第23話 初めての錬金術 ガイア1816年11月23日~

 シロが魔物モンスター化した事で、シロにはディメンションホールに戻ってもらった。そして、解体の終わった肉や毛皮をアイテムボックスに入れている時に気が付いた。いや、気が付いてしまった……毛皮を入れる時に細かな何かが下に落ちて行く事を。


 落ちていった奴らは大きくても3㎜程度、なのに30㎝ぐらいの高さまで飛び跳ね、戻ろうとしている。


『うわああああ、マリアさん、毛皮をアイテムボックスに入れたら、なんか変なのが出てきた!』

『ああ、ノミかダニですね。アイテムボックスには生きている物は入れれませんので、自然に弾かれ落ちます。転送魔法陣でも同じ事が起こりますよ。解体せずに入れたら、腹の中の虫も出てきますよ。もしかして、ヒロ様は虫が苦手なのですか?』

『いや、苦手ということは無いけど、予想外のタイミングで現れたからびっくりしただけで……』

『ふふふ、良い土産話が出来ました。みんな喜びますよ』

『いや、止めて!お願いします』

『うふふ』


 もしかしたら、失敗を見られたら一番駄目な人に見られたのかも知れないという悪寒に震えながら、残りの素材をアイテムボックスに仕舞った。


 アイテムボックスに収穫物を入れた後も、さらに止血草を採取し、ホーンラビットとゴブリンを狩った。採取はしなかったが止血花や腐り止め草も教えてもらった。フランクフルトみたいな穂を持つがまやドクダミ草だった。蒲はフランクフルト部分雌しべでは無く、その先にある雄しべを取り花粉を集めるらしい。ドクダミ草は花の咲いている時期に採取して、錬金術で油を取り出し揮発しない様に瓶に入れて保管するとか。

 あとでキャンピングカーのPCで調べてみたら、どれも漢方で使う生薬だった。地球でも、直接怪我に塗って止血、飲んで慢性的な出血に使うようだ。という事は、こちらで知られていない生薬を見つけたら皆んなの役に立てるかも知れない。


 帰りにギルドによってクエストの完了処理をする。朝居たウサギ獣人の娘が居たので彼女の前に並んだ。ゴブリンやホーンラビットは魔石以外全部、止血草は30本だけ提出した。

 

『ゴブリンが5体、ホーンラビットが15羽、止血草が30本ですね。あら?魔石はよろしいのですか?』

『魔石はこちらをお願いします』

『あら、F0にE0の魔石ですか!』

『冒険者登録する前に旅してる途中で出逢ったゴブリンの物なんですが、冒険者になる前の物は駄目ですか?』

『いえ、問題有りませんよ』


 にっこりとほほ笑みながら、カウンターの上の素材を丁寧にチェックする。

 

『解体も採取の仕方も完璧ですね。マリアさんの教えが良かったのかしら?』

『そうですね、丁寧に教えてもらいました』

『私たちにも丁寧で優しい方なのですよ。それではゴブリンが10ギル、ホーンラビットは315ギル、止血草が60ギル、合計で385ギル。魔石はF0が8個で64ギル、E0が1個で85ギルになります。全部合わせて合計534ギルとなります』

 

 1ギルが銅貨1枚になるのだろう、銀貨5枚と大銅貨3枚、銅貨4枚を出してきた。半分をマリアに渡そうとしたが受け取ってもらえず、シロの為に使ってとまで言われた。さらにこの先、独り立ちした後に必要になるものだから貯金しておくようにとも言われた。

 

(そうだよな。旅に出るにしても、独り立ちするにしても、先立つものが必要だしな……それにしても、シロ、の方に尻を向けて寝るなよ!)

 

『エリザベート様、ただいま戻りました。本日のヒロ様ですが、ホーンラビットもゴブリンも全部一撃で仕留めていました。シロ殿も素晴らしいですね。猟犬という存在を初めて知りましたが、見事な連携の仕方でした。薬草採取も探索魔法を1回で覚えられて順調でした。それにしてもさすが地球でハンターをしていたと言うだけはありますね、解体もそれは見事でした』

 

 マリアのべた褒めに思わず照れてしまった。そしてシロが魔物モンスター化した事を相談した。が、意外にも


『狼の魔物をテイムして連れ歩いている人も居るから、問題さえ起こさなければ大丈夫よ。大体、犬や狼の魔物なんて可愛いものじゃない。伝説じゃ大昔の迷い人でフェンリルを餌付けした人が居るそうよ』

『え?フェンリルって神獣って言われる、あのフェンリル?この世界にフェンリルって居るの?』

『私は見た事無いし、ギルドにも出現したって報告は無いから、ただの伝説かもしれないわね』

『そうなんだ。でも、餌付けしたっていう事は美味しい料理を食べさせたのかな?』

『そうかもね。そういえば大賢者様に聞いたのだけど、日本って美味しい料理がいっぱい有るんでしょ?』

『いや、この屋敷や伯爵の晩餐会の料理はかなり地球の料理に近いし、野菜等の素材の味はこっちの方が美味しいよ。調味料の種類が日本の方が多いぐらいかな?』


 そうなのだ。フロスウエスト村では塩味だけだったが、このエリザベートの屋敷の料理は色々なハーブやスパイスを使った料理が出てきた。現代知識チートの代表であるマヨネーズもトマトケチャップもこの世界には有るのだ。ホワイトソースやトマトソースを使った料理も何度も出てきた。そしてカレーソースも出てきた。出てこないのは中国や韓国・日本辺りの極東の料理だけだ。そう、お米や味噌・しょう油とは、まだ出会っていない。まあ、キャンピングカーに入れて持ってきたので今のところは問題無いが。


『うちの料理人が作っている料理は、アメリカの迷い人が広めたサンタローザ料理だからね。奥様のメアリーが料理上手で色々教えてくれたの。彼女と出会うまでは塩コショウで焼くか、ハーブを入れて煮るぐらいしか無かったからびっくりしたわ』

『フロスウエスト村では塩とハーブしか使ってなかったのに、村から出たら急に日本に居た時と同じような料理が出て来てびっくりしたよ』

『コショウ等のスパイスは聖♀字正教国からの輸入品で高価なのよ。あの村じゃ買えないでしょうね。サンタローザ王国やユマララプシ王国では育たないのよ』

『それであの国とは縁が切れないんだ……』

『そうよ、残念なことにね』


 ダンジョン以外での薬草採取はシロと2人で行って良いと許可が貰えた。


……

 

 初級ポーションの材料が揃ったので、翌日から錬金術の授業が始まった。


『今日、作るのは初級ポーションと言って、軽微な怪我ならすぐに治せる薬よ。肌の表面、筋肉まで届いて無い切り傷とかね。ニキビとかの出来物とか痔なんかにも効くわね。それ以上深い傷でも、これで傷口を洗う事で出血を止め、化膿しなくなるわ。あとは包帯で傷口が動かない様に固定すれば大丈夫よ。口から飲む事で傷が治るのを早くすることも出来るけど、あくまでも早く治るだけだから、深い傷を負ったら無理せず撤退してね』

 

 道具は鍋とお玉、秤にナイフ、大き目のビーカーに計量カップだ。まず、鍋に水を入れる。


『水をかき混ぜながらピュリファイング純化の魔法を掛けて。呪文は……よ』

 

 ピュリファイングの魔法を掛けると、きれいな水なのにふわっと泡が浮き上がってくる。見えないゴミやミネラル分らしい。泡を丁寧にすくって捨て、ビーカーに移すと純水の完成だ。

 

 次に薬草を2種類、秤にかけて必要な量を取り分ける。止血花の花粉は量ったらそのまま鍋に入れる。こちらは問題無い。問題なのは止血草よもぎだ。

 止血草はナイフでみじん切りにする。包丁と比べて刃元のアゴの部分がナイフにはほとんど無いため、刃全体で切ろうとしても持っている手がまな板に当ってしまい、非常にやり難い。エリザベートは、まな板を使わずに左手に止血草を持って、鍋の上で切り、直接鍋に入れている。日本人の俺から見ると、大雑把で危なっかしいのだが、側で控えているマリアもナンシーも当たり前の顔をしているので、これがこちらの標準なんだろう。俺には真似出来ない。なんとか切って鍋に入れる。この時に大きさを揃えて切ると良いらしいが正直無理だ。キャンピングカーに積んである包丁を次回から使おう。最後に純水も計量カップで量って入れる。


「鍋をかき回しながらディゾルブ溶解の魔法を掛けて。きれいに溶けたらピュリファイング純化の魔法よ」


 ディゾルブ溶解の魔法を掛けると、すっと薬草が溶けて緑色に水の色が変わる。葉っぱだけでは無く、茎や筋等もキレイに溶けた。さらにピュリファイング純化の魔法を掛けて出てきた泡を丁寧にすくって捨てる。

 

「最後にこの腐り止め草ドクダミ草のエキスを10滴入れて、魔力を流し込みながらかき混ぜて」


 言われるように鍋にエキスを入れ魔力を流すと、何故か魔力に抵抗する感覚がする。それを押し込めるように魔力を流すと急に抵抗が無くなり、すっと魔力が吸われたと思うと鍋が光りだした。

 

「はい、完成よ。なにか抵抗されるような感覚無かった?実は魔法陣を使うとその抵抗が無く簡単に出来るのよね。ちょっと待ってね」

 

 エリザベートは眼鏡を取り出して顔に掛けた。


「え?エリザベートって目が悪かったの?」

「違うわよ。この眼鏡には鑑定の魔法陣が付与されていて、マザーにアクセスして情報を教えてくれる魔術具よ」


 鑑定が付与された眼鏡で鍋をじっと見る。

 

「あら、良くてC等級だと思っていたのにB等級とは、さすがヒロね。初級ポーションB等級の完成よ。この品質なら一本160ギルで買い取るわ。A等級なら320ギルよ」

「品質で結構値段の差があるんだね」

 

 空き瓶にポーションを入れるとポーションが10本出来た。今回教えてもらったレシピは10本単位の量のようだ。もっと大きな鍋を使って素材の量を増やすと100本単位でも作れるらしいが、その分必要な魔力が多くなり、途中で魔力切れを起こして失敗する人がほとんどだそうだ。

 

 止血草が有るだけ、続けて初級ポーションを作り続けた。そして先日集まった魔石を虹色にして、初級ポーションと一緒に持って冒険者ギルドの支部に行って換金。無事、シロのテイマー用首輪を購入した。

 

 首輪は指輪とセットになっていて、指輪に魔力を込めると首輪をしている魔物モンスターの行動を制限する物だった。苦痛を与えて無理矢理従わせるのでは無く、力が入らず動けなくする物で安心した。これで周りの知らない人がシロを恐れないで済むなら付けた方が良いと思う。ただ、衛兵達も同じ機能の指輪が支給されていて無力化出来るそうだけど、それも仕方ないと受け入れた。

 その後は先日と同じ様に俺が止血草採取の間にシロがホーンラビットとゴブリンを狩り、魔石と素材を分配した。この日は俺用の魔石は1つもなく、シロはまた成長した。


 何度かシロと2人、またはマリアやトーマスも付き合ってくれてシロとの3人での止血草採取に行ったが、ジャックは『薬草なんかよりダンジョン行こう!ダンジョン!』と言っては両親に怒られていた。それを知ってか知らずか分からないがエリザベートから


「そろそろ初級ポーションは卒業かしら?次の毒薬や麻痺薬の素材はこの近くだとダンジョンに有るのよね。ダンジョン行ってみる?」

「行きます」

「あら、やる気ね。じゃあ、トーマスとジャックに話しておくわ。それと……」

 

『ナンシー、ヒロがダンジョンに行くんだけど、あなたも一緒に行く?』

『はい、行きます。ヒロ様のお身体のケアは私にお任せください』

 

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日曜と木曜に掲載予定です。


会話の「」内は基本地球の言語を、『』内は異世界での言語という風に表現しています。お互いの言語学習が進むと理解出来る単語が増えて読める様になって行きます。


youtubeで朗読させてみました。

https://www.youtube.com/playlist?list=PLosAvCWl3J4R2N6H5S1yxW7R3I4sZ4gy9


小説家になろうでも掲載しています。

https://ncode.syosetu.com/n3026hz/

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