第38話 フロスウエスト村 ガイア1817年9月18日
エリカside
今年ももうすぐ秋分の休みが来る。それを過ぎて寒くなって来ると、ヒロと出逢って2年が経つの。言葉を覚えたら村に帰ってくると約束してたのに、まだ帰って来ないよ。新年の日を迎えたら私も15歳になって成人するのに。もうすぐ、ヒロと結婚出来る歳になるんだよ。
ヒロと出逢った時には120㎝無かった身長も、今では155㎝とお母ちゃんより大きくなったし、胸はお母ちゃんより小さいけど、同世代の村の女の子の中では1番大きくなったんだよ。ヒロは喜んでくれるかな?そのうち、お母ちゃんと同じぐらいになるから喜んでくれるよね。男の人は大きい方が好きって聞くし……ヒロも良くお母ちゃんの胸、見てたもんね。
少し前から、お野菜の販売のお手伝いで領都へ行くようになったんだよ。領都に行くようになって、お母ちゃんがかわいいワンピースとエプロンを作ってくれたの。私も頑張ってお花を刺繍したよ。
それにかわいいピンクのリボンが付いたドロワーズも買ってくれたよ。新製品だとお店の人が見せてくれた、腰の紐がゴムっていう伸び縮みする珍しい糸を使った物は高くて買えなかったけどね。
お父ちゃんもゴムのドロワーズが欲しいって言ってたけど、お母ちゃんに却下されてたよ。
それにしても私はヒロのお嫁さんになると決めているのに、周りの人はそれを許してくれないの。最近、正月が来て成人したら結婚しようと言ってくる男の人が増えてきたんだよ。村の男の子だけじゃない。野菜の販売で行っている領都のお客さんも言ってくるの。
私はヒロ以外の人と結婚なんて考えられないのに、なんで分かってくれないんだろう?ザックなんて、ヒロに命を助けられたのに『ヒロさんはもう帰ってこないよ』なんて、なんで言えるんだろう?
総本部って所に行けばヒロに会えるかな?そんな事を考えながら領都から村に帰ると、門番の自警団のおじさんがニヤニヤと私を見て、笑いながら『お帰り』と声を掛けてくれた。なんだろう?普段はあまり笑わない人なのに?
馬車に乗りながら門を抜け、村の中を北に進むんだけど、なんか変だ!
なんで村のみんなが私を見てニヤニヤと笑ってんだろう?なにか変な失敗でもしたのかな?言いたい事が有るんなら直接言ってくれたら良いのに!
私は皆んなの視線にドンドンと機嫌が悪くなって行ったよ。もう、さっさと荷馬車を片付けて家に帰ろう。そして、お父ちゃんのエールを奪って飲んでやる。まだ、舐めた事しかないけど……今日ぐらい良いよね?
十字路を抜け、代官様のお屋敷が大きく見えてきた。その隣の私の家ももうすぐ見えてくる。見え……え?何?家の横に鉄の塊が……私は馬車の荷台から飛び降り、走り出した。夢にまで見てたヒロの馬車が有る!
玄関を力一杯押して家に入る。バンっと大きな音がしたけど気にしてられない。懐かしい模様の服を着た背中。思いっきり抱きつく!
『ヒロ!ヒロ!ヒロ〜!』
もう2度と離れない気持ちで背中から首に抱きつく。あ、懐かしい感触。ヒロが頭を撫でてくれてる。
『もう私、子供じゃないんだよ。キスぐらいしてよ』
首に抱きついたまま、ヒロの顔を覗き込む。
(ああ、この優しい顔が見たかったんだ、私。)
もっとヒロの顔が見たいのに滲んでくる。
『もうこの子は……久しぶりに会ったのにちゃんと挨拶も出来ないのかね?これだから体は大きくなっても子供だって言われるんだよ』
『良いじゃん、お母ちゃん、やっとヒロと逢えたんだもん。体全部でヒロを感じたいの!』
『久しぶりだね、エリカ。ずいぶんと大きくなったなぁ……俺、びっくりしたよ』
『エヘヘ、お母ちゃんより大きくなったよ。それに今度の正月で成人するんだよ。ヒロと結婚出来る歳になるんだから当然だよ』
『ヒヒヒヒロ様!けっけっ結婚ってどういう事ですか?』
声のした方を見ると、やけに胸の大きいうさぎ獣人の女性が居た。この村どころか領都でもこんなに大きな胸の人は見た事がない。
『ヒロ、誰?あの人』
『わたくし、ヒロ様の専属メイドのナンシーと申します。この2年間、
(あれ?なんか私、喧嘩売られてる?)
『ナンシー、この子を含め、この家族は俺の大事な恩人なんだ。特にこの子は俺の1番最初の先生なんだ』
『……はい、申し訳ありません。ヒロ様』
『恩人でも先生でもないよ。私はヒロの婚約者なの!』
『エリカ〜〜〜〜〜!ヒロ、お前ってやつは……表にでろ!』
パシン!
『あんた、いい加減にしなさいよ。まともに喋れなかったヒロが、結婚の約束なんて出来るわけ無いでしょうが』
『レオン、お前って相変わらずだな……』
『うるせえ!エリカとエリノアの幸せだけを考えて何が悪い』
『あんた、仮にも村長でしょ。村の事も考えてよ。そんなんだから村人も代官様も、まずは私の所に相談しに来るのよ……』
『え?なに?そんな話聴いたことないんだけど?』
『ああ!うるさい!夫婦喧嘩なら家の外でやって!私はヒロと話したいんだから!ねえ、ヒロ、この村に住むの?』
『いや、まだ、勉強中なんだ。言葉の方は合格点が貰えたから顔を出しに来たんだ』
『そうなんだ。でも、私、総本部って所でも良いよ。ヒロと一緒に居られるなら』
『エリカ駄目だ!父ちゃん許さないからな!』
『ハイハイ、あんたは黙ってて。エリカ、いつ、ヒロと結婚の約束をしたんだい?』
『え、お父ちゃんもお母ちゃんも見てたじゃない。ヒロが出ていく日に小指と小指を絡めて……やだ恥ずかしい』
『『『いや、言葉を覚えたら村に帰ってくる約束しか』してねえぞ』してないわよ』
なんでヒロと
ヒロside
『ヒロ様、この辺りはダンジョンの近くとは木の種類が違うのですね。私の故郷とも違いますが』
『ああ、この辺りでゴムの木みたいな、何か良い樹液が取れればフロスウエスト村のみんなも生活が楽になるんだけどな。で、ナンシーの故郷ってどこなんだ?』
『結構遠いですよ。ずっと東の方……東の森も越えてエルフの森の近く、海沿いの漁村だったんです』
『エルフの森なんて有るんだ』
『この大陸には2ヶ所ありますね。東は私の実家近く。西はユマララプシ王国のアープルヘイム大森林』
『へえ、もしかしたらエリザベートの実家もどちらかにあるのかな?』
『実家のお話はなされないので分かりません』
『本人が話す気も無いなら聞く必要も無いな』
『私はヒロ様の事をもっと知りたいのですが?』
『そうそう、ヒロさんはあの女の子の事、どうすんの?』
『そうですよ、獣人族は寿命が短いから成人したらすぐに結婚する人が多いんですよ。私なんか20歳の行き遅れなんですから、ヒロ様が責任とって結婚してください』
『ナナナナナンシーさん?』
ああ、ジャックが顎の外れたモアイ像に成ったよ。
『俺は今のところ、誰とも結婚するつもりは無いかな……』
『この国は第4夫人までは大丈夫ですよ?もっと増やす場合はお妾さんになりますが』
『いや、結婚するつもりは無いと言ってるのに、なんで第4夫人までとかお妾さんとか出てくるの?』
『1人には絞り切れないって悩んでそうで……』
『悩んでねーよ』
『ナンシーさん、僕ならナ『ジャック、樹液が溢れてるぞ。仕事しないなら今すぐGATEで屋敷に送り返すぞ』』
『あ、ごめんなさい』
『おい、それは別の種類の樹液が入ってるって!ああ、混ざったな』
『え?すいません……』
『まあ、良いから空の容器に入れて……あれ?なんだこの反応は?湯葉みたいなのが出来てるぞ』
ジャックが混ぜてしまった容器の表面に出来た、薄い膜を木の枝ですくい取る。均一な厚さでビニールのように見える。試しに
容器を見ると再び膜が出来ている。表面の膜を取るとすぐに次の膜が出来る。取る時間を変えると厚さも変わる。曲げても折れず割れない。手を離すと元に戻る。ナイフの刃で引っ掻いても傷がつかない。ナイフの刃を突き立てても曲がるが傷も付かず穴も開かない。切り株の上に置きジャックに思っきり両手剣で斬らせてみる。すると下の切り株は割れたのに板には傷1つ付かなかった。
『ジャック、これはお手柄かも知れないぞ!ちょっと詳しく調べよう』
『え?ヒロさん、お手柄ですか?エヘ、エヘヘ……』
アイテムボックスから鍋を取り出し、純水を入れそれぞれを
『ジャック、この発見、俺に売ってくれないか?金貨100枚出そう』
『え?え?え?金貨100枚?いや、いらないっすよ。俺は手伝いしてただけなんっすから』
『いや、これは正当な報酬なんだから受け取ってくれ。世の中に発表するかどうかはエリザベートやケンと相談してからになるけど、発表されたら世の中変わるぞ』
『え?そんな凄い事なんっすか?』
『ああ、少なくとも俺が欲しかった物が出来そうなんだ。お前の失敗のおかげでな』
『うぐ、最後の一言……』
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毎週日曜に掲載予定です。
会話の「」内は基本地球の言語を、『』内は異世界での言語という風に表現しています。お互いの言語学習が進むと理解出来る単語が増えて読める様になって行きます。
youtubeで朗読させてみました。
https://www.youtube.com/playlist?list=PLosAvCWl3J4R2N6H5S1yxW7R3I4sZ4gy9
小説家になろうでも掲載しています。
https://ncode.syosetu.com/n3026hz/
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