第36話 暫定Aランク ガイア1817年8月21日

 直径10mは有る岩が、地面と衝突した衝撃で半分に割れている。


 落とす場所がずれたのか……いや、ぐるぐると動き回っていたレッドベアーにぶつけたのだから、ナンシーの狙いは正確だった。右足の膝から下が岩からはみ出ているだけだ。岩からはみ出ている右足を触る。まだ、ピクピクと動いている。


 アイテムボックスにレッドベアーを入れようとしたが入らなかった。驚いている俺にトーマスが声を掛けてきた。


『まだ、死んでないんだろうな。だから入らないんだよ』

『嘘だろ?この岩、軽く見積もっても数百トンは有るぞ?それに押し潰されても死なないって……』

『生きている物は入らないんだから死んでないんだよ。お、足が動かなくなった。今度は入るんじゃないか?』

『あ、入った。本当にまだ生きていたのか……先に岩を回収していたら、反撃されていたかもしれないな』

『確実に死んだか確認するのが、冒険者として生き残るために必要なことだ。魔物のランクが上がればしぶとくなるし、体が動かなくても魔法を使ってくるやつも居る。多くの冒険者がそれで殺されている。ジャックもナンシーも気を付けろよ』

『『はい』』

『ヒロ、総本部へGATEを繋いでくれ。こいつを急いで調べてもらおう。新種なのか、特殊個体なのか……。レッドベアーで魔法を使ったことも気になるが、それより額にあった第3の眼が気になる』

『え?額に第3の眼?「手塚○虫先生の漫画か?」』

『なんだ?その「手塚」なんちゃらって』

『ああ、気にしないで。で、俺は背後に居たから見えなかったけど、額にも眼が有ったの?見つけた時には無かったはずだけど』

『魔法を使ってきただろ、あの直前に額が割れて眼が出てきたんだ。その眼が光ったと思ったら、胸の三日月まで光りだして火の光線が襲ってきたんだ』

 

 崖の方を見ると、トーマスの戦っていた場所から崖まで一直線に地面が溶けて固まっていた。まさかブレストから出たファイヤー光線、3万度とか云わないよな?


 総本部にGATEで戻ると地下2階のトレーニングルームでレッドベアーを出した。ルームとは言っているが100m四方は有る広場だ。エリザベートだけでなく、話したことも無い職員もたくさん来た。


『デカいわね。体長6mは有るわよね。二歩足で立つと8m?肩幅は2m弱ぐらいかしら?

ねえ、これって体中の骨が粉々に砕けていない?どうやって倒したの?』

『10mぐらい有る石を20m上に出して、それをナンシーが100トンハンマーで殴って加速させてぶつけてみたんだよ』

『10mの岩?球形だと仮定して体積はV=4/3πr³ だから523㎥。岩の比重は2~3ぐらいだから、2.5で計算すると1300トン。それを100トンハンマーで加速してぶつけられるなんて……可哀そうだね、このクマも……』

『大賢者様、本当に非常識過ぎてかわいそうです』

『ちょっと待ってよ。このレッドベアー、魔法を使ってきてトーマスが殺されそうになってたんだからね。って、ケンって自分の部屋以外にも移動できたの?』

『総本部はダンジョンの中だからね。僕はこのダンジョンのダンジョンマスターだよ。ダンジョンの中ならどこにでも行けるよ。その代わりダンジョンの外は無理なんだけどね』

『そうなんだ。じゃあ、今度一緒にダンジョンに行こうか?』

『行けるけど、実体が無いから見てるだけだよ。話し相手にしかならないし、それならいつもの部屋でも良くない?』

『大賢者様、頭蓋骨以外の骨は全て折れています。解体して見ないと分かりませんが、内臓も全て潰れているようです。ですが、外傷は見当たりません。身体強化された赤毛は1300トンの岩に耐えれたという事でしょうか?』

『黒毛の時は銃弾で傷付けられたけど、赤毛に変わったら弾かれたんだよね?』

『そうなんだよ。刀で斬り付けても、ジャックが両手剣で斬り付けても赤毛に阻まれてダメージを与えられなかった』

『トーマスの展開したシールドも一撃で壊されたんだよね』

『はい、鉤爪に一撃でやられました』


 大賢者であるケンが居る為か、トーマスは執事モードの畏まった口調で答えている。

 

『魔法も使ったんだよね?』

『はい、額が割れて第3の眼が出て来たと思ったら、胸の三日月から火属性の光線を放ちました』

『光線の当たった場所は、土や岩が溶けて溶岩のようになってたよ』

『額が見える様に動かせるかな』


『う〜ん、これは眼球じゃ無く魔石だね。こんな所に魔石が有るのも珍しいなぁ。もしかしたら胸にも魔石が有るかも……』

『大賢者様、一匹の魔物に2個の魔石ですか?そんな魔物なんて聞いた事はありませんが』

『うん、僕も聞いたことないね。でも、胸以外に魔石が有る魔物というのも聞いたことは無いんだよね。ねえ、トーマス、戦ってみた君の感想としては、このレッドベアーのランクはどれぐらいだったの?確か、君のシールドはSランクの魔物じゃないと一撃で壊すことは無理だったよね』

『はい、今まで一撃で壊されたのはSランクのドラゴンだけです。ですから、こいつの攻撃力はSランク相当といえます』

『防御力は?』

『確かに硬かったですが、時間を掛ければ削る事が出来たと思いますので、Aランク相当と思います』

『他に気になった点は?』

『魔法を除けば、攻撃パターンは単調でした。通常のレッドベアーと変わりません。魔法も初見殺しでは有りましたが、事前に知っていたら対処は可能かと』

『そうか、ランクの確定は魔石を調べてからになるけど、暫定Aランクの新種という事で、全支部に注意喚起しよう。エリザベート、頼むよ』

『はい、わかりました』

『それとヒロとナンシー。ふたりはこれの討伐でCランクへ昇格です。ジャックはBランクまであと少しです。頑張って』

『『ありがとうございます』』

『そうなんだ。ありがとう』

『ヒロ様!』

『ヒロさん、Cランクですよ!冒険者として一人前と認められたんっすよ。感動するところっすよ』

『いや、別にランクに拘りとか無いから……』

『『ヒロ様』さん』


某所side


『猊下、冒険者ギルド王都支部にこのような連絡が有ったようです』

『レッドベアーの新種。三つ目で火魔法の光線を出す。本国より取り寄せた新種の魔物じゃな。そうか、もう暴れたか。で、奴らはどれほどの被害を受けたんじゃ?』

『それが、あっさりと倒されたようで……被害が有ったとは聞いていません』

『なんじゃと?Sランクの魔物を開発したと言っておったじゃろ?それがあっさりと倒されたのか?

 あのくそエルフだけでなく、研究所の奴らまで儂を愚弄するのか?状況を詳しく調べろ。それを持って本国に一度帰国する。わしを騙した研究所の奴らの首を刎ねてやるわ』


ヒロside


「なあ、ケン、あの新種のレッドベアーがAランクということは、あれより強くて硬い魔物が居るって事?」

「居ますね、ドラゴンとか硬いですよ」

「ドラゴン……ナンシーが言ってたな、この近くにも居るんだって?」

「ええ、居ますよ。バルーンドラゴンといってフグみたいに膨らむんですよ。その膨らんだ状態で空に浮くんですから面白いですよ」

「面白いって……ケン、倒したの?」

「ドラゴンってなわばりに入らなければ襲ってこないので、こちらから刺激しなければ戦う必要も無いですよ。時々ドラゴンスレイヤーの名前を欲して挑むバカが居るけど、みんな死んでますね」

「あれ?トーマスが一撃でシールドを壊されたって言ってたけど……つまり、彼はSランクの魔物と戦ったことが有るってことだよね?」

「彼の場合は別の依頼でたまたま近くに居て、ドラゴンに挑んだパーティーを救おうとして間に入ったらしいんですよ。でも、一撃でシールドを壊されて吹き飛ばされたらしくて。その吹き飛ばされている間に、無謀なパーティーはブレスで全滅したらしいですよ。そして、そのドラゴンはトーマスには手を出さずに巣に戻ったとか」

「トーマスってSランクだよね?それでも何も出来なかったの?」

「魔物のランクは魔石の含有魔力量を目安に決められていて、人のランクはAランクまでは、8人パーティーでそのランクの魔物を倒せる実力かどうかで決められているんですよ。それと違ってSランクは名誉職っていう感じですね。実際にSランクを倒したことが有るどうかじゃなくてね。この500年で僕のパーティー以外にSランクの魔物を倒した人も居ないしね」

「え?ケンはドラゴン倒したの?」

「このダンジョンのラスボスがアースドラゴンだったんですよ。空を飛べない代わりにとにかく硬いトカゲでした。エリザベート達と8人で挑んでどうにか勝てましたが、Sランクでも最弱のS5でしたね」

「今回のレッドベアーより硬かったの?」

「土属性魔法に長けていたせいか、皮膚はアダマンタイトの鱗に覆われていて、牙や爪はオリハルコンでしたよ。ブレスは大量のアースパレットを飛ばしてくるし、巨大な散弾銃を撃って来る戦車みたいでしたよ」

「戦車……かぁ。そんな魔物がまだまだ居るなら対物ライフルかLAM110㎜ 個人携帯対戦車弾が必要だな」

「対物ライフルはかなり大きい銃弾を使うんですよね?使ったことあるんですか?」

対人狙撃銃M24 SWSは使ってたけど、対物ライフルは無いよ。多分、特殊作戦群に行かないと触れないんじゃないかな。LAMっていうのは……一般の人にはバズーカー砲って言った方が分かりやすいかな?あれの仲間で成形炸薬弾を発射できる無反動砲で、70㎝の鋼板を貫通できるそうだよ」

「70㎝って凄いね。それならSランクの魔物にも有効かも。作成出来ます?」

「いや、まず炸薬やロケットが今の時点では無理だね。魔法陣で再現できると良いんだけど……」

「そうそう、クロムモリブデン鋼が手に入りましたよ。それともう少しでミスリル鉱も手に入りそうって連絡が有りましたよ」

「おぉ、やっと魔法陣を教えてもらえるんだね。それは楽しみだ」


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毎週日曜に掲載予定です。


会話の「」内は基本地球の言語を、『』内は異世界での言語という風に表現しています。お互いの言語学習が進むと理解出来る単語が増えて読める様になって行きます。


youtubeで朗読させてみました。

https://www.youtube.com/playlist?list=PLosAvCWl3J4R2N6H5S1yxW7R3I4sZ4gy9


小説家になろうでも掲載しています。

https://ncode.syosetu.com/n3026hz/

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