第19話 魔力制御 ガイア1815年11月22日

 

 5の鐘でお楽しみの魔力制御の練習だ。地下2階でエリザベートから教えてもらう。


「魔力制御の授業ですね。これが出来るようになれば、俺でも魔法が使えるようになるんですよね?」

「うふふ、なんかヒロ、はしゃいでるわね」

「こっちの世界に来てフロスウエスト村のみんなは魔法が使えるのに、俺は使えませんでしたからね。一生使えないかもっと思っていたのに、使えるかもしれないと知ったら、そりゃはしゃぎたくもなりますよ」

「そう?私達は生まれた時から使えるのが普通だから、その気持ちは分からないわ」

「そうですか……」

「じゃあ、まず、これを読んで。魔力制御の為の教科書よ」


 エリザベートから薄い本が渡された。「魔法の初歩」と題されたその本を、ぺらぺらとめくってみると日本語・英語・フランス語・ポルトガル語で書かれており、迷い人用の教科書だった。しかし、書いてあったのは、爺ちゃんから教えてもらった腹式呼吸。そして精神統一からの気功法。今でも毎日座禅を組んで行っている鍛錬法だった。


「じゃあ、始めるわね。第1章は後で応接室で教えるわ。ここでは第2章の魔力の鍛え方ね。

 この椅子に浅く腰掛けて。頭の上から糸で吊るされたように背中を伸ばして。手をまっすぐ上に伸ばして、背骨をその状態のまま手を下ろしても良いわよ。顎を少し引いて……良いわよ。姿勢が崩れて猫背になると、呼吸が浅くなって効果が弱くなるから気を付けてね」

 

 エリザベートから説明を受けながら実践してみた。やはり爺ちゃんから教えてもらった腹式呼吸だった。座禅を組むか、椅子に座るかの違いはあるが、要は姿勢良く座ることにより腹式呼吸をやりやすくする方法だ。座禅の方が下半身が固定される為、より上半身が安定するのだが、慣れも必要な為黙っていた。


「あら、ヒロ、上手ね。腹式呼吸ってやったことあるの?」

「ええ、腹式呼吸からの精神統一は爺ちゃんから古武道の修行の一環として習ってます」

「あら、そうなの?」

「はい、戦う時に心が乱れると呼吸が乱れ、呼吸が乱れると実力が発揮できないからと教わりました」

「確かに呼吸が乱れていると魔法も安定しないわね。魔法の無い世界でそんな教えが有るなんて」

「魔法の事は分かりませんが、呼吸が乱れると剣筋が乱れて切れなくなるし、弓もぶれて的に当たらなくなります」

「そう云われればそうね……じゃあ、次は魔力を手のひらに集める練習ね。こう、両掌をお臍の前で球を作るようにしてみて」


 目の前でエリザベートが手本を見せてくれる。


「そう、その形ね。それを一回横に広げて、身体の周りにある魔力を手のひらにある籠で集めるイメージで、また臍の前で球を作って。その時に両掌が近くなった時に抵抗を感じたら成功よ。やってみて」

 

 気功法だった。やっぱり、爺ちゃんから習った気功法だ。エリザベートは魔力を集めると言っていたが、爺ちゃんは気を練ると言っていた。


 それしか違いは無い。


 いや、もうひとつ、いつもと違うことが有った。気を練ると手のひらの中が光りだした。集めた気が光りだしたのだ。


「え?なんですか?これ……手のひらがなんか光ってるんですが?」

「あら、ヒロ凄いわね。初めてでそんなにも魔力を集められるなんて!もっと集められる?」

 

 さらに気を練っていくと段々と光が強くなっていく。やがて直接見る事が出来ないほど強い光になった。


「あなた、どれだけ魔力を持っているの?わたしより魔力量多いわよ。まあ、後で調べましょう。

 次はその魔力の球を、臍から胸、顎、鼻、額、頭の上まで皮膚の上を舐めるように移動させて。

 そう、うまいわよ。今度は、後頭部から背骨に沿ってお尻まで……そうしたら、お尻の下を通って前に……そう、そのまま臍まで戻して。じゃあ、今度はスムーズに臍から頭に、頭からお尻に、お尻から臍まで一気に動かして……」


 エリザベートの指示のまま、練った気を体の表面に添わせてぐるぐると回す。前から後ろへ、後ろから前へ、右腕から右肩を通って左肩、そして左腕から手のひらに。最後にらせん状に球を動かし、体中を包んだ。

 

 これもいつもやっていることだ。


「え?ヒロ、なんで魔力制御が出来るの?なんで知ってるの?」

「子供の頃から爺ちゃんに教えて貰って、ずっとやって来てたんですよ。まさかこちらの世界で役に立つとは思わなかったんですけどね」

「悪いけどステータスを見せてもらえないかしら?ギルドカードに魔力を通すときにステータスオープンと言えばいいから」

「ステータスオープン」

 

 俺からは、いつものギルドカードでいつもの表示が浮かんでいるだけだが、他の人からもステータス欄が見えるようだ。

 

「なに?このステータス!体力5、000?魔力さささ30、000?魔力制御4、000?スコアなんて40、000もあるわ。なにこれ?何なのこの数字?大賢者様でもスコアは20、000弱って言っていたのに……」

「そんなに変なのですか?」

「トレーニングしてない一般の成人男性で魔力以外は100が平均なのよ。そして魔力や魔力制御は30ぐらい。スコアは700ちょっとが平均なの。

 近接物理や遠隔物理攻撃はSランク冒険者のトーマスやマリアと同等、魔力は過去を振り返ってもおそらく世界一よ。大賢者様より多いってどういう事?」

「そんなこと言われても、魔法の無い世界で生まれ育ったんだから理由なんてわからないですよ」

「ちょっと大賢者様のところに行くわよ」

 

 そう言うと、エリザベートは俺の手を強引に引っ張ってケンのところへ連れていった。

 

「大賢者様、ヒロのステータスが異常です!どうしてこんなことになったのでしょう?」

「そう言われてもね……僕にも分からないよ」

 

 詰め寄るような勢いで詰問してきたエリザベートに、昨日と同じ若い姿で出てきたケンはたじたじになりながら答える。

 

「来たばかりのヒロが、何故、大賢者様よりスコアが高いのでしょう?」

「僕はこちらの世界に来てから魔力や体力を鍛え出したからね。ヒロさんは向こうの世界に居た時から身体を鍛えていたから。規律が世界で1・2位を競うほど厳しいと言われる自衛隊で。あ、ヒロさん、レンジャー徽章が有るという事はレンジャー教育にも参加したんですね?」

「あぁ、うちの連隊は日本アルプスをエリアに持つ山岳レンジャーを育ててね。徽章を授かったよ」

「空挺徽章もあるってことは、もしかして特殊作戦群も?」

「選抜試験に参加しないかと習志野の偉い人に誘われたけど、爺ちゃんの引退もあって断ってすぐ除隊したよ」

「エリザベートには分からないと思うけど、ヒロさんは世界有数の強さを誇る軍隊にいたんだ。その世界有数の軍隊の中でも、エリートだけが取ることが出来るレンジャーという資格を持っている。更にそのレンジャーの中から数%の超エリートが選ばれ所属する、特殊作戦群という化け物ばかりの部隊への所属を打診される程の戦士だって事だよ」

「それでは魔力に関しては?」

「ヒロさん、魔力制御はどうして知っていたのですか?」

「魔力制御なのかは知らないけど、3歳のときから爺ちゃんに古武道の修行の一環として気功法を教わったんだ。精神統一も出来るし、体の隅々まで神経が活性化される気がして、今でも毎日のルーチンにしてるよ」

「へぇ、一部のオカルト好きが真似ていた気功が、実際に古武道に受け継がれていたのですね。3歳からだと20年以上続けていたんですか?」

「そうなるね。でも、こちらみたいに集めた気が光るなんて事は起きなかったよ。本当に驚いたよ」

「20年も続けていたとなると、生まれつき魔力や魔力制御が高かったのか、長年続けた訓練のお陰で高くなったのか判断付きませんね」

 

 ケンは顎に手をやって少し考えると提案してきた。

 

「試しに指先に魔力を集めて、「我は祈りを捧げる者なり。火の精霊よ。我が指先に御身の力を纏わせたまえ。注ぐは我が魔力。ファイア」ってやってみて」

「日本語で良いの?」

「呪文の内容を理解し、イメージするのが大事だからね」

「そうか、エリザベートさんも言っていたな。ファイアってライターの火みたいなやつだよな」

「そうそう」

「我は祈りを捧げる者なり。火の精霊よ。我が指先に御身の力を纏わせたまえ。注ぐは我が魔力。ファイア」

 

指先に赤とオレンジの中間の色をした火が付く


「おお!火が付いた!ケン、これって魔法が使えたってことだよな?」

「そうですね。ヒロさん、おめでとう」

「やった!俺でも魔法が使えた!俺でも魔法が使えるんだ……そっか、俺でも……」

 

「エリザベート、これから攻撃魔法は日本語で教えなさい。敵に何の魔法が使われるか悟られずに攻撃できます」

「わかりました、大賢者様」

 

 二人が何かを話しているのを聞き流しながら思考を続ける。

 

(あれ?これって実際に唱えなくても頭の中で唱えてもいいんじゃない?)

 

 一旦火を消して顔の前に人差し指を立てる。指先を力を入れて睨みながら頭の中で先ほどの呪文を唱える。

 

(我は祈りを捧げる者なり。火の精霊よ。我が指先に御身の力を纏わせたまえ。注ぐは我が魔力。ファイア)

 

 すぐに指先に火が付いた。それに気が付いた二人がこちらを見る

 

「ヒロさん、今呪文を唱えずにファイアを使いましたよね?」

「あぁ、頭の中で唱えても出来そうだったからやってみたら出来たよ」

「それって無詠唱魔法って言って高等技術なのよ!」


 エリザベートが絶叫した。

 

「そうなんだ。イメージで魔法が創造できると言ってたよな?じゃぁこんなのも出来るかな?」

 

 両手の中に透明な柄、そしてそこから1メートルほどの火の剣をイメージする。

 

(呪文は……さっきのはなんか違うよな。少し変えて

我は祈りを捧げる者なり。火の精霊よ。御身の力を纏わせたまえ。注ぐは我が魔力。ファイア)

 

 両掌が何かを握り、そこから先に細身の火の剣が現れた。

 

「「え?ヒロ」さん!」

「おぉ出来た!光じゃなくて火だからファイアセーバーってところかな?」

「「ヒロ」さん」

「どこでも「ピー(by エリザベート)」より危険じゃないですか!」

「あはは、きっと大丈夫」

「大丈夫って、あの国は訴訟大国なんですよ。問題無くてもとりあえず訴訟起こして、金がむしり取れればラッキーって思ってる国なんですよ。僕の大事なこの世界を、西海岸に好き勝手蹂躙されるなんて嫌ですからね。言葉には注意してください」

「はい、すいません」

「とりあえず当分魔法は禁止です。エリザベート、魔法制御の授業の時間を常識の授業に切り替えてください」

「わかりました、大賢者様」

 

 その後、延々と魔法の改造の危険性についてふたりから説教された……

 


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日曜と木曜に掲載予定です。


会話の「」内は基本地球の言語を、『』内は異世界での言語という風に表現しています。お互いの言語学習が進むと理解出来る単語が増えて読める様になって行きます。


youtubeで朗読させてみました。

https://www.youtube.com/playlist?list=PLosAvCWl3J4R2N6H5S1yxW7R3I4sZ4gy9


小説家になろうでも掲載しています。

https://ncode.syosetu.com/n3026hz/

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