第22話 初めての素材採取 ガイア1816年11月22日

 錬金術を便利に使うには魔法陣が必要らしい。そして魔法陣を作るには錬金術が必要……。まるで鶏と卵の関係みたいだが、手間は掛かるがめんどくさいが魔法陣なしでも錬金術は使えるらしい。まずは錬金術を覚えて、魔法陣を作るための素材を作ることになった。


「ヒロ、基本的な魔法はほとんど覚えたし、次は錬金術を覚えてみない?」

「おお、あの鉄とかを金に変えるという錬金術!?」

「出来無いわよ、そんな事。金鉱石から金だけを取り出すことは出来るけど」

「え、それはそれで凄いよ」

「最初はポーション作りからよ。錬金術を覚えたら、薬草を使った薬作りや金属を使った工業製品、美的感覚が有れば工芸品作りなんかも出来るわよ。将来、街に工房を開く事も出来るかもね。どう、覚えてみる?」

「お願いします」

「分かったわ。ただ、今までの魔法の授業と違って、物を加工して製品を作る事になるから素材が必要になるの。ギルドを通じて素材収集の依頼を出しても良いけど、結構お金が掛かるわ。最初は子供でも集められる素材だから自分で集めてみない?」

「もちろん、自分で集められる物なら、自分で集めるよ」

『マリア、ヒロに薬草採取させようと思うのだけど付いて行ってくれないかしら?ついでにクエストの受注の仕方とかも教えて欲しいの』

『分かりました、エリザベート様』


……


『ヒロ様、初級ポーションを作られると聞きましたが、実は今は季節外れなのです。特に腐り止め草と止血花は6月前後に1年分纏めて収穫して使う物なのです。ですから、今回はギルドの在庫を使用しますので、残りの止血草を採取します。本来ならば、この薬草も5月6月頃の若葉が良いのですが、作るだけなら今の時期でも大丈夫です。品質が上がりにくいだけなので、ヒロ様の様に練習目的なら問題ありません』

『そうですね。品質のために、さらに半年待てと言われる方が辛いです』


 マリアと一緒にまず冒険者ギルド支部に行きクエストを確認する。Fランクのボードに止血草収集の紙が有ったので剥がそうとしたらマリアが止めてきた。

 

『ヒロ様、クエストの紙にこのマークが描かれている物は常時募集となってます。クエスト受注の手続きをしなくても大丈夫です』

『ということは、隣のゴブリン5匹討伐も常時募集ということ?』

『そうです。今日収集予定の止血草が採れる周りでは、このホーンラビットが良く現れますので、このクエストを受けていきましょう』

 

 そういうと紙を剥がして渡してきた。その紙を持ってカウンターに行く。ナンシーと同じウサギ獣人の娘の前がちょうど空いていた。成人したばかりだろうか?かわいらしい顔をした15~6歳の女性だった。ついつい大きな胸部装甲に目が行きそうになるのを強い意志で防ぐ。

 

『すいません、このクエストを受けたいんですけど』

『はい、ホーンラビットの討伐ですね。皮が一番高く売れるので、なるべく傷は少なく狩った方がお得ですよ。討伐証明は角でこちらも報酬の他に買取が発生しますからね』

『ありがとう。出来るだけ気を付けてみるよ』

『では、ギルドカードをお願いします』

 

 魔力を通し、光らせたカードを渡す。


『あら、所属が……』

 

 そういうとマリアの顔を見て納得したようにうなずいた後は、カードを石板の上に依頼書と一緒に置く。カードが一瞬光ると、そのままカードを返される。

 

『はい、手続きは終わりました。初めてのクエスト受注のようですが、何か質問は有りますか?』

『連れが居るので、彼女に聞きます』

『はい、ではご武運を』

『ありがとう』

 

 ギルドから出ると荷馬車に乗って門から出ていく。山裾に沿って北東に30分ほど進む。

 

『この辺りですね。馬車をディメンションホールに入れてください』

 

 馬車を仕舞うと早速薬草採取だ。まずは、マリアが手本を見せてくれるらしい。


 マリアはぐるっとまわりを見渡すと、すぐに5m先の草むらに行き、しゃがむ。

 

『これが止血草です。この種類は葉と茎が必要となりますが根は必要ありません。根っこを残すように地面すれすれのところを切ります。そうすれば、すぐに根っこから新しい止血草が生えてきますよ』

 

 そういうとナイフで茎を切る。俺はその採取された止血草を見て驚いた。


『え?これって「よもぎ」だよね?』

『あら、ヒロ様の世界にも止血草が有るのですか?それに「よもぎ」ってヒロ様の世界での呼び方なんですか?』

『ああ、そう呼んでるよ。俺の世界でも、葉っぱを揉んで汁を傷口に付けて止血したり、食べたりするよ』

『あら?苦くありませんか?』

『そうだね。だから、匂いや色付けにほんの少し混ぜるんだよ。「お餅」って言っても解らないか……白パンに混ぜて緑色のパンにするんだよ』

『あら?緑色のパンって面白そうですね』

『パンの中には甘く煮た豆が入っていて美味しいよ』

『豆を甘く煮るのですか?』

『そう、そのパン自体がデザートなんだ』

『パンがデザートですか?なんか不思議ですね』

『ははは、日本ではデザートのパンって普通なんだけどね。まぁ、地球でも他所の国から、甘いパンなんておかしい!って言われる事が有ったからね』


(主食としてパンを食べてる国と主食の代用品として食べてる国の違いなんだろうなぁ。それに材料、ほとんど同じだから、よもぎ饅頭もパンで良いよな?)

 

 採取が終わるとすっと立ち、また周囲を見渡す。すぐに次の止血草を見つけて採取させてくれる。

 

『見つけるのが凄く早いんだけど?』

『止血草もそうですが錬金術で使う素材は魔力を帯びたものが多いのです。しかも種類によって魔力の型が違うのです。それを感じることが出来れば、素早く探し出すことが出来るようになりますよ』

『それはどのようにすれば良いの?』

『魔力を薄い布のように出して、この止血草を包み込んでください』

 

 言われるがまま魔力で包む。

 

『なんだろう?異物?感が有るな』

『それがこの止血草の魔力です。次はこの草原に魔力の布を広げてください』

 

 10m程先まで魔力の布を広げ被せていく。何か所か異物がある。その中でも一か所、止血草と似た場所が有った。

 

『あそこに止血草と似た感触がある』

『では、行ってみましょう』

 

 異物の感触が有った場所に行くと、止血草が有った。

 

『おぉ、本当に有った!』

『ヒロ様、これが探索魔法と言われるものです。慣れた魔力の多い人では100~200m先に隠れている獲物や人を見つけることも出来ます。奇襲を防ぐ事も出来て便利です』

 

 試しにどこまで広げられるかやってみた。

 

『マリアさん、どれぐらい広げられるか試しにやってみたら、半径100mぐらいカバー出来たみたい。でも止血草の反応の他に、それより大きな反応が何個か有るんだけど、あれも素材なのかな?』

『半径100m?初めて使ってその距離……やはりヒロ様は規格外の方ですね。どちらの方向ですか?』

『あっちとこっちとそっちかな』

『えっと……あっちとこっちはホーンラビットですね。それとそっちはゴブリンです。では全部狩りましょう』


 止血草をアイテムボックスに入れ、狩りをする事にした。ホーンラビットに10mぐらいまで近付いたが草むらに隠れたままだ。これ以上近付くと逃げられる様な気がする……ちょうど真横から近付いているので、そのままウインドカッターを飛ばして草むらごと首を落とした。初ホーンラビットだ!


『流石です、ヒロ様。ホーンラビットは臆病なので、あれ以上近付くと逃げられたかも知れませんね』

『じゃあ、こんな方法は?』


 ディメンションホールからシロを出し、弓を用意する。久しぶりの外に嬉しそうだ。次のホーンラビットを指差し獲物を認識させる。風下から迂回し、こちらに追い立てる様に指示を出す。

 少し経つと無線機からクリック音が聞こえる。首輪に付けた送信ボタンを後ろ足で掻くのがシロの準備完了の合図だ。


「シロ、GO!」


 弓に矢をつがえ、ホーンラビットの居る方向に狙いを定める。シロの追い立てる鳴き声が聞こえ、ホーンラビットが草むらから飛び出して来た。全速力で逃げる獲物の行く先に狙いを動かし、タイミングを合わせて矢を射る。

 まるで矢に向かってホーンラビットが飛び込んで行ったかの様に、首に矢が刺さる。矢の衝撃で転がりもがいているホーンラビットを、シロが口に咥えて持って来た。受け取りとどめを刺すと、シロの頭や首筋を両手でワシャワシャと撫でてやる。シロはすぐに寝っ転がり腹を見せてくるので腹もワシャワシャと撫でる。


『ヒロ様、お見事です。それにしてもシロ殿はずいぶんと賢いのですね。こんなに賢い犬は初めて見ました!』

『祖父が猟犬として躾けてくれたからね。祖父の腕が良いのさ』


 次はゴブリンだ。シロに強襲させ、腕を噛んで引きずり倒している所へ駆け付け首を刎ねた。

 

『ヒロ様、ゴブリンは素材として使えませんし食べることも出来ません。討伐部位の右耳と魔石をはぎ取ったら土の中に埋めましょう。ホーンラビットは解体して肉はアイスの魔法で凍らせると良いですよ』


 マリアの指示で俺は両手を地面に付けた。直径150㎝、深さ100㎝の範囲に魔力を満たす。


『アース』


 魔力が満たされた土が動き出す。下から上に土が流れ出し、目の前に穴と小山が出現する。これは生活魔法の土魔法だ。魔力を満たした範囲の土や石を自在に操れる。穴を掘ったり、埋めたり、整地も出来る。風属性を併用すれば、荒地を空気をたっぷりと含んだふわふわな畑に耕すことも出来る。

 

 出来た穴に右耳と魔石を取り除いたゴブリンを捨てる。ホーンラビットの解体で出てくる骨や内臓も捨てる。すると、シロが内蔵や魔石を欲しがった。地球で何度も一緒に狩りに行き、何度も解体をしてきたがこんなことは一度も無かった。内臓と魔石に異様な程執着するので、つい冗談で声を掛けてしまった。


「自分で獲ってきた奴なら好きにして良いぞ」


 その言葉をシロは理解したのか、物凄い勢いで駆け出して行った。

 5分程すると首の骨をへし折った状態のホーンラビットを咥えてシロは戻ってきた。解体してやり、肉と内臓と魔石を並べてやると、鼻先で肉を俺の方に押して来て内臓と魔石を食べた。食べ終わると、すぐに次の獲物を求めて走り去った。


『ヒロ様、野生の動物が魔石を食べると、稀に魔物モンスター化すると言われてます。シロ殿に魔石を与えるのは止めた方がよろしいかと……』

『そうなんですか?でも、なんでシロは欲しがるんでしょう?内臓はまだ分かりますが……』

『はっきりとしたことは分からないのですが、魔石を摂取すると魔力が増えて強くなると言われています。ゴブリンは魔石を食べてホブゴブリンに進化するそうです』

『あ、それは見たことあります。ゴブリンがユニコーンの魔石を食べて体が大きくなってました』

『あら、進化する瞬間を見たことが有るなんて、貴重な体験をされているのですね。わたくしもトーマスも見たこと有りませんよ』


 次にホーンラビットを獲ってきた時に魔石を取り上げると、シロは悲しそうな顔をして異様に執着してきた。


『マリアさん、もしかしたらシロは本能的に魔石を食べると強くなれると知っているのかも知れませんね。もし魔物モンスター化すると、何か問題はありますか?』

『町中に入るためには首輪をテイマー用の物に交換することになります。もし、町中で暴れた時に飼い主や衛兵が無力化出来る魔術具です』

『それは苦痛を与えて動けなくするものですか?』

『いいえ、魔力を動かせない様、制限して能力を下げるものです。それでも収まらない時は魔力を吸収放出し、強制的に魔力欠乏症にして気絶させます。これは人用の拘束の腕輪と同じ機能です』

『首輪を交換することで制御出来るのであれば、シロの望み通りに出来ませんか?ゴブリン程度なら問題有りませんが、この先、より強い魔物モンスターと出会った時にシロ自身が身を守れないと、一緒に旅も出来ませんから』

『あら、ヒロ様は旅に出られるつもりなのですか?』

『ええ、いつまでも居候しているわけにもいきませんし、せっかく知らない世界に来たのですから、色々と見て回りたいと思っています。まあ、冒険者を続けるのか、行商人でもやるのか……何も決めてませんが』

 

 結局、マリアが折れてくれて魔石を与える事になった。そうするとシロはホーンラビットを次々と狩って来て5匹目の魔石を食べた時、身体が光り体高が10㎝大きくなり、額に小さな角が生えた。


『あぁやっぱり魔物モンスター化してしまいましたね。ヒロ様、テイマー用の首輪ですが、魔術具になるので少々お高いです。それでも他の魔術具と比べるとかなりお安いのですが……』

『幾らぐらいなんですか?』

『2000ギル、金貨1枚になります』

『手持ち……銀貨9枚』

『お貸ししましょうか?』

『いえ、貯まるまでディメンションホールで我慢してもらいます』

 

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日曜と木曜に掲載予定です。


会話の「」内は基本地球の言語を、『』内は異世界での言語という風に表現しています。お互いの言語学習が進むと理解出来る単語が増えて読める様になって行きます。


youtubeで朗読させてみました。

https://www.youtube.com/playlist?list=PLosAvCWl3J4R2N6H5S1yxW7R3I4sZ4gy9


小説家になろうでも掲載しています。

https://ncode.syosetu.com/n3026hz/

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