカラに乾いたが、布で出来た岩のような塊が出来てしまった。解すには、再度水に浸けて数時間必要だった。

 色々条件を変えてテストしたところ、一旦、水を抜き、繊維に80%の水分が残る様にセパレイティング分離した。まだ水分が有るけどシワにならないのが良いとナンシーが主張したのだ。次は温風で乾燥をっと思ったら


『ヒロ様、これ以上私から仕事を取らないでください!』


 と涙目で言われたので断念した。もっと楽に仕事をして欲しかっただけなのになぁ……


 地球の一層式洗濯機を参考に、大き目の洗濯槽にそれよりも少し小さ目の金網で出来た籠を吊り下げた。籠から洗濯物が出ない様に、洗濯槽から水が溢れないように蓋をした。洗濯物と水を入れ、洗剤を入れメイルストロムの魔法陣を起動。終わったら底の排水弁を手動で開けて水を抜き、水分20%分離の魔法陣を起動という物にした。


 ナンシーよりも他のメイドさん達からの反響が凄く、総本部だけで20台の注文が来た。いつもお世話になっているので材料代だけで作ったけど、外部から注文が来たらどうしよう?また、工業ギルドに売ろうかな?


------

毎週日曜に掲載予定です。


会話の「」内は基本地球の言語を、『』内は異世界での言語という風に表現しています。お互いの言語学習が進むと理解出来る単語が増えて読める様になって行きます。


youtubeで朗読させてみました。

https://www.youtube.com/playlist?list=PLosAvCWl3J4R2N6H5S1yxW7R3I4sZ4gy9


小説家になろうでも掲載しています。

https://ncode.syosetu.com/n3026hz/

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

キャンピングカーで異世界放浪 D助六 @dsukeroku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ