第30話 サガタウン ガイア1817年7月22日~
ナンシーside
日が落ちる直前、町の門が閉まる時間にも関わらず、ヒロ様はGATEを開いてどこかに行こうとしてます。これから暗くなるのにです。
『ヒロ様、どこに行くつもりなのですか?夜は危険です。GATEを閉じてください』
『サガタウンに行くだけだから大丈夫』
『大丈夫では有りません。それにGATEって一度行ったことのある場所にしか行けないんですよね?ヒロ様は行った事あるのですか?』
『無いよ。無いから一度、サガタウンに行ってGATEを使えるようにするんだよ』
『なら、昼間にサガタウンに行けば良いじゃないですか。動物も魔物も夜の方が活動的なのですよ。危険です』
『大丈夫だから、ナンシーは屋敷で待ってて』
『はい、ヒロ様とお屋敷でまったり過ごします』
『いや、自分の部屋で休んでて。サガタウンまで行ったらすぐに戻ってくるから』
『こんな時間に行っても、門は閉まってて入れませんよ』
『分かってるよ。GATEが使えるように一度近くに行くだけだよ』
『だったら昼間に行けば良いじゃないですか』
『目立つから、まだキャンピングカーを使ったら駄目って言われてるんだよね。逆に夜なら出歩いてる人も居ないし、たまにはキャンピングカーも動かさないと調子悪くなるからね。ちょうど良いんだよ』
『キャンピングカーって、あのディメンションホールに置いてある鉄の馬車ですよね?私も付いて行きます』
無理やりヒロ様と一緒にGATEをくぐると、以前ヒロ様たちが聖♀字正教国の騎士たちと戦ったという峠でした。
ヒロ様はディメンションホールを開いて中に入っていきます。当然、私も後に付いて中に入ります。馬車の扉を開けてくれて中に入りました。不思議な馬車です。ソファーが有って、テーブルも有って小さな家のような馬車です。
ヒロ様がエスコートしてくださって、外向きの椅子に案内されました。外の様子がよく見えます。昼間なら景色がよく見えるでしょう。でも、もう夜です。このディメンションホールから外に出たら何も見えないでしょう。
え?なに?幅広の紐で椅子に固定されました。これってSMってやつでしょうか?いきなりアブノーマルな事をするのでしょうか?私、初めてはノーマルの方が……
しかも、この紐……胸と胸の間を斜めに通っているので、いつも以上に胸が強調されてしまいます。やはりヒロ様はお胸がお好きなんでしょうか?
あら、ヒロ様はすぐ隣の椅子に座りました。手を伸ばせばギリギリ届く距離です。え?これは放置プレイというものでしょうか?
小さな鍵を取り出し、丸い取手の下辺りに刺したようです。すると、ヒロ様の前の辺りが光りだしました。赤や青、緑など色んな光がきれいです。え?馬車の前が急に明るくなりました。ディメンションホールの中は明るいのであまり変わりませんが、ディメンションホールの外の道が昼間のように明るくなりました。
『ヒロ様、急に外が明るくなりましたが、ライトの魔法を使われたのですか?』
『あ、その手も有ったか。これはヘッドライトと言って、このキャンピングカーに付いてる照明だよ』
『照明ですか?ものすごく明るいロウソクなんですね』
『ロウソク……まあそんな物だよ。じゃあ動くよ』
話には聞いていましたが、本当に馬が居ないのに動きました。
ヒロ様はすぐに馬車を止め、ディメンションホールを閉じた後、丸い取っ手を握って走り出しました。
つづら折れの下り坂を、取手を右に左に回しながら走っていきます。
あれが手綱の代わりなのでしょうか?不思議です。手綱を引っ張らないのにカーブの手前でスピードが落ちます。ムチを入れないのにスピードが上がります。乗り心地は今まで乗ってきたどの馬車、いえ、ギルドの馬車より良いです。おそらくエリザベート様専用の馬車と同じぐらい良いと思われます。あれは大賢者様が作った、世界で一台だけのスペシャルな馬車だと聞いてます。エリザベート様専用なだけあって、私のようなペイペイのメイドが乗れるものでは有りませんので比べようが有りませんが。
下り坂が終わって平野になると、さらにスピードが上がりました。馬の全力疾走、
サガタウンまで、わずか
『サガタウンまで4km』の看板を見て、ヒロ様は速度を落とし、照明を消しました。
『ヒロ様、なぜ照明を消したのですか?』
『こんな明るい光を放つ、得体のしれない物が街に近づいたら衛兵が大騒ぎするからね。ここからは見つからないように身体強化魔法で夜目を強化してゆっくり行くよ。脅かす為に街に近づいている訳じゃないからね』
『そうですね。きっとギルドに討伐依頼が来ますね』
『それは困るな』
門から2km程離れた林に入り、ディメンションホールに馬車を仕舞い、GATEでお屋敷に帰りました。
ふふふ、ヒロ様との夜のデートは、とっても楽しかったです。
ヒロside
翌日、GATEでサガタウン近くの林へ転移して、林からギルドの箱馬車で街へ向かう。東から西へ続く緩やかな下り坂を進むと、サガタウンが見えてきた。広い堀と5m程の外壁に守られた街は1万人ぐらいの人が住んでいるらしい。低い丘を取り囲むように街が広がっている。丘の上には3階建ての大きな屋敷が建っていた。
『ヒロ様、このサガタウンは王家直轄地で、真ん中の丘の上の屋敷が代官の政務庁舎兼官舎です。3階は王族専用フロアーだそうです。
そして、左手にある代官屋敷より少し低い、白い建物がギルドの錬金工房です。この工房は大賢者様が起ち上げ、亡くなってからはエリザベート様が500年近く手塩に掛けて育てて来た場所です。エリザベート様が乗っている専用馬車も、工房の場所は変わりましたが、ここの工房で作られたそうですよ』
『そうか、500年近い歴史を誇る錬金工房なんだね』
サガタウンの東側に着くと、右に曲がり、堀沿いに町の北側へと向かった。北側には跳ね橋が有り、大きな鉄の門が有った。しかし、近くで見ると外壁が薄い。正門の上しか兵が立てるスペースが無さそうだ。
『ここって国境の街だよね?この程度の防壁で大丈夫なの?』
『この街の南側、国境近くに砦を中心にした王国軍の駐屯地が有ります。そこで戦闘が起きた場合、すぐに街を捨てて北へ、王都方面に逃げるように住民は訓練されてます。その為に南門は小さく、北の正門は大きく造られているそうです』
街に入ると正門の近くにあった冒険者ギルドの前を素通りして、代官屋敷のある丘をぐるっと半周回り込むようにして南側に向かった。錬金工房は遠くからでもすぐに分かった。2階建ての建物の中に1軒だけ4階建ての建物が建っているのだ。
近づくと更に異様さが目立った。錬金工房の1階には色々な店が軒を連ね、間口が30mぐらいある。交差点から交差点まで、全部錬金工房の建物だ。その中のひとつ、武器屋の前で馬車は止まった。
『ヒロ様、こちらです。ジャック、馬車を裏に回して』
『了解、お袋』
『ジャック、いつも言っているでしょ。仕事中はお袋って呼んでは駄目だって』
『は〜い』
『もう、あの子は……申し訳有りません、ヒロ様』
『ハハハ、気にしなくていいよ。さあ、入ろう』
店に入ると八百屋のように斜めに拵えてあるテーブルに大小様々な剣が飾ってある。左右の壁には槍やハルバート等の長物が立て掛けてある。奥の壁には鋼とは色合いの違う金属で造られた武器が並んでいる。どの武器にも共通しているのは、貴族が好みそうな華美な装飾が施されたものが1つもないという事だ。魔導具か魔術具か分からないけど、魔法陣が刻み込まれた魔石が埋められたものは有るが、金銀を使い細かな彫刻を施したものは無い。
『マリア様、いらっしゃいませ。棟梁を呼んできます』
店番であろう30前後の男性が、マリアの顔を見た瞬間店の奥へと走っていった。
少しすると、厚手の木綿の長袖を着て、木綿の黒い腕カバー、体の前面をほぼ全て隠す大きさの革製エプロンを付けた男性がやって来た。身長140㎝ぐらいだが、筋骨隆々とした体躯にヒゲモジャの頭が乗っている。
『マリア殿、お久しぶりですな。そちらの御仁が鍛冶錬金を学びたいという迷い人かな?』
『ご無沙汰して申し訳有りません。ヒロ様、彼が錬金工房の全体の長、棟梁のマイケルさんです。錬金鍛冶師の親方でもあります。
マイケルさん、こちらが今世の迷い人ヒロ様です。大賢者様の客人でもあります』
『ヒロです。色々作ってみたい物が有るとケンに相談したところ、こちらを紹介してもらいました。よろしくお願いします』
『そうか、大賢者様の客人か。分かった。わしに教えられることは何でも教えよう。まあ、立ち話もなんだ。奥へどうぞ』
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毎週日曜に掲載予定です。
会話の「」内は基本地球の言語を、『』内は異世界での言語という風に表現しています。お互いの言語学習が進むと理解出来る単語が増えて読める様になって行きます。
youtubeで朗読させてみました。
https://www.youtube.com/playlist?list=PLosAvCWl3J4R2N6H5S1yxW7R3I4sZ4gy9
小説家になろうでも掲載しています。
https://ncode.syosetu.com/n3026hz/
ニ
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