第2話 馬車 前編 ガイア1815年10月15日
3日目もまた同じようにドローンで検索しながら進むと、昼前に道らしき跡を見つけた。
「あれ?これは
自動車とはタイヤの幅が違うが、確実に轍だ。自転車ぐらいの細い轍が2本並行に走ってる。踏み固められて雑草の生えてない道。裸で下着すら身に着けてなかった緑色の人とは違う、文化的な生活を送ってる人が居る証拠だ。
道沿いにドローンを飛ばしてみる。2㎞程先であの緑色の人たちが馬車を襲っていた。襲われている馬車の前には、服を着て剣で応戦している人が居た。馬車の上には槍を振るっている人も居る。
「人だ!人が居た!」
俺はドローンをその場でホバリングさせながらキャンピングカーを走らせた。肉眼で見える距離まで近づいたところで、道路わきの林の中に車を隠しライフルをもって近づく。
こん棒や細長い木の棒を持って、半円になって囲んでいる緑色の人が10人ほど。後ろで火の玉を投げつけているのが2人。一回り大きなボスのようなのが1人。やはり昨日襲って来た緑色の人達と同種族のようだ。全員、裸で身長も130㎝ぐらい。ボスだけ160㎝ぐらいある。うまい具合に、ほぼ真横から襲撃が出来る。
「シロ、Bite!」
シロに1番近い前衛の緑色の人を襲わせ馬車の人たちの負担を減らさせる。
俺は後ろに居るやつらを狙う。距離は約300m、俺のライフルは200mに照準を合わせている。100mほど駆け寄り、ボスと火の玉を投げていたやつらを、続けざまにライフルで狙い撃つ。3人とも胸に弾が当たり、派手に後ろへ飛んで転がる。馬車から少し離れたところに居る前衛も、2人倒してマガジンを替えリロード。残りは射線上に馬車や戦っている人が重なるため、馬車に向かって駆けていく。
急に新手が現れて、ボスが倒されたせいだろうか、残った緑色の人たちは逃げ出した。馬車とは反対側に逃げ出したので、背面から4発マガジンにある弾全て発射。逃げた奴等は全員倒せた。両手剣の人は4人倒したようだ。
緑色の人が居なくなり、安全が確認できたところで馬車に歩いて近づく。
シロが戻ってきたので頭をなでながら馬車の方を向くと、先ほどまで緑の人達と戦っていた男が、両手剣を構え怒鳴ってきた。
『いあううあ!おあえああいおおあ!』
意味が分からない。もちろん日本語ではない。かといって英語でもない。今まで聞いたことのない言葉だった。
「大丈夫か?Are you okay?」
日本語と英語で話しかけてみたが、男の表情は変わらない。警戒したままだ。
両手剣を上段に構えなおしながら、すり足でじりじりと近寄ってくる男。
パコーン!
なんかいい音が響いた。
後ろにいた女性が、手に持っていた槍の柄で男の頭を叩いたのだ。訳の分からない言葉でけんかを始める二人。少しすると女性が前に出てきた。
『「こんにちわ hello bonjour olá……」』
「え?あ、こんにちは」
日本語で返すと、彼女は目を見開き、やっぱりという顔をして男と話しだした。男も両手剣を渋々鞘に戻し、熱心に二人で話し出した。
二人の会話が分からないので周りを見渡すと、馬車の荷台から目だけを出している子供が居た。いや、目だけでない、頭の上に耳がふたつ有り、ピコピコと動いていた。そういえば今話し合ってる男女も、頭の上に耳が有りお尻に尻尾がある。
男性の方は枯草のような色の髪で、オレンジの瞳、軽く日焼けをしているのだろうか薄茶色の肌。なによりも特徴的なのが髪型だ。手櫛で癖が付いたのだろう油っ気のないオールバック。その髪が殺気で逆立ち、まるでライオンの
女性の方は、茶色の髪にひと房前髪が白い。瞳は明るい緑色。そして、白い耳。全体的に白いが先っぽだけ黒い尻尾。大きな胸部装甲も相まってなかなかの美人だ。
女の子は、荷馬車に隠れているため詳しくは分からないが、枯れ草色の髪に緑色の目、茶色の耳、そして全体的に男性よりも薄い茶色の肌だ。
(これがいわゆる獣人という人たちなのか?やっぱり異世界だよな。それにしても、この子供ちっちゃくて可愛いな。餌付kっじゃ無くて仲良くなれるかな?)
俺はペットショップで子猫や子犬を見た時と同じ気持ちで考えたのだが、他人が聞けば、おまわりさんを呼ばれそうな物騒な案件だなっと苦笑する。
驚かさないようににっこりと笑いながらゆっくりと近づき、ポケットから飴をふたつ取り出た。ひとつは包装紙を取り自分の口に。それを見せながら、もう1つを子供に手渡す。おどおどしながら受け取った後は、不思議そうに眺めたり匂いをかいだりしながら、やがて俺の真似をして包装紙を取り除き口に入れた。
すると目を大きく見開き、口も大きく上下に開けた。口の中の飴が見える。口の中で舌が動く。目を細め
『おえ、おいいいえ』
何を言われているのかわからなかったが、その子の笑顔を見た俺は、腰を下ろし同じ目線になって頭を撫でてやった。女の子はうれしそうに笑っていたが、それに気が付いた男は勢いよく俺を突き飛ばし、女の子を抱き上げ距離を取った。そしてまた女性に殴られていた。
また喧嘩を始めた男女二人が一息ついたところで、女性が話しかけてきたがお互いに言葉が分からない。
(何が言いたいのだろう?訳が分からん。感謝ってだけじゃ無さそうだし……
両手で台形を描いてすぐ下に四角?あぁ家か?そして自分達を指差した……家に誘われてるのか?
取り敢えず人里を探していたし、丁度良いかも。
男の方はまだしも、この女性は信用しても良いかな。毒でも盛られなきゃ大丈夫だろう。いつかは誰かを信用して頼らなければ、言葉も覚えられないしな。)
俺は彼女の提案にうなずいた。女性は明らかにほっとし、女の子はうれしそうに手を伸ばしてきた。しかし男性は降りようとする女の子を制し、抱きしめる力を強めると俺から距離を取った。この三人は親子なのかもしれない。そしてこの男は間違いない親バカだ。
話がまとまると、彼らは馬車に向かい馬の様子を伺った。
(うわ、これは足の骨が折れているんじゃ?確かJRAでは治療出来ないとその場で殺してたよな。この馬も殺処分かな?)
馬車を曳いていた馬はひどい火傷をし、足を骨折していた。おそらく襲った緑色の人たちは、逃げられないように馬を真っ先に狙ったのだろう。彼らは馬車から馬を外すと、馬の首を抱き締め撫でた後、一撃で首を切り落とした。この方法が1番苦しまずに死ねただろう。冥福を祈って手を合わせた。
彼らは馬車を諦め、わずかな手荷物を持って歩くつもりのようだ。俺は彼らに待ってもらうようにジェスチャーすると、林に戻り、キャンピングカーで彼らの元に戻る。
馬が引っ張っていないのに動くキャンピングカーに、目を見開いて驚いている。車を指さし、わなわなと震える口を半分開いてこっちを見ている。
俺は車からハンマーや釘、ノコギリ等を出し、木を切り、馬が繋がれていた
このカプラーは、山小屋にあるリヤカーを引っ張ることが有るかもしれないと買っておいたものだ。カプラーを取り付けた馬車を、キャンピングカーに取り付けたヒッチポールと連結する。
作業をしている間に女性が我に返ったようで、倒した緑色の人の胸にナイフを突き立て、なにか石のようなものを取り出し渡してきた。胆石等とは何か違うようで、艶のある黒い石が6個、黄色い石が2個、一回り大きい黒い石が1個だった。
血が付いていて嫌なので遠慮したのだが、裏のない笑顔で渡してくるので、とりあえず受け取りZAPロックに入れた。
男性の方も、俺の意図が分かったのだろう。馬を解体し、皮と肉の塊を馬車の荷台に詰め始めた。途中から女性も加わったが、手際良く、とても綺麗な解体だった。
女の子は最初、俺のやる事を興味深そうに見ていたが、やがてシロに抱きついたり撫でたりして遊びだした。解体自体は見慣れているのか興味が無さそうだった。
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日曜と木曜に掲載予定です。
会話の「」内は基本地球の言語を、『』内は異世界での言語という風に表現しています。お互いの言語学習が進むと理解出来る単語が増えて読める様になって行きます。
youtubeで朗読させてみました。
https://www.youtube.com/playlist?list=PLosAvCWl3J4R2N6H5S1yxW7R3I4sZ4gy9
小説家になろうでも掲載しています。
https://ncode.syosetu.com/n3026hz/
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