第15話 マウントテンプル迷宮 ガイア1815年11月21日
異世界ファンタジーの週間ランキング1736位に初めて入ったようです。
ありがとうございます!
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エリザベートside
ヒロの声が無線という四角い箱から聞こえた。この箱は遠くの人と話せるらしい。
『これは大賢者様にお願いして開発して貰わないと……』
『そうですね。影の者達も仕事がやりやすくなりそうです』
影の者を統括しているマリアも欲しいらしい。影の者だけじゃ無く、衛兵や門番等でも人気になるだろう。
『エリザベート様、峠に入ります。お気を付けてください』
御者をしてくれているトーマスから声が掛かる。
いつも思うがこの峠は厄介だ。馬車がどこでもすれ違えるように道幅を広げたいのにそんなスペースも無い。
峠の向こうのダンジョンを大賢者様が見つけて、攻略を進めて行ったのだけど、獣道しかなく、徒歩でしか移動できなかった。まだ、転送魔法陣が開発されて無かった為、ダンジョンで素材を得ても、人が担げる量しか街に運べなかった。
大賢者様はアイテムボックスにダンジョンの素材を詰め込み、王都ジョージタウンに行って売りさばき、お金を作った。様々な魔導具や魔術具も開発してお金を作った。出来たお金で聖♀字正教国からの難民と冒険者を雇い、道を作っていった。
彼が私財を投じ、10年掛けて作り上げたのが、この道だ。
私も大賢者様のパーティーメンバーとして、弟子として、パートナーとして協力していた。大賢者様がダンジョンから持ち帰る素材を、効率的に売れるように冒険者ギルドを作り上げた。アイデアは大賢者様が語ったラノベの冒険者ギルドだ。
私は、貴族という生き方が嫌いで実家を飛び出していたが、大賢者様をサポートする為に、実家の……サンタローザ王国の貴族の人脈や権力を使った。
『エリザベート様、この先に斥候が居ます。木の上の方に隠れています』
探索魔法が得意なマリアが教えてくれる。
『峠の頂上までは、まだ距離が有るわね』
『そうですね、直線距離で200m以上、300mあるかも知れません』
『ヒロは500mでも大丈夫だって言ってたけど、どう思う』
『影の者が逃さないよう
『あら、準備が良いわね』
『教会騎士団達が変装するときに隠した鎧や手荷物、ギルドカード等も回収済みです』
『ありがとう』
『それにしてもこの部隊、練度が低過ぎますね。斥候はそこそこでしたが、伏兵も崖の上も本隊も全く魔力も殺気も隠せてません。お粗末過ぎです』
『裏向きの仕事をした事の無い部隊なんでしょうね。さて、そろそろかしら?』
馬車が峠の頂上に到着した瞬間、山の方からパンパンパンと乾いた音がした。マリアが扉を開けてダガーを両手に持ち飛び出して行く。また、パンパンと音がする。私も降りようと扉から身を乗り出すと、また、パンと音が鳴った。馬車から降りると、また、パンと音が鳴る。
馬車の前方ではトーマスが二人、マリアが一人を相手に戦っている。崖の上を警戒していると、山から物凄い勢いで白い獣が飛び出して来て崖を駆け上がった。次の瞬間、男の悲鳴が聞こえ『止めろ!離せ!』と叫び声が聞こえ、また悲鳴が聞こえた。
あれはヒロが連れていたシロという犬だ。ただのペットではなかったのか?崖の上に気を取られている間にトーマスとマリアの戦いは終わっていた。すぐに山からヒロも降りてきた。
「あの音ってヒロが出したの?」
「そうですよ。火が急激に燃えるとあんな音が出るんです」
「そうなのね、初めて聞いたわ」
「取り敢えず、崖の上の指揮官らしき男は殺さずにシロが取り押さえてます。行ってみましょう」
そう言うとヒロは崖を登り始めた。私は両足に身体強化魔法を掛け、崖の上へ飛び上がった。すると崖の途中に居たヒロが口を開けて驚いている。
(あら、楽しい。驚かせるつもりは無かったけど驚かせ甲斐があるわね)
指揮官らしき男を軽く尋問してみたがやはり話しそうにない。なのでわざと教国の事をからかってみると反論しようとして口から血を噴き出して死んだ。
「残酷な事をするわね。聖♀字正教国の事を話そうとすると死ぬように契約魔法を掛けるなんて……」
契約魔法には色々な種類がある。契約に違反した場合死ぬケースは1番高価で購入できる人は限られている。もし、これが一般に出回って冒険者や一般の平民に使われたら問題になる。頼まれた素材が手に入らなかった等という下らない理由で冒険者が殺されたら困るのだ。
(ギルドカードは回収したとマリアが言っていたわね。総本部に戻ったら調べてみましょう)
証拠隠滅の為に死体を転送魔法陣で飛ばしたら、またヒロが驚いている。
「え?どこに消えたの?」
「転送魔法よ。生きている物は駄目だけど死んでるものや無機質な物は送れるの。ギルドの秘密の倉庫に送ったわ。証拠隠滅と調査の為にね」
本当にヒロは面白い。私が知らない知識や道具を持っているのに、私達にとって当たり前な事で凄く驚いてくれる。片付けが終わると私たちは馬車を替え、着替えて幌馬車で総本部へ向けて出発した。
ヒロside
「なんで馬車を変えたのですか?」
「総本部のエンブレムを付けた馬車だと目立つでしょ。領都や王都では総本部の肩書が必要だったから、あの馬車を使ったけど、ここから先は必要ないのよ。それに一応、総本部の場所は秘密になっているからね。もし、ばれたらギルドカードにいたずらしようとする人間たちが集まってくるし、総本部の職員を脅せば自分のランクを上げられるかも?なんて馬鹿な事を考える冒険者も居るしね。GATEの魔法が使える人が居れば簡単に戻れるんだけど、今、生きてる人で使える人が居ないのよ」
「GATE?」
「一度行ったことのある場所なら、魔力次第だけど、どこにでもドアを開けて移動できる魔法よ」
「それってどこでもド「しっ!それを言っちゃいけないって大賢者様が言ってたわ」」
「地球ならそうだけど、こっちの世界でも危ないのか……」
「使えたのも大賢者様だけだしね。私たちではイメージしきれないみたいで使えないのよ」
(大賢者しか使えない魔法……転移魔法は使えたら便利だよなぁ。俺も魔法を使ってみたいけど、エリカに教えてもらったときはダメだったんだよなぁ)
「マウントテンプルダンジョンの町に着いたわよ」
「ダンジョン?総本部に向かっていたのでは?」
「まぁ、すぐに分かるから」
門番は衛兵では無く冒険者。出入りしているのも8割は冒険者だろう。
「随分と冒険者が多いですね」
「そうよ、この町はダンジョン攻略の為の町。ギルドが治めているの。ギルドと宿屋と武器防具ポーション等のダンジョン探索に使える品を扱ってるお店ぐらいしかないわ」
「それはまた極端な町ですね」
「ダンジョン入らなくても山から危険な魔獣が出てくるし、戦闘能力の低い人には暮らし難い町なの。それに一軒家やアパート等住民用の建物も無いしね」
門を入るとすぐ側にある冒険者ギルドの前を通り過ぎていく。
「あれ?ギルドに行くんじゃ?」
「あれはサンタローザ王国マウントテンプル支部よ。私達は総本部」
馬車は何度か交差点を曲がり、細い路地へと入って行く。そして古い倉庫の中に直接入っていった。倉庫の扉が閉められると馬車から降りる。ディメンションホールに馬ごと馬車が収納されると、マリアが倉庫の一番奥の床に手をかざす。すると土の床から魔法陣が浮かび上がり、光って消えていった。そこには人が1人通れる幅の階段が有った。
「どう驚いた?総本部への秘密の通路よ。総本部の職員か、ごく一部の冒険者にしか、この魔法陣は作動しないの。もしこの場所が知られても魔法陣が作動しなければ入れないわ。無理矢理床を掘って入ろうとしても、床の下自体には土以外何も無いから無駄骨ね」
階段を降りると、照明も無いのに明るく光りに満ちた空間があった。馬車が数台置けるぐらいの広さがある。そして壁の一角には馬車がすれ違って通れるぐらいのトンネルが有った。
エリザベートがディメンションホールから先程仕舞った幌馬車を出すと、全員乗り込みトンネルへと走り出した。トンネルも照明が無いのに明るい。壁自体が発光しているのだろうか?
「もしかして、ここってダンジョンの中?」
「あら良くわかったわね。マウントテンプルダンジョンは普通の入口が1階、そこから上に登って行って25階まであるの。そして実は地下が5階まであるのよ。この地下部分が総本部。ちなみにここは地下一階よ」
「ダンジョンの中という事は、総本部の中でもモンスターとか出てくるのですか?」
「出て来ないわ、大賢者様がダンジョンマスターとして管理してるから大丈夫よ」
30分ほど光るトンネルを走ると、先程と同じ様な空間に出た。先程と違うのは目の前に魔法陣が描かれた立派な扉がある事だった。
ジャックが御者席から降りて扉に手をかざし、魔法陣を起動して開ける。馬車はそのまま中に入って行く。扉の中に入った瞬間エリザベートが声を掛けてきた。
「ようこそギルド総本部へ」
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日曜と木曜に掲載予定です。
会話の「」内は基本地球の言語を、『』内は異世界での言語という風に表現しています。お互いの言語学習が進むと理解出来る単語が増えて読める様になって行きます。
youtubeで朗読させてみました。
https://www.youtube.com/playlist?list=PLosAvCWl3J4R2N6H5S1yxW7R3I4sZ4gy9
小説家になろうでも掲載しています。
https://ncode.syosetu.com/n3026hz/
ニ
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