第4話 馬車 後編 ガイア1815年10月15日

 

 出発準備が出来たので、彼らをキャンピングカーの中に招待した。左中央にある扉を開けて、彼らをキャンピングカーに入れたところで固まった。固まって立たれていても困るので、手を取り背中を押してセカンドシートとサードシートに座らせる。

 

(参ったなぁ。そんなに固まられると道案内とかも無理だよなぁ。

 取り敢えずお茶でも出すかな?

 そういえばアニメとか小説とかの異世界物は、紅茶を良く飲んでたよな。

 コーヒーより紅茶の方が良いかな)

 

 電気ケルトで湯を沸かすと、リプントンのティーパックでお茶を淹れスティックシュガーと共に出した。相変わらず固まったままお茶を見ているので、スティックシュガーの端を破って紅茶に入れ、スプーンでかき混ぜ一口飲んで見せる。恐る恐る、彼らも同じようにして紅茶に口を付ける。そこでまた固まった。女の子だけはうれしそうに、にこにこと笑っていた。

 

(紅茶も駄目だったか?でも、女の子は喜んでるしな……異世界の常識ってよく分からん)

 

 自己紹介をしていないことを思い出し、自分を指さして「ヒロ」と自衛隊時代のあだ名を言う。意味が分かったようで、男は自分を指さし『レオン』、女性を指さし『エリノア』、少女を指さし『エリカ』と名前を教えてくれた。お互いの名前をなんども繰り返して、なんとか笑顔が出てきた。


 お互いの緊張が少しほぐれたところで、レオンを助手席に座らせ案内を頼む。馬も居ないのに動くことに、また驚き興奮するレオン。俺と言えば、偵察する必要が無くなった為、気楽に運転できた。とは言っても、後ろに荷馬車を繋いでいる為、そんなにペースを上げることも出来ず、バックモニターで様子を伺いながら平均10㎞で走り、夕方には彼らの村にたどり着いた。


 村の門が見え、人の顔が分かるほどに近づくと、鎧を身にまとった男が2人、槍を構えて出てくる。門の奥にあるやぐらでは鐘が打ち鳴らされていた。

 

(おぉ、間違いなく人里だ!門から出てきたのは衛兵か?門番か?揃いの胸当てを着けてるからただの村人じゃないよな?それにずっと鐘が鳴らされてるけど……このキャンピングカーを警戒してるのか?

 止めるか?どうする?)

 

 レオンの方に視線を向けると、助手席にいたレオンが右手を上げ手のひらをこちらに向けてきたので車を止める。席から立ち、左中央の扉に向かい戸惑っている。

 

(助手席側のドアからも出られるけど、教えてないしな)

 

 俺も席を立ちドアを開けてやる。レオンが車を降り、門番らしき男たちに手を振りながら声を掛けると、門番たちの顔から安堵の色が見えた。


 

レオンside

 

『お!村長だ。村長、何が有った?誰だ、あいつは?なにがあったんだ?』


 門番をしている自警団の二人が、俺の顔を見て安心しながらも、目はヒロの方を警戒している顔で尋ねてくる。

 

『ゴブリンの群れに襲われているところを助けてもらった。ホブゴブリンやゴブリンシャーマンもいた』

『なんだと!怪我はないのか?嫁や子供は?』

『みんな大丈夫だ。馬がやられたけどな』

『で、あいつはどこの人間なんだ?それにこの得体のしれないものはなんだ?』

『迷い人のようだ。これは彼の乗り物で、馬が居なくても走る馬車みたいだ。詳しいことは俺にも分からんが、乗り心地は今まで生きてきた中で一番だ。そうそう、冒険者ギルドに迷い人が居たと報告しなきゃな。それまではうちの家で面倒見る』

『わかった。あとで村人を集めるから村長からみんなに話してくれ』

『明日、野菜を売りに行く時に冒険者ギルドへの報告を頼む』


 

ヒロside

 

 出てきた二人が門を開けてくれると、レオンが車に戻ってきた。レオンの案内通り車を進めると、村の一番奥にある1番大きな家の左隣、2番目に大きな家の前に着いた。


(村の規模としては比較的大きな広場が有るし、あの一番大きな家が村長の家かな?レオンの家も大きいし村の有力者?だからかな、門番に咎められることも無く村の中に入れたのも?まぁ助かったけど)

 

 馬車を外し、荷物をレオンの家の反対側、屋敷の右隣の倉庫にレオン達と一緒に運んだ。


(それにしても巨大なチーズの塊やバターの塊、それに毛糸とフェルト……どっかから買ってきたのかな?しかし、この真ん中の屋敷の家族で消費するには多すぎる量だし、村人みんなで消費するのか?

 だけどあの草原に店なんて有ったのか?。人なんて住んでいるように思えなかったな……

 

 でも一番不思議なのは、さっき、ばらしていた馬肉がなんで凍っているんだ?凍るほど寒くはないし氷なんて持ってなかったよな?)


 目の前にある不思議な凍った馬肉に頭を傾げながら、一部の肉を玄関まで持っていき、エリノアに手渡す。


 空になった荷馬車を馬房の前のスペースの端に寄せて止めた。馬房の中は空で、あの死んだ馬しか飼ってなかったことが分かる。レオンが荷馬車の横のスペースと俺の車を交互に指さすので指示通り駐車した。


 車を停めて降りると、エリカが俺の手を引っ張って家に入っていった。


「おじゃまします」


 言葉が通じないことは分かっていたが、無言で入るのも気が引けたので日本語であいさつした。

 そのままエリカは、テーブルの前の席まで俺を連れて行き、椅子に座らせる。エリノアが干し肉とビールのようなぬるい酒を出してくれた。レオンは木のジョッキを俺の方に掲げると、一気に飲み干した。


 パシーン


 エリノアがレオンの後頭部を叩いた。レオンはエリノアの方を向き、何故か謝りながらご機嫌を取ってお代わりをもらっていた。エリカは二人のやり取りを見て笑いながら木のコップに口を付けている。不透明な容器なので中身は分からないが水かジュースなのだろう。美味しそうに飲んでいる。


(レオンの飲みっぷりを見ると、毒とか考えなくて良いかな?いただこう)


 冷たいラガービールに慣れている俺としては、のど越しに不満はあるが、ハーブが使われているのだろうか?香り高く、苦味が僅かで濃厚な味わいにこれも有りだなとほほ笑んだ。


 俺の笑顔に気が良くなったのか、レオンが干し肉の入った皿を俺の前に押してきた。ひとつ摘み齧ると、強い塩味だが噛むほどに肉のうまみが出て来て美味しかった。ただ、コショウが使われてないのか匂いが少し気になったが、旨さには変わりなくビールみたいな飲み物とよく合った。


『ああ、おうお』


 エリノアがステーキを持ってきて目の前においてくれた。さっき家に運び込んだ馬肉のようだ。凍っていたはずなのにいつの間に解凍したのだろう?ナイフで切ってみると、レアに焼かれているのだが中心まで火が通っているようで、切り口全体から肉汁が出てくる。


(うわ、これは旨い!俺の居た松本駐屯地のある長野県も馬肉が有名で、いろんな店で食べたけど、これ以上の味は無かったな)


 すぐに黒パンとサラダが出てきた。


(さすがにパンは焼き立てじゃないか。少し固くてボソボソしてるけど、レオンの真似をしてステーキの肉汁を浸けて食べると旨いな。酸味がそんなにしないから、ライ麦だけじゃ無く小麦粉も混ぜて焼いてるのかな?サラダは塩だけかな?それでも野菜の味もしっかりして旨いな)

 

 食事が終わった後、エリカがベッドのある部屋に案内してくれたが、車にあるベッドを見せて、ここで寝るというと納得してくれた。というか、エリカもここで寝ると言い出したのか、レオンがエリカを担いで家に帰って行った。夜遅くまでエリカの泣き声がずっと聞こえた。


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日曜と木曜に掲載予定です。


会話の「」内は基本地球の言語を、『』内は異世界での言語という風に表現しています。お互いの言語学習が進むと理解出来る単語が増えて読める様になって行きます。


youtubeで朗読させてみました。

https://www.youtube.com/playlist?list=PLosAvCWl3J4R2N6H5S1yxW7R3I4sZ4gy9


小説家になろうでも掲載しています。

https://ncode.syosetu.com/n3026hz/

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