第29話 鉄鉱石と100トンハンマー ガイア1817年3月9日~
8層に到達してから約1ヶ月後、今度は12層の錫の採掘を目指してダンジョン攻略を進めることに成った。途中の11層では魔力草が採取でき、マジックポーションが作れるらしい。ただ、9層からは4種類のモンスターが最大4匹出現するようになると云う。
『という事で、ナンシー、お前もアタッカーとして攻撃に参加しろ』
『え?という事ってなんですか?私、ヒーラーですよ?トーマスさん』
『この先、Cランク、Bランクに上がりたければ、ヒーラーでも攻撃に参加できるようにならなきゃ駄目だ。モンスターがDランクぐらいなら問題ないが、Cランク以上に成るとHPは増えるし、対物防御も対魔法防御も高くなる。そうすると一回の戦闘時間が長引いて怪我が多くなる。怪我が多くなれば回復の回数が増えて、最後には回復が間に合わず全滅だ。今はSランクの俺がタンクをしているからほとんど回復はいらないが、これが普通のDランクだけのパーティーならそろそろ戦う度に休憩を入れないと魔力が持たないだろう?メイド仲間とダンジョンに潜るときはそんな感じじゃないのか?』
『確かにそうですね……』
『そこで、ヒーラーもバフ・デバフを掛けた後に攻撃に参加すれば、戦闘時間を縮めることが出来る。結果、魔力を節約することが出来るんだ。これが出来なきゃヒロと一緒にダンジョンに潜れなく成るぞ。ヒロならすぐにAランク・Sランクに上がるだろうからな』
『え?それは駄目です!私はヒロ様の専属なんです。私やります!攻撃にも参加します!』
『そっか、じゃあ、この杖をおまえにやる。聖属性と闇属性の効果UPの付与が付いている』
トーマスは1m程のT字型の杖をナンシーに渡した。
『え?こんな高価な物なんて頂けません』
『もう使う奴が居ないから良いんだ。おまえと同じ兎人のヒーラーが使っていたんだが、結婚で引退してな』
『じゃあ、その人の子供に渡してください』
『だから、お前に渡すんだ。お前のお母さんの形見だ』
『え?お母さんの?』
『お前の母親、キャシー……キャサリンとお前の父親ボビーは俺達のパーティ『暁月の灯り』に居たんだ』
『え?そうなんですか?え?え?という事はお父さんもお母さんもSランク冒険者だったんですか?』
『そうだ。キャシーは優秀なヒーラーで優秀なアタッカーでもあったんだ。その100トンハンマーを使って、敵もボビーもぶっ飛ばしていた』
『え?お父さんも?』
『あ……まあ……その……
ボビーが馬鹿やって、キャシーを怒らす度にぶん殴られてた……』
『お父さん……
でも、これ変な形をしてますけど杖ですよね?なんでそんな変な名前がついているのですか?』
『ああ、その持ち手に有る魔石に魔力を流して、起動してみればわかる。これは聖魔法や闇魔法を強化する魔術具なんだが、実は魔導具でもあるんだ』
ナンシーが魔力を流して起動すると、1m程の杖が1.5倍ぐらいの長さに伸び太くなる。頭のT字型のところもぐんぐんと膨らんで行き、直径30㎝長さ50㎝程の樽型に変化した。どこからどう見ても両手持ちの木槌だ。
『きゃっ!なんですか、これは?』
『見たまんま、打撃武器だ。攻城戦やゴーレムで活躍できるぞ。人相手でも鎧の上から殴ってダメージを与えられる。大きくなってびっくりしたと思うが、重量は杖のときと同じ5kgだから非力なお前でも扱えるはずだ』
そう言われ素振りをするナンシー。
『確かに杖としては重いですが、ハンマーとしては軽くて私でも扱えます。でも、こんなに軽いのでは殴っても大してダメージは無いのではありませんか?』
『ふふふ、そう思うだろ?実はもう一つギミックが仕込んであるんだ。インパクトの瞬間に重力魔法『グラビティ』の魔法陣が発動して、最大2万倍の重さに成るんだ。面白いだろ?これで何度ボビーが空を舞ったか……くくくっ』
『そんなの、お父さんが死んじゃいますよ!』
『死ぬわけ無いだろ?殴ってるのはお前の母親だぞ。死なない程度で最大限のダメージを喰らわせるよう手加減してるに決まってる。ボビーが謝れば仕事に影響ない程度には回復してやってたしな』
『それでも……
お父さんは何してそんなにお母さんを怒らせてたんですか?』
『え?いや……
それは娘に教えるようなことじゃないから……』
視線をそらすトーマスを見るナンシーの丸い大きな目が、だんだんと目蓋が下がってきて半目に成る……
『私に言えない事をしてお母さんを怒らせてたんですか?』
『いや、お前が生まれてからは、娘第一で悪い癖も治まったとキャシーも言ってたから……な。そう怒るな』
結局、ナンシーに詰められて洗いざらい喋らされたトーマスだった。彼によるとナンシーの両親は幼馴染同士、友人5人で村を出たが、色々とあって友達達と別れ、二人PTになった。そんな彼らと出会ったトーマス達は二人を誘い、一緒にパーティを組んだそうだ。
母親のキャシーは状況判断が早く、バフやデバフの使い方が上手く、彼女が居るとモンスターの強さが1ランク弱くなる程だったらしい。しかも、兎人族の種族特性を生かした素早さと跳躍力で、止めを刺すのは彼女の100トンハンマーだったとか。
父親のボビーは両手剣使いのサブタンクで、安心して背中を預けられる相手だったらしい。しかも、狼人族の種族特性を生かした伝令役の評価が高く、大規模レイドでは必ず指名依頼を出されていたとか。なんと、彼は時速30kmで7時間以上走り続けることが出来、早馬より早く確実だったらしい。そして、月夜になると攻撃力が倍になるという噂が流れ『ナイトハンター』の二つ名で呼ばれるように成ったそうだ。ただ噂の半分以上が、夜、飲み屋街や風俗街でのハッスルぶりに起因するらしい……
ナンシーが100トンハンマーを使いだしてから、殲滅速度が速くなった。デバフのレジスト率が下がり、バフの効果も上がった。そしてハンマーで瀕死の敵に止めを刺してくれる。まあ、時々目測を誤って地面を叩き、その振動で敵味方問わず、ひっくり返ることが有るが……
……
月に一回、トーマス・ジャック・ナンシーの4人で2層づつ攻略を進め、やっと16層にたどり着いたのは7月になっていた。ようやく鉄鉱石の採取が出来るようになった。
途中、以前ジャックがナンシーを誘ったビックボアの部屋にも行き、美味しい猪肉も堪能した。分厚い脂身はラードを取るからといってきれいに取り去られ、赤身だけを食べたのだが、赤身にも細かい刺しが入っていて柔らかく香りの良い肉だった。食事会にはトーマスとジャックも呼んだのだが、ジャックは泣きながら腹いっぱい食べていた。
きっと、煩悩だけでなく胃袋も掴まれたのだろう……。ナンシーと顔を合わす度に所構わず『ナンシーさん、好きです。結婚してください』と連呼するようになった。いや、それしか言わなくなった……
逆効果だと思うのだが……
手に入れた鉄鉱石をインゴットにする。ほぼ100%の純鉄は電磁石の芯に使うには良いが、柔らかすぎて扱い辛い。なので
例えば炭素0.08%以下の比較的柔らかい鋼から作られるのが釘だ。金づちで叩くと簡単に変形する事から分かるようにかなり柔らかい。これが炭素0.7%で日本刀、炭素0.8%前後になると
炭素量0.1%刻みで鋼のインゴットを大量に作った。ある程度貯まったところで鋼を加工することにした。
まず最初は小手調べで炭素量0.7%の鋼を使って棒手裏剣を何本も作った。長さ約15㎝の
「ケン、こんなの作ったけど、どう?」
ケンに作った棒手裏剣を見せた。
「あ、棒手裏剣ですか?僕も作りましたよ。風車みたいな平手裏剣も作りました。でも、僕には才能が無かったみたいで、投げても刺さらなかったんですよね」
「コツが要るからね。俺は小さい頃から爺ちゃんに教わってたから使えるけど。特に棒手裏剣は矢の様に真っすぐ飛んでくれれば良いんだけど、実際には回転しながら飛んで行くから、ちょうど刃先が的に向かっている時に当たらないと刺さらないんだよね。それで、次はナイフを作ろうと思っているんだけど、今度は鍛造で成形したいと思っているんだ。このギルド本部に鍛冶場とか無いかな?」
「本部にも上の町にも有りませんが、ここに来る途中に寄ったサガタウンにギルドの鍛冶工房が有りますよ。そこで鍛冶錬金のやり方を覚えると良いですね。以前プレゼントした日本刀も、そこで作った物なんですよ」
「あ、その町、多分行った事無いな。聖♀字正教国の待ち伏せに対応する為に、ショートカットして山に潜入してたから……」
「ああ、そうでしたね。では誰かに案内させますね。一度行けば、後はGATEで好きな時に行けるし、丁度良いかも」
「それとクロムモリブデン鋼が欲しいんだけど、こっちの世界にクロム鉄鉱と
「鉱石は見つかってないけど、クロムモリブデン鋼はアーブルヘイム大森林の北側にあるダンジョンで、クロムゴーレムを倒すと手に入りますよ。そこでミスリルも手に入るんだけど、ミスリルより倒し易いから流通量も多いですよ。クエスト発注すればすぐに手に入りますよ」
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毎週日曜に掲載予定です。
会話の「」内は基本地球の言語を、『』内は異世界での言語という風に表現しています。お互いの言語学習が進むと理解出来る単語が増えて読める様になって行きます。
youtubeで朗読させてみました。
https://www.youtube.com/playlist?list=PLosAvCWl3J4R2N6H5S1yxW7R3I4sZ4gy9
小説家になろうでも掲載しています。
https://ncode.syosetu.com/n3026hz/
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