第16話 総本部 ガイア1815年11月21日
扉を入り、左に曲がると駐車場だった。馬車でも車だから駐車場で良いのだろう……馬車から降りると厩務員なのか作業着の男達が寄ってきた。エリザベートがディメンションホールを開けると、中から馬車や馬達が次々と出され、手際良く運ばれて行く。
「ヒロの車もここに停めておくといいわ」
そう言われ、キャンピングカーを出し職員の誘導に従い駐車する。トーマス達3人は、馬車に積んである荷物を職員の手を借りて片付けだした。俺はエリザベートの後に付いて建屋に入る。事務所のようで多くのスーツを着た男女が働いていた。エリザベートの姿を認めると、全員が一斉に立ち上がり頭を下げ挨拶をして来た。
『お帰りああい、エリザベートああ』
エリザベートは軽くうなずきながら返礼する。そして俺の方を見ながら喋った。どうも紹介してくれているようだ。みんなの視線がこちらに集まる。エリカに教えてもらった、こちらの言葉を思い出しながら挨拶をする。
『こんにちは、ヒロです』
頭を下げるとみんなが拍手をしてくれる。良かった、通じたみたいだ。
エリザベートが事務所を横切り、奥の扉に向かう。俺も後を付いていく。扉を抜け、通路を少し進むと日本でよく見かけた機械と出会う。エレベーターだ。乗り込むとエリザベートはB4Fのボタンを押す。
「この地下一階が事務所。地下2階は半分事務所で残りはトレーニングルーム。地下3階が職員の寮になっていて、地下4階が幹部用の住居スペースになってるわ」
エレベーターを降り、広い通路を少し進むと、豪華な扉の前に鎧を着て帯剣した男が2人立っていた。エリザベートの顔を見ると二人は恭しく両開きの扉を開ける。扉の中にはロングのワンピースにエプロンといったTHEメイドといった女性や、燕尾服とは少し違うが後ろが膝の裏近くまで有るスーツを着た男性達が10人近く頭を下げていた。
『お帰りああいあえ、エリザベートああ』
ここでも紹介され、先程と同じように挨拶をした。
応接間に案内され「着替えてくるわ」とエリザベートが部屋から出て行った。部屋に居たメイドさんが紅茶とお菓子を出してくれた。
『ありがとう』と言うと嬉しそうに微笑んでくれた。
(やっぱりコミュニケーション出来るのと出来ないのでは居心地が全然違うな。早くこちらの言葉を覚えたいな。大賢者は一人で覚えたって言ってたよな……大変だったろうな)
戻って来たエリザベートは青のグラデーションのドレスを着ていた。
「素敵ですね。とても綺麗です」
「あら、お上手ね。ありがとう」
元々エルフの種族特性なのか、とても美人な上にスレンダーで背も高いのに出るとこは出ている、プロポーションの良さを引き立てるドレスだ。まぁ、でも胸部装甲は薄いのだが……
後ろには先程出迎えてくれた職員と同じようなスーツで、びしっと髪を油で固めたトーマスとメイド服を着たマリアが居る。エリザベートが向かいのソファーに座る。
「それではここでの生活について話すわね。まずは、この後、大賢者様との面会よ。面会が終わったら、部屋に案内するわ。当分の間は、この屋敷に滞在して言葉を覚えてもらうわね。食事は用事がない限り一緒に取りましょう。それで良いかしら?」
「ありがとうございます。助かります。でも大丈夫ですか?」
「客室は空いてるから大丈夫よ。というか敬語は使わなくていいわよ」
「でも、お世話になるのですし、そういう訳には……」
「良いの良いの。別にうちの使用人になったわけでもないんだから。客人なんだから気にしない」
「そうですか?でも、いきなり全部敬語無しでとはいかないので、徐々にという事でお願いします」
「だから使わなくて良いって言ってるのに……まぁ、徐々にでも良いからお願いね」
「はい。それと宿泊の方もお願いします」
「じゃあ、ヒロがうちに泊まってる間のお世話係は……」
後ろを振り返るとエリザベートは先ほど紅茶を淹れてくれた女の子に話しかける。女の子は元気よく返事をしていた。
「この子はナンシー。見た通りウサギ獣人よ。今日からあなた専属のメイドよ」
ナンシーという子はピンクの髪に赤い目、白い肌の女の子だった。白くて長い耳や丸くて少したれ目のほんわりとした雰囲気の子だったが、この世界……いや、日本に居た時でも雑誌の中か2次元の中でしか見た事が無いサイズの胸部装甲に下半身装甲、なのにキュッと引き締まったお腹と脚……ハニトラでもカモーン!って言いたくなるような、好みどストライクな娘だった。
「え?専属ってなんですか?」
「言葉通り専属よ。朝から晩まであなたのお世話をするのよ」
「いえ、自分の事は自分でする様教育されてますから。掃除も洗濯も全部ひとりで出来ますよ」
するとナンシーという
「ちょっと待って!エリザベートさん、彼女に伝えてください。あなたを嫌っているわけでなく、たんに家族以外の人に世話をされた事が無くて、困っているだけだって」
エリザベートが伝えると彼女は少し機嫌を直したようだが、まだ目には涙が有った。
「わかりました。お世話をお願いします。ただ、俺が居ない時に掃除とベッドメイクを。洗濯物は一か所に纏めておきますので、それの洗濯、それと食事や訓練の時間になったら呼びに来てもらう……それぐらいから始めてくれませんか?ずっとそばに居られると、緊張するので」
エリザベートと何度かやり取りをして、どうにか納得してもらえたようだ。あんまり近くに居続けられると困るのだ。この世界に来てひと月……まだ、そういうお店でリピドーを開放してないのだ。彼女相手に「俺のマグナムが!」なんて状況になると困る。
「明日からは、言葉の勉強と魔法を覚える為の訓練を始めるわね」
「え?地球では魔法なんて誰も使えなかったし、フロスウエスト村にいた時も、呪文を教えてもらったけど魔法は使えませんでしたよ」
「あら、それは日本語じゃなくて、こちらの言葉で教わったんじゃない?」
「はい、頑張って耳コピしてみましたが駄目でした」
「呪文はね、どういう意味で唱えているのか理解してないと意味が無いのよ」
「え?それって……」
「今のあなただと、日本語に翻訳した呪文を唱えた方が発動しやすいわ」
思わず、ソファーから崩れ落ちた。まさにorzの形に……
「まぁ、呪文を覚える前に魔力の扱い方を覚えてもらうわね。この訓練を魔力制御と言うのだけど、これを訓練すると魔力の量も増えるし、魔法も発動しやすくなるの。言葉を覚えるまではこの訓練をして、言葉を覚えたら呪文を覚えて実際に魔法を使ってみましょう」
「でも実際問題、魔法なんて空想の世界だけで、実際に使える人の居ない地球から来た俺達に使えるものなのですか?」
「それは問題無いわね。こっちの世界の人は才能の差はあるけど生活魔法はみんな使えるし、今まで会ってきた迷い人も全員使えたわ」
「全員使えたのですか?それは楽しみですね。空想の世界だけだと分かってても、魔法を使えたらって妄想した事の無い子供なんて、地球にもほとんど居なかったしね」
「あら、という事はヒロも?」
「ええ、子供の頃に見ていた
「うふふ、ヒロがどんな魔法を開発するか楽しみだわ」
「開発?魔法って開発も出来るのですか?」
「開発出来るわよ。イメージの数だけ魔法が有って、人の数だけイメージが有るって言われてるわ。大賢者様も魔法陣を開発したし、転送魔法もGATEも開発したわ」
「実際に出来るか分からないですが、夢があって良いですね」
「それと魔法使うのに体力も必要だから、そちらも鍛えるわね。喧嘩に強いのは見たけど、魔物相手には何か武器も扱えないと危ないから、剣とか槍なんかも覚えてもらうわね」
「大賢者って日本人だったんですよね?なら日本刀って無いですか?片刃で刀身が少し反っている日本独特の両手剣なんですが」
「聞いたことは無いわね。大賢者様に聞いてみれば?」
「ええ、そうしてみます」
「では、そろそろ大賢者様のところに行きましょうか」
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日曜と木曜に掲載予定です。
会話の「」内は基本地球の言語を、『』内は異世界での言語という風に表現しています。お互いの言語学習が進むと理解出来る単語が増えて読める様になって行きます。
youtubeで朗読させてみました。
https://www.youtube.com/playlist?list=PLosAvCWl3J4R2N6H5S1yxW7R3I4sZ4gy9
小説家になろうでも掲載しています。
https://ncode.syosetu.com/n3026hz/
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