第6話 村と狩り ガイア1815年11月3日〜4日
村に来てから約2週間、エリカから色々な単語を教えてもらった。なんとか単語を並べるだけの会話が出来るようになると、村人たちも話しかけてくれるようになった。いや、話し掛けてくれていたことの意味が分かるようになってきたと言った方が正しいか?しかし、エリカに魔法を見せてもらった日の後、何度か呪文を教えてもらい試してみたが、全く魔法は使えなかった。
(エリカが驚くほどうまく耳コピ出来たのになぁ……やっぱり地球で魔法が使えない奴は、異世界に来てもダメなのだろうか?異世界転移物のアニメや小説では簡単に魔法が使えてたのに……
あれか?女神さまや神様に会って魔法のスキルをもらわないと駄目なのか?「俺tueee」って俺は出来ないのか?まぁ仕方ない)
この2週間で村の様子がだんだんと分かって来た。
レオンの家の隣の家、村長の家だと思っていたが誰も住んでない。毎日のようにエリノア達女性陣が、屋敷の中の大きな厨房で村人全員のパンを数日分纏めてオーブンで焼いたり、ライ麦を水に浸けて麦芽を作り、あのビールのようなお酒『エール』も造っている。「酵母は?」と思ったが、前回仕込んだ完成間際のエールの表面に浮いてきた固形物をすくって入れた後、魔法を掛けていた。完成したら成人1人当たり何リットルという感じで、家から持ってきた樽に入れて配っているようだ。残ったエールは食堂のおばちゃんが全部買い取っていた。そんな風に公民館みたいな感じで利用されていた。
朝の仕事を終え、村に戻っていく若者たちに話しかける。
『おれ、かり、行く、たい。だめ?オーケー?』
ハトが豆鉄砲を喰らったような顔をしたが、すぐに理解してくれたのだろう。両掌をこちらに向けて待てという動作をした。そしてレオンのところに駆けていった。
レオンside
『村長!』
『お?どうした、ケネス』
『ヒロが狩りに行きたいって言ってるけどどうします?』
『ヒロが?ヒロは強いぞ。ホブゴブリンとゴブリンシャーマン2匹を一瞬で倒したからな』
『え?そんなに強いんですか?』
『あぁ、もしヒロが不思議な杖を構えたら、絶対にヒロの前に出るなよ』
『分かりました。みんなにも言っておきます』
『まぁ、頭の良いやつだから、今日はお前達のやり方を見るだけじゃないか?』
ヒロside
さっきの会話で何とか伝わったようで、ライフルと散弾銃を持って来たが、みんなの動きが分からないと銃を使うのは難しい。銃口の前でうろちょろされても困る。解体用のナイフとナタも持って来た。シロと一緒に荷馬車に乗る。
『狩り、樂しい、楽しみ?』
等と片言で話していると、畑を抜けて草原と北の林の境を馬車が進む。この2週間、畑にゴブリンだけではなく、シカやイノシシなども現れて荒らしていたので、それらを間引く目的もあるのだろう。
ケネスside
俺たちはヒロを入れて5人で狩りにやってきた。いつもは俺とランドンとマーカスが弓で獲物を狙い、ネイサンが荷馬車で付いてくる。
ヒロは鉄と木でできた杖を2本持ってきていた。弓も槍も持っていない。これでどうやって狩りをするのだろう?そして、シロという犬も連れて来た。
とりあえず、まずは俺たち3人で狩るところをヒロに見てもらう事にした。
『ケネス、あそこにイノシシが居るぞ』
『さすがランドンだな。相変わらず目が良いな。馬車から降りて近づくぞ』
『ちっ、逃げられたか。風が悪かったな』
『そうだな、他のを探そう』
……
『よし、今度は風上に鹿が居る。いくぞ、みんな』
『ケネス、60mまで近づけるかな』
『いや、ランドン、隠れられる草も少ないし100mで弓を放とう』
『当たりさえすれば逃げられても見失わないか。草も枯れて見晴らし良いしな』
『よし、ここからはしゃべるなよ。音も立てるな。しゃがんで草に隠れていくぞ』
……
『よし、当たった!2本刺さったな。追いかけるぞ!』
ヒロside
風向きが悪く、獲物を見つけても200mも近づくと気付かれて逃げられてしまう。何度か獲物を逃した後、やっと風上に居る獲物を見つけた。ネイサンと俺を馬車に残し、3人全員が弓を持ち枯草に隠れるように背をかがめ、近づいていく。
残り100mで弓をつがえ一斉に矢を放つ。少し山なりに放たれた矢が、斜め上から一頭の鹿を襲う。肩と腰に矢が刺さった鹿は、一度倒れるがすぐに立ち上がると仲間が逃げた方へと走り出す。
矢が刺さった瞬間、ネイサンが馬車を走らせ彼らに近づき、みんなが乗り込むと全速力で追いかける。サスペンションも無い馬車は、地面のわずかな凸凹で跳ねまわり、振り落とされないように必死でしがみ付く。
500mほど逃げて、また倒れた鹿に馬車から降りて近づくと、起き上がり暴れる。さっと距離を取り、弓をさらに射掛け再び倒す。とどめはマーカスが槍で心臓を突いた。
倒した獲物を馬車に載せ、近くの林に向かう。木にロープを掛け足首の腱に金具を取り付け、逆さ吊りにし首を切り血抜きを行う。
今回は胸を開いて石を取り出さないところを見ると、石の有る生き物と無い生き物がいるのだろうか?血抜きが終わるとまた馬車に載せて村に帰る。
『すごい。すごい』
褒めるとみんな照れ臭そうに笑っていた。
村に着くと食堂の裏に馬車を回し降ろす。食堂のおばちゃんが出て来て獲物をチェックすると、コインを5枚彼らに手渡していた。リーダー格のケネスが、そのうち1枚を俺に手渡してきた。銀貨のようだ。見学していただけで、何もしていないので断ろうとしたが、無理やり渡された。
(銀貨かな?これ。こっちの世界のお金を初めて見たな。いくらぐらいの価値なんだろう?アニメとかじゃ千円から1万円ぐらいで、結構話によって違うよな。外国の金貨や銀貨の広告を見たことあるけど、買ったことないから判らないし……)
食堂のおばちゃんは買い取った獲物を手早く解体していく。角は何本も同じような角の入っている箱に入れられ、剥いだ皮は別の女性に渡され、かきだされた内臓は食堂の若い女性が井戸の水で洗い、腸を裂き内容物を取り除く。弓や槍で損傷した部分をトリミングしながら、取り出した塊肉を魔法で凍らせて箱の中に藁と共に入れていく。
(あぁ、あの時、馬肉が凍っていたのはこの魔法を使っていたんだな)
次の日、俺はライフルを持って狩りについていった。
風下に獲物を見つける。こちらの世界の生き物は、銃を知らないようで銃の匂いに鈍感なようだ。距離も300m近く離れているので安全だと思っているのだろう。
鹿を指さし自分を指さすと、皆、うなづいてくれた。
レーザー距離測定機能を持つ双眼鏡で正確な距離を調べ、ライフルの照準を調整する。片膝立ちで銃を構え左前足のすぐ後ろ、心臓を狙う。
銃声が響くとそのまま鹿は倒れた。
ケネスたちは獲物と俺を交互に見渡し、慌てて獲物に駆け寄る。
ケネスside
『なななんだ?ケネス、鹿が倒れたぞ!』
『ヒロがやったのか?』
『でかい音がしたけど、あの杖で倒したのか?』
『ランドン、とりあえず鹿のもとに行ってみよう』
……
『胸のところから血が出てる。この小さな穴ひとつで殺したのか?』
『心臓だな。心臓を一発で射貫いてる』
『300mは離れていたんだぞ!それを一発とか……』
血抜きをして村に帰る。いつもの様に食堂の裏に馬車を付ける。
『おや?ケネス、今日は早いね。獲物は……お!今日も鹿かい。良いね、領都で人気だからね。おや、どうしたんだい?いつもより傷が少ないじゃないか。こりゃ皮も高く売れるし、肉も捨てる所が減って良いわ』
『ヒロが一人で倒したんだよ。不思議な杖で一発だったよ。300mも離れてたのに』
『300m?何、からかってるんだい。そんなに離れてちゃ当てるだけで精一杯じゃないか。矢も刺さりゃしないでしょ』
『いや、ケネスは嘘を言ってないんだ。本当に300m離れたところから、ヒロが一発で倒したんだ』
『本当なのかい?ランドン。まぁ私しゃ状態の良い高く売れる肉が手に入りゃいいんだけどね。それじゃ今日は、傷が少ないから銀貨6枚ね。明日からもこの調子で頼むよ』
ヒロに銀貨2枚渡した。昨日より多くてびっくりしてたけど、今日はヒロのおかげだからな。明日からも頼むな。
……
『村長!』
『お?どうした、ケネス』
『何なんですか?あのヒロって男は?』
『そうだろ、ヒロって強いだろ?』
『強いってもんじゃないですよ。300m離れた鹿を一発で仕留めちゃったんですよ。何なんですか?あの杖は?あんな魔法見たこと無いですよ』
『俺も見た事ねえよ。でも、ヒロは魔法を知らないみたいだし、ファイアも呪文教えても使えないみたいだから魔法じゃないかもな。迷い人の世界の弓矢かも知れねえぞ。とにかくあの杖の前には立つなよ』
『立てと言われても嫌ですよ。まだ死にたくありませんから。やっと結婚相手が見つかったというのに』
『そうだったな。あの子を泣かすなよ。それと結婚資金を狩りで稼ぐのも良いが、畑作業の方も頼むな。苦情が来たら、狩りを禁止しなきゃいけなくなるからな』
『分かってますよ。それより、またヒロを借りても良いすか?』
『あぁ本人が断らなきゃな。ただもう少ししたら冒険者ギルドがヒロを保護しに来るはずだから、それまでの間な』
『分かりました』
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日曜と木曜に掲載予定です。
会話の「」内は基本地球の言語を、『』内は異世界での言語という風に表現しています。お互いの言語学習が進むと理解出来る単語が増えて読める様になって行きます。
youtubeで朗読させてみました。
https://www.youtube.com/playlist?list=PLosAvCWl3J4R2N6H5S1yxW7R3I4sZ4gy9
小説家になろうでも掲載しています。
https://ncode.syosetu.com/n3026hz/
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