第33話 レッドベアー捜索 ガイア1817年8月21日

第32話を加筆修正したところ、文字数が6千文字を越えてしまいました。その為、第32話の後半の一部を第33話に移動させ組み込みました。その為、読んだエピソードがまた出てくるというお見苦しい形になり申し訳ありません。


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 翌朝、幌馬車に乗ったトーマスとジャック、ナンシーに俺は峠を下った後、サガタウンとは反対側、レッドベアーが居るという山脈に向かっていた。夜、食事の時にエリザベートに相談したところ、レッドベアーは人を好んで襲うらしく、急いで討伐した方が良いとトーマス達の仕事を調整してくれた。


 少し行くと平地から林と変わり、勾配がきつくなり馬車で進めなくなった。管理されている林なのだろう、細い林道が整備されていて、大きな切り株が残されている。薪に使う為なのか、落とされた枝が小枝を払われ、積み上げられている。下草もきれいに払われている。


『ヒロ、お前の探索魔法に反応は有るか?』


 探索魔法を発動する。自分を中心に魔力の膜を拡げていく。ダンジョンで鉱石を探すようになって慣れたのか探索範囲が約1㎞まで拡がった。


 俺たちの周辺、半径1㎞には大きな生き物は居ない。


 今度は俺たちの前方180度に限定して魔力の膜を拡げた。約2㎞先まで魔力の膜が届いた。


 この範囲にも居ない。さらに前方90度に限定する。約5㎞、ここにも居ない。


 魔力制御がきつくなってきた。体から汗が噴き出してくる。


 さらに前方45度に限定し、半円を描くように動かしてみた。

 

『10㎞程先に大きな生き物の反応は有るけど、あれがレッドベアーかどうか分らんな。なんせ、会った事が無いから魔紋が分からん。トーマスは討伐したことが有るのか?』

『はっ?10㎞先?』


 トーマスが呆れた顔をして俺を見た。いや、トーマスだけじゃない、ジャックも、ナンシーも、なんか遠い目をして俺を見ている。

 

『ふう、まぁヒロだからと言うしかないか……。討伐したことは何度かあるぞ。普段は黒毛なんだが、戦闘モードに入ると赤毛に変わるんだ。おそらく身体強化魔法を使っているんだろうな。赤毛に変わると硬くて切れなくなるんだよ。さらに皮が切れても筋肉がぶ厚いから内臓や心臓まで刃が届かなくてな……なかなか大変だぞ』

『そうか、じゃあ、やっぱり鉄砲は効かないだろうな』

『あの杖が効かないのか?』

『ああ、俺の持っている銃は鹿ぐらいの獣用なんだ。3mも有るようなクマには、もっと大きくて強力な銃が必要だよ』

『まあ、試しに一度その杖で攻撃してみないか?急所に当たれば体力削れるだろうし、その後はいつも通り俺がヘイト取るから』

『そうだな。見通しの良い場所に獲物が居ると良いな』


 2㎞程奥に進むと林は終わり、森になった。道も林道から獣道に。


『ヒロ様、なんか急に道が悪くなりましたね』

『さっきまでは、里の人が管理してる木の畑だったんだろうな。で、こっからは人の手が入ってない自然の森』

『木の畑ですか?人が植えているんですか?』

『同じような種類の木が等間隔で生えてたでしょ。あれは多分、切り倒した数だけ植えているんだと思うよ。そして、まっすぐ上に伸びるように余分な枝を落として薪に。それと、根元を見て。刃物で斜めに傷が入ってるでしょ?あれは樹液を集めて売っているんだよ』

『樹液なんて売れるんですか?』

『木工錬金術で使う素材だよ。このナイフの柄の木を見て。透明な膜が有るでしょ?樹液から作ったニスを塗るとこんな感じになって腐りにくくなるんだ』

『お屋敷のテーブルみたいです。あれもニスを塗っているんですか?』

『そう、水をこぼしても、すぐには沁み込まないでしょ?』

『おい、ジャック、その木は触らない方が良いぞ。それ被れるぞ』


 先頭で邪魔な枝や蔦を剣で切り、道を開いてくれているトーマスが、横で同じように枝を切っているジャックに注意した。


『え?被れるの?やだな』

『まあ、「漆」が取れる有益な木なんだから……森に入る人が気を付ければ良いんだよ』

『ヒロ、その「漆」ってなんだ?』

『俺の世界と同じ木だったら、高性能なニスが取れる木なんだよ。同じものが取れるかは調べてみないと分からないけどね』

『そうか、一度樹液を集めて調べてみるか?性能が良ければ錬金工房も喜ぶだろうし、里の人も現金収入が増えるから喜ぶだろう』

『面白そうだな。どうせなら「ハゼノキ」や「ゴムの木」も探したいな』

『なんだそれは?』

『「ハゼノキ」は「木蝋」、ロウソクが作れる実が生る木で、「ゴムの木」は俺のキャンピングカーの車輪に付いてる黒い塊、あれが作れる樹液を出すんだ』

『木の実からロウソクが作れるのか?ロウソクって獣脂か蜜蝋からしか作れないと思っていたんだが……』

『蜜蝋と似た感じで煤が出にくく、匂いも少ない。木を植えればその分多く収穫も出来る。蜜蝋より安くて大量に作れるだろうな』

『ヒロ、その「ハゼノキ」を見つけたら教えてくれ。蜜蝋のロウソクを聖♀字正教国が買い占めていて、各地の小さな寺院じゃ購入できないんだ。俺は魔導具の灯りでも良いと思うんだが、どこの寺院も教会も昔ながらのロウソクに拘っていてな……』

『秋になると紅葉するから、すぐにわかるよ。ブドウみたいにひと固まりに赤い実が生って、落葉したら収穫だ。鳥に食われる前に採らないといけないけどな』

『じゃあ、レッドベアーを探しながら、使えそうな木も探そう。ヒロ、お前が頼りだからな。頼むぞ』


 屋敷やギルドではロウソクなんて使ってないのに、何故かトーマスが張り切りだした。意外と信心深い人なんだろうか?まあ、帰り、時間が有ればハゼノキを探してみようと考えながら獣道を進んだ。

 

 レッドベアーらしき反応に向かって山を登っていくと色々な山の幸が有った。栗やクルミ、アケビも有った。アケビは地球より長く20㎝ぐらい有り、バナナに似た感じだった。どれも収穫にはまだ早く青かった。


『お、あそこに「柿」が有るな。あれは「筆柿」かな?あれも今度採りに来よう』

『え?ヒロ、あれを食べるのか?止めとけ、めちゃくちゃ渋くてまずいぞ』

『ああ、「筆柿」は不完全甘柿だから当たり外れが有るからな。ハズレを食ったなトーマス』


 筆柿は一本の木に渋柿と甘柿が同時に生り、外見から見分けがつかない。実の中に黒い斑点が有るものが甘柿で、無いものが渋柿という特徴がある。


『当たりなんて有るのか?いや、昔から誰も食べないぞ』

『でも、熟して下に落ちた渋柿をイノシシや「タヌキ」なんかが食べてるだろ?猿とか木登りが上手な獣は先端の甘いところだけ齧って下に捨てるし。渋ささえ無くなれば滅茶苦茶甘いんだよ。特に皮を剥いて干すとより甘くなるよ』

『ヒロ様、あれをドライフルーツにするのですか?渋さが凝縮されて、より渋くなるのではありませんか?』

『逆、逆。渋みが抜けて、どんなフルーツよりも甘くなるよ。砂糖より甘いくらいだよ。あとひと月ぐらいしたら採りに来よう』


 他にもタラノキや山芋も見つけた。タラは春が旬、山芋は蔓が枯れてからが旬なので、山芋の根元に細く切った布をくくり付けて目印にした。蔓が枯れると根元を探すのが大変なのだ。


『ヒロ待て!その蔓ってムカゴの蔓じゃないか!ムカゴを取っていこう』


 そういうとトーマスは山芋の蔓の葉の根元にある塊をむしりだした。


『トーマス、採るにはまだ早いよ。もう少ししたら触るだけでポロッと取れるように成るからそれまで待とう』

『いや、これを茹でて塩をかけると旨いんだ。エールに合うんだよ。そんな待ってられん』


 目を輝かせてムカゴを集め、小袋に入れて喜んでいる顔は息子のジャックそっくりだった。


『でかい子供だな』

『ふふふ、そうですねヒロ様。遊んでいる時のジャックくんと同じ顔してますね』

『チョット待って!ナンシーさん、おいら、あんなだらしない顔しないっすよ』

『そんな事ないですよ。とってもそっくりですよ、目の輝きとか。『ダンジョンに行こう!』って騒いでるジャックくんとそっくりですよ』



『トーマス、レッドベアーまであと2㎞ぐらいまで来たんだけど、風向きが悪いな』

『ああ、この時間帯は谷から山に向かって風が吹くからな。下から向かうと気付かれるな』

『レッドベアーより高いところまで山を登って、トラバース水平移動した方が良いんじゃないか?』

『そうだな、そうするか』

 

 一旦クマより500mほど高い場所まで登り、横へ水平に移動した。見晴らしの良い場所に出たので周囲を眺め見る。


 自分たちの居る山は西から北東に稜線が走っている。そして3㎞弱のところで北北東から南西に大きな山脈が走っており、そこの中腹に繋がっていた。


『ヒロ様、あそこに見える大きな山脈が西ディアボリモンス山脈です。あの山頂にバルーンドラゴンが居るんですよ。そして聖♀字正教国との国境になっています』

『あの山脈が国境になってるのか……。思っていたより国境に近いんだな。山を超えて攻めてきたりしないの?』

『それは大丈夫です。山脈の上1/3が岩肌がむき出しになってますよね?あそこから上はドラゴンのなわばりになっていて、人や魔物が侵入すると襲われちゃうんです』

『天然の防御壁かぁ……良いな』

『それでヒロ、レッドベアーはどこだ?』

『この斜め下700mぐらいの所に居るんだけど、木が邪魔で見えないな』

『やっぱりそうか。ジャック頼む』

『はーい』


 ジャックが両手剣を抜いて、みんなの前に歩いていく。峰の端まで行くと足場を固める。レッドベアーの方向を睨みながら右足を一歩引き、体を右に捻る。捻りに合わせ体重を右足に乗せ、剣を体の後ろまで引っ張る。そして、目には見えないがジャックの体から魔力が吹き出し、両手剣の刃に纏わり付いていくのを感じた。


『スラッシュ!』


 ギリギリまで巻かれたゼンマイが、一気にそのエネルギーを開放するように剣が左に振られ、合わせて重心が右足から左足へと移動した。


 シュバババババン……ズリ……ズドーーーン


 ジャックの前方に生えていた木が、扇状に20m程倒れた。


『ジャック、今の何?』

『ヒロさんには初めて見せるっすね。両手剣の範囲攻撃『スラッシュ』っす。身体強化魔法と風属性魔法の複合技っす。身体強化魔法の要領で、風属性魔法を剣に纏わせて剣戟で前に飛ばすんっすよ』

『ウィンドウカッターみたいな感じ?』

『ウインドウカッターは直線の攻撃じゃないすか。これは扇状に飛んでいくっす。囲まれた時なんかに便利な技っすよ。片手剣やハルバートなんかの振り回せる刃物だったら、なんでも使えるっす』


 ジャックのスラッシュのお陰で、レッドベアーの居る周辺を上から見下ろす事が出来るようになった。


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毎週日曜に掲載予定です。


会話の「」内は基本地球の言語を、『』内は異世界での言語という風に表現しています。お互いの言語学習が進むと理解出来る単語が増えて読める様になって行きます。


youtubeで朗読させてみました。

https://www.youtube.com/playlist?list=PLosAvCWl3J4R2N6H5S1yxW7R3I4sZ4gy9


小説家になろうでも掲載しています。

https://ncode.syosetu.com/n3026hz/



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