第34話 レッドベアー??? 前編 ガイア1817年8月21日
ジャックがスラッシュで木を倒してくれたため、下の森が見えるようになった。
ブナの木やクヌギの木の様な落葉樹が鬱蒼と茂り、木々の枝や葉が邪魔になって地面が全く見えない。
『トーマス、あの辺に居るはずなんだけど、まったく見えないな』
斜め下を指差して教えるが、彼らには大体の方向しか伝わらなかった。
『これだけ木が密集して生えてると、囲んで戦闘するのも難しいな。なあヒロ、あの崖崩れの跡まで釣りだして戦おうか?』
トーマスが指差した場所は、レッドベアーが居る場所より北側、俺たちの居る山と西ディアボリモンス山脈が繋がっている場所から少し南側の所だ。西ディアボリモンス山脈側の山肌がえぐれ、崩れ落ち、下に巨大な岩石と土砂が木々を押し倒し、足場は悪いが開けた場所が有った。
『下の土砂は土属性魔法で整地するとして、崖の上に有る岩石はどうする?戦闘中に落ちて来て、崖崩れに巻き込まれたらシャレにならないぞ?』
『俺が山を背にして戦うから、お前らはレッドベアーの背後から攻撃してくれ。崖崩れが始まったら『縮地』で山から離れるからレッドベアーを生き埋めにしよう』
『生き埋めって……。うまく逃げられるのか?』
『この盾には『シールド』が付与されているからな。それを発動しておけば大丈夫だ。Sランクの魔物相手だと一撃で壊されるが、Cランクの魔物と崖崩れぐらいなら余裕だ』
『シールドかぁ。俺も習ったから使えるけど、実戦で使ったことは無いな』
シールドは聖属性の中級魔法だ。込める魔力によって強度は変わってくるが指定した方向(主に前方)に1~2m程の透明な光る盾が出現する。タンクには必須と言われている魔法である。これが360度囲むように出現させた物がバリアーで、上級魔法になる。
『付与してあるって事は、その盾、魔術具か?』
『いや、魔導具だ。C5の魔石で20回使える。タンクはヘイトを稼ぐために、フラッシュや自己ヒールなんかで結構魔力を使うんだよ。それにスマッシュやシールドバッシュとか、攻撃でも魔力を使うからな。タンクが魔力切れを起こしたら、パーティーが崩壊するから使い分けてるんだよ。魔導具なら俺自身が魔力切れしても、みんなが逃げる時間を稼げるしな』
トーマスと話している時、眼下の森の木が不自然に揺れた。
『今、木が揺れたの見たか?あそこにレッドベアーが居る』
『そうか、あそこか。崖崩れの場所まで500mといったところか……よし、釣りだして倒すぞ』
このパーティでの一番の経験者、Sランク冒険者のトーマスの判断を受けて、レッドベアーに見つからないよう山を
崖の下に10m以上ある大きな岩が転がっている。土砂が木々を押し倒し、歪な台形の形に空き地が有る。北東から南西方向へと山脈の崖崩れが起き、山の斜面にぶつかった後、南方向へと向きを変え土砂と岩は流れて行ったようだ。
北から南へ100m、一番北側で幅30m、南側で幅60mといったところか?
一番南側にある、つまり一番下の方に有る巨石をアイテムボックスに入れる。土砂の間からはみ出している木もアイテムボックスに入れる。この巨石が落下する衝撃で崖崩れが起こったのかも知れない。
空き地全体の土砂に魔力を浸透させ、土属性魔法で整地をする。水平には出来ず斜面のままだが、学校のグランドぐらいの硬さに固め、表面の凸凹も均した。これで戦闘中、足を取られることも無いだろう。
『どうだ、トーマス?こんな感じでどうだ?』
『ああ、十分だ。俺が斜面の上でレッドベアーと対峙するから、ジャックは左足首を、ヒロは右足首を狙ってくれ。両足を壊して動けなくなってから上半身の急所を狙おう。ナンシーはバフ・デバフ中心で頼む。まあ、相手はC1クラスだ。大丈夫、お前たちは16層のボス、オークリーダーを倒しているんだ。奴はC3クラス、奴より硬くてデカいだけだ。
南に向かいレッドベアーに近付く。木の上の方の枝が時折揺れている。木に登ってドングリでも食べているのだろうか?
クマは樹上で堅果類(ドングリ類)などを食べる際、枝先まで移動する事ができないため、枝の太いところに座り、結実した枝をたぐり寄せて食べる。その際折れた枝は尻の下に敷き、鳥の巣のような椅子を作る。これをクマ棚という。今、揺れている枝は地上から7~8mの所だ。きっとクマ棚に座って食事をしているのだろう。双眼鏡でレッドベアーを探す。木の上の方はより枝葉が多く見通しが悪い。葉の隙間からレッドベアーを見れる場所を求めて何度か場所を変えた。
『レッドベアーを視認出来た。だけど、なんかおかしいぞ』
『どうした?なにがおかしい?』
『ギルドの話じゃ3mって言ってたよな。それよりかなりデカいかも知れん』
『どういうことだ?』
『胸の三日月を見つけたんだけど、地上から5mぐらいの場所なんだ。でも、ドングリを食べている場所は8mぐらいのところ。つまり、胸から頭まで2~3mあるみたいなんだ』
『ヒロさん、おもっきり手を上に伸ばしてドングリを掴んでいるんじゃないっすか?』
『いや、クマは人間みたいにバンザイは出来ないんだよ、ジャック。上げても頭の上の耳辺りまでなんだ。つまり、レッドベアーは木に登ってドングリを食べているんじゃ無くて、地面から立ち上がってドングリを食べているのかも知れん』
『つまり、立ち上がると8m有ると言うのですか?ヒロ様』
『そうなるな』
『それだけ大きいとなると、Bランクの上位、もしかするとAランクか。俺たちだけじゃ手に余るな。一旦戻って戦力を整えよう』
俺たちのパーティーはSランクのトーマス、Cランクのジャック、Dランクの俺とナンシーだ。Aランク相手では攻撃力が足りない。トーマスの言葉にうなずき、腰を少し浮かせ距離を取ろうとした時、木の枝が折れる音がした。
バキッバキバキ
音のした方を見ると、枝が大きく折られ、折られた枝の上にレッドベアーの頭が有った。獲物を見つけたと、レッドベアーはこちらを見て笑った。
『くそ、見つかったか。レッドベアーの脚の速さじゃ逃げれんな。ジャック、ナンシー、真ん中あたりまで下がれ。ヒロ、杖で攻撃しろ』
膝立ちでライフル銃を構える。枝が折られたおかげで急所の首が丸見えだ。ゆっくり標準を合わせる暇はない。だが、焦って外したらそれこそ意味はない。一回深く鼻から息を吸い、口から息を出す。吐き切る前に息を止め、トリガーを引いた。
レッドベアーの首に弾丸が吸い込まれるように当たり、小さな穴が開いた。しかし、レッドベアーは倒れなかった。倒れなかったというより、射撃の衝撃でわずかに首が後ろへ仰け反っただけだった。穴から赤い血が一筋流れる。そして、水面に石を投げ込んだように波紋が首の穴を中心に拡がっていく。波紋が通り過ぎた後は黒毛が赤黒い毛に変わり、逆立っていた。
2発目、3発目を打ち込む。しかし、キンキンと金属音がしてレッドベアーの赤黒い毛に弾かれた。
『ダメだ、赤くなってからは弾かれる』
『そうか、ヒロも後ろに下がってくれ。俺が抑え込んだら、作戦通り、足首を狙ってくれ』
『わかった。気を付けろよ』
また、枝が折れる音がした。見るとレッドベアーが立っていた前の枝がすべて折られている。そして、こちらに一直線に木が揺れている。4つ足になって駆け寄っているのだろう。ものすごい勢いで木々が揺れている。
トーマスも10m程下がり、『シールド』と唱え盾を構える。
木の揺れが一番手前の木に移動した時、トーマスが盾を持つ左手に右手をクロスに当て、腰を落とし『シールドチャージ』と叫びながら縮地を使い、木の間から現れたレッドベアーにぶつかって行った。
パリン
シールドが破壊される音がする。しかし、レッドベアーは勢いを落とさずに前進してくる。
トーマスは再度シールドを展開、足に強化魔法を纏い押し返そうとするが、トーマスの足は地面を削りながら後退させられる。
レッドベアーは頭を下から掬い上げるように振ると、トーマスの身体が宙に浮き弾き飛ばされた。
『『トーマス』さん』『おやじ』
宙で2転3転と飛ばされていくトーマスは、体操選手のように手足を拡げ、胸を張って回転軸を胸に移すと、両手両足を使って四つん這いの状態で着地した。俺たちの居る場所より後方、50mは飛ばされた。
『大丈夫だ。良い場所まで飛ばしてくれた。ここで戦うぞ』
着地したトーマスに向かってレッドベアーは再度突進していく。
トーマスは右に体をずらし、突進をいなしながらレッドベアーの左耳にシールドバッシュ。ようやく、レッドベアーの勢いを止めた。俺たちは戦いに参加する為に駆け出した。
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毎週日曜に掲載予定です。
会話の「」内は基本地球の言語を、『』内は異世界での言語という風に表現しています。お互いの言語学習が進むと理解出来る単語が増えて読める様になって行きます。
youtubeで朗読させてみました。
https://www.youtube.com/playlist?list=PLosAvCWl3J4R2N6H5S1yxW7R3I4sZ4gy9
小説家になろうでも掲載しています。
https://ncode.syosetu.com/n3026hz/
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