第35話 レッドベアー??? 後編 ガイア1817年8月21日

トーマスside


 ヒロが杖で攻撃した後、レッドベアーが木の枝を折り、顔を見せた。


 デカい!


 普段討伐しているレッドベアーより、顔が二回りデカい。ヒロの言う通り立つと8m有るのかも知れない。


 喉にヒロの付けた傷が有るが、2回目、3回目の攻撃は弾かれている。赤黒く変化したレッドベアーには通用しないようだ。喉の傷ももう血が止まっている。


 レッドベアーが姿を隠した。いや、ものすごい勢いで木が揺れている。


 枝が折れ、太い幹がなぎ倒され、こちらに向かっている。あの勢いなら20秒少々でここまで来るだろう。500m近く距離が有ったのに……


 みんなが整地した場所の真ん中あたりで左右に分かれたことを確認して、俺も10m程下がる。盾の魔道具を使ってシールドを発動し、レッドベアーを待つ。足に強化魔法を纏う。奴が森から現れた瞬間に縮地を使ってシールドチャージだ。


 この技は突進してくる魔物に有効だ。相手の速度が速ければ速いほど、相手が重ければ重いほど効果的だ。重さが同じなら、ぶつかる速度が速いほど、その速度差の2乗のダメージを与えられる。まぁ、要は盾でぶつかる体当たりなんだけどな。


『シールドチャージ!』


 奴が森から現れた瞬間、俺は奴にぶつかった。


 パリン


 なに?シールドが破壊された?Aランクの魔物でも一撃で壊せないはずなのに?いや、奴の突進速度が速かったんだ。そしてこの巨体、Sランクの魔物並みの衝撃を生み出したのかも知れない。それよりもなぜ、奴の突進を止められていないんだ?強化魔法を纏った足が地面をえぐり、後ろへ押されている。それも奴の速度は変わっていない。

 普段なら相手を後ろに弾き飛ばし、脳震盪を起こさせるのに……それがダメでも突進を止められるというのに、俺が後ろに押し込まれている?


 体高が3m強、横幅は2m弱、体長は6mはあるだろうか?頭を下げ、頭突きをするようにぶつかって来たんだ。俺は押し返すために再度シールドを展開し、更に足へ強化魔法を……う、奴が更に頭を下げた。俺の臍下に頭を潜り込ませ、下から掬い上げられた。ヤバイ、足が地面から離れる。


 次の瞬間、俺は宙を舞っていた。バック宙をするように2回、3回と回っている。


 大丈夫だ。運が良いことに4~5mくらいの高さまで跳ね飛ばされている。態勢を整えて着地できる。俺は手足を伸ばし回転の速度を落とす。胸を反るように張って回転軸を臍あたりから胸へと移す。更に1回転して両手両足を地面に付けて着地した。しかし、回転の勢いまでは全部殺す事が出来ず、更に地面の上を1回転がった。体を丸め、臍を見るように頭を庇い、右の尻から左の肩へ斜めに回り立ち上がった。


 レッドベアーは俺に向かって突進してくる。よし、ちゃんとヘイトを稼げたようだ。ここからは、奴の攻撃を防ぎながら、みんなが削り倒してくれるのを待つだけだ。俺も奴に向かって走る。ぶつかる瞬間、右に飛び、奴をいなし、左耳にシールドバッシュを叩き込む。


 奴の頭が右に、俺から見たら左に弾かれ、突進を止めた。レッドベアーは右に弾かれた頭を戻す勢いで右腕を叩きつけてくる。クマは肩関節の構造上ストレートパンチは怖くない。怖いのは体をひねって腕を叩きつけてくる、この攻撃だ。重たい腕を振り回し、遠心力で破壊力を増大させる。棒の先に鎖を取り付け、その鎖の先に棘の付いた重い鉄球を振り回し、叩きつけるモーニングスターと一緒だ。


 このクマの一撃は強烈だ。


 2009年9月19日乗鞍岳クマ襲撃事件では、この一撃を顔面に受けた男性の右目がポロっと取れ、歯も失った。顔と頭の骨も数か所折れ、重傷を負った。この時のクマはツキノワグマで体長130㎝程度体重67㎏と比較的小さな個体だったのに、この威力だ。


 鋭い鉤爪がシールドに触れた瞬間、またシールドが破壊された。くそっ、さっきシールドが壊れたのは偶然じゃないという事か。シールドを展開し直す暇も無く、左腕を叩きつけて来た。


 ガリッ


 この世で2番目に硬いアダマンタイトを、ダイヤモンドと同じ硬度を誇るアダマンタイトを表面に貼った特製の盾に傷跡を残すとは、こいつの攻撃力はSランク同等か!?まずい、俺のシールドだけじゃ防ぎきれない。


 『マリア、ストンスキンを頼む』


 5枚の盾が俺の前に展開される。このストンスキンは一撃で一枚ずつ破壊されていくが、単発攻撃なら5回敵の攻撃を防げる。強い攻撃でも、弱い攻撃でも一枚に付き1回防いでくれる。逆に範囲攻撃は1度ですべて剥がされるが……


 レッドベアーは体を左右に振り両手を交互に叩きつけ、鉤爪を体に引っ掛け上から押さえつけ噛みついてくる。これだけでストンスキンが数枚破壊される。俺もシールドを展開し、左右からの鉤爪をストンスキンで防ぎ、上からの噛みつきを下から顎にシールドバッシュで跳ね上げる。

 出来るだけ、ストンスキンが剥がされるのを減らしているが、マリアの詠唱が間に合わない。どんどん、盾に傷が増えて行く。


 あ、ヒロもストンスキンを張るのを手伝ってくれだした。二人で交互にストンスキンを張ってくれれば、安定して抑え込める。


 ジャックが左足を、ヒロが右足のアキレス腱を切りつけているが、逆立っている赤毛が邪魔をして皮膚までまだ届いて無いようだ。叩きつける度に赤毛が少しずつ削れ、破片が舞っている。


 噛みつこうと頭を下げて来るのに合わせて、シールドバッシュを放った後は、ヒロが杖で傷付けた場所に片手剣を突き刺す。ここも周りの赤毛が逆立ち邪魔をする。しかし、少しずつ赤毛を削り落としている。もう少しで傷口まで届く。しかし、レッドベアーが二本足で立ちあがった。身長8mぐらいか?王城の城壁とおなじぐらいの高さだ。通常攻撃では足にしか攻撃は届かない。


『スラッシュ!』


 首を狙って下から剣戟を飛ばす。


 首にスラッシュが当たり、赤毛が削れ宙に舞う。しかし、レッドベアーは動じることなく俺を睨んでいる。そして、レッドベアーの額が縦に割れ、赤い目が出てきた。


 なんだ?


 三つ目?


 そんな生き物がいるなんて聞いた事が無いぞ。やはり、こいつはレッドベアーなんてものじゃない。異常に大きく成長した個体じゃなく、新種だ。三つの目で俺を見下ろしている。額の目が赤く強い光を発して来た。なんだ?胸の赤い三日月も光りだした。


『やばい、魔法だ!』


 レッドベアーが魔法を使うなんて聞いたことは無い。聞いたことは無くとも、実際にこいつは俺に魔法を使おうとしている。おもいっきり右斜め前に転がるように逃げた。


 三日月形の赤い光が俺の居た場所から背後の崖まで一直線に焼いていった。


 逃げる時に足に魔法が掠ったのか、ストンスキンもシールドもすべて破壊された。


 ヒロがすぐにストンスキンを掛けてくれた。俺もシールドを展開し直した。やばい、魔石の魔力がもう無い。既に20回も攻撃を受けてしまったのか。魔石を交換しないといけない。


『ヒロ、シールドの魔石を交換するからスイッチを頼めるか?』


 スイッチとはメインタンクとサブタンクが交代する事だ。強力な敵と長時間戦うとき、タンクが一人では魔力が持たない。それを交代している間にマジックポーションで魔力を補給し、怪我を回復させる。

 ジャックもサブタンクの練習はしているが、この新種のレッドベアー相手では荷が重すぎる。ランクはジャックより下だが、ヒロの方が戦闘全般のセンスが良い。奴なら数十秒ぐらいなら耐えられるだろう。ヒロに視線を向ける。


『はあ?』


 ヒロはマジックボックスからインゴットを取り出して、錬金していた。戦闘中に錬金するなんて何を考えているんだ?いや、ヒロの事だ、何か思いついたのだろう。


『トーマス、スイッチするからフラッシュしてくれ』


 次の瞬間、レッドベアーが目を見開き、口を開き、顔を上にのけぞらせて情けない声を上げた。


『ふぎゃっ』

 

 その目の前にフラッシュを発動させる。あれだけ目を見開いてフラッシュの光を見たら、十数秒は目が潰れるだろう。縮地で崖の際まで下がり、盾の魔石を交換し、マジックポーションを飲んだ。そして、ヒロと再度スイッチ……異様な光景に目を奪われた。

 

 レッドベアーは戦うのを止め、その場でぐるぐると回っている。


 ジャックもマリアも遠く離れてその様子を見ている。


 よく見ると、レッドベアーの尻に鉄の棒が刺さっている。レッドベアーはその鉄の棒を追いかけてぐるぐると回っている。まるで子犬や子猫が自分のしっぽで遊んでいるように……。しかし、レッドベアーの逆立った赤毛は攻撃を皮膚まで通さない。仮に届いても皮膚も硬く槍なんて突き刺さらない。だが、実際レッドベアーに鉄の棒が刺さっている。


『ヒロ、お前か?なにやったんだ?』

『立ち上がると、また、あの光線を出すかもっと思ったから、けつの穴に鉄の棒を突き刺して立ち辛くしてみたんだけど、なんか戦闘どころじゃ無くなったみたいだな』

『ハアアアアアアア?』


 確かに、レッドベアーも他の魔物も尻の穴の周りには毛は生えていない。正確に尻の穴を狙えば、硬い皮膚も意味をなさないだろう。でも、尻の穴なんて狙うか?こんな攻撃初めて見たぞ。俺は呆れた顔でヒロを見つめる。


『爺ちゃんから習ったんだよ。どんな巨漢でも、けつの穴に指を突っ込まれたら身動きが取れなくなるってな』

『お前の爺ちゃんってどんな人なんだよ?』

『ただの猟師だよ。そして俺の武術の師匠。まあいいや。止めを刺そう。さっき回収した岩を上から落とすから、マリア、100トンハンマーでその岩をレッドベアーに叩きつけてくれ』


 ヒロは崖に土属性魔法で階段を作ると、20m程上まで登った。後ろからマリアも付いていく。崖からレッドベアーの真上までジャンプするとアイテムボックスから、整地の時に回収した10mは有る大きな岩を投下した。

 マリアもそれに合わせてジャンプし、思いっきり岩を叩き、地面のレッドベアーに打ち付けた。


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毎週日曜に掲載予定です。


会話の「」内は基本地球の言語を、『』内は異世界での言語という風に表現しています。お互いの言語学習が進むと理解出来る単語が増えて読める様になって行きます。


youtubeで朗読させてみました。

https://www.youtube.com/playlist?list=PLosAvCWl3J4R2N6H5S1yxW7R3I4sZ4gy9


小説家になろうでも掲載しています。

https://ncode.syosetu.com/n3026hz/

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