第1話 草原と小川 ガイア1815年10月13日〜14日

「なんじゃこりゃー!ここは何処なんだ?」

 

 そう言いたくなるのも仕方ないだろう。霧に包まれるまでは山奥の細い山道に居たのだ。それが今、だだっ広い草原のど真ん中に居る。

 鬱蒼と生えていた巨木は無く、2m有るか無いかぐらいのひょろっとした木が所々に生え、膝ぐらいの高さの草が生えている。草の間からは黄土色の土が見え、舗装路どころか車に踏みしめられたような跡すら無い。

 

「そうだ、ナビ、ナビはどうなってる?」

 

 ナビの画面は先程まで居た山道を表示している。しかし、車の向きを示す矢印が灰色になっている。GPS信号を受信している時は赤く表示されるのに、トンネルに入った時のように灰色なのだ。

 

「現在地は?」

 

 現在地を表示してくれる筈のボタンを何度押しても反応してくれない。それどころか「GPS信号が受信出来ません」と表示される。ナビの設定からGPS受信状況を確認しても駄目だった。

 

「そうだ、スマホやタブレットは?」

 

 こちらも位置情報どころか携帯の電波もWIFIも受信出来なかった。まだ、携帯の電波が受信できる場所に居たのに……

 唯一受信出来たのは、キャンピングカーの中に設置してあるサーバー代わりのデスクトップパソコンのWIFIだけだった。

 このパソコンにはインターネットに接続出来ない半年の間、動画や電子書籍、図鑑や辞書、果ては落とせるだけのサイトやwiki等を放り込んであり、暇つぶしに使うつもりのものだった。


 茫然自失となり外の様子を眺めていたが、シロが俺を心配してか身体を擦り付けてきた。

 

「そうだな。ちょっと外の様子を見てみるか」

 

 運転席のドアを開けて外に出ると、シロも一緒に降りてきた。

 

「ここは何処なんだろうな?」

 

 シロに話かけると、シロは首を傾げた。

 

「そうだよな、お前にも分からないよな」

 

 見渡す限り、黄土色のあまり肥えてなさそうな土と草とヒョロヒョロな木しか見えなかった。太陽の位置から北の方、遥か遠くに雪を頂いた山脈が見えるだけだった。

 

「誰か、人は居ないかな?あ、ドローンで高いところから見れば何か有るかも?」

 

 狩猟用の道具を入れた工具箱からドローンを取り出しセットする。このドローンは約2時間飛行でき、10㎞先まで飛んで映像を届けてくれる。しかもGPS信号を使ってプログラミングしたルートを全自動で飛行し戻ってくるのだ。

 

「でも、GPS信号を拾えないとなると全部手動で飛ばさないと行けないのか……」

 

 まずは100m上空まで飛ばし、360度回転させてみた。

 

「やっぱり、何も無いのか……」

 

 100m上空からでも多少のデコボコはあったがひたすら草原だった。

 10mまで高度を落とし北の方へと飛ばしてみる。

 

「お、馬?でもなんで額に角が1本生えてるんだろう?ユニコーンなのか?そんなの伝説以外で聞いたことないぞ?」

「鹿?でもなんで角がエレキングみたいなんだ?」

「ライオンもいる。しかも牙が生えてる。なんか似たようで違う生物ばかりだな。これってもしかして地球じゃなくて異世界なのか?」


 さらに北へ飛ばすと、緑色の肌をした人の様な生き物達が仔馬を棍棒で殴っていた。

 

「お!人が居た!でも服も何も着てないよな?土人レベルの文化しか無いのか?それにしても緑色の肌って……ホモ・サピエンスとは違うよな……」

 

 すると、遠くから1匹のユニコーンが集団へと走っていった。頭から緑の集団に突っ込み、角で1人の緑色の人を串刺しにした。勢いのまま通り抜けて止まると、頭を振り角に刺さった緑の人を捨てる。そしてUターンし、また突っ込んで行く。再度、緑の人を串刺しにしたが、今度は周りに居た緑の人が反撃した。ある者はこん棒で殴り、ある者は飛び付いて脚にしがみつく。ユニコーンはしがみついた緑の人を振り解き、駆け抜ける。首を振り、角に刺さった緑の人を捨てると、また向きを変え突っ込んで行く。

 もしかしたら殴られていた仔馬は、ユニコーンの子供かも知れない。三度、緑の人を角に刺したユニコーンは、ガクッと右前方へ体制を崩す。こん棒が右前脚の肘関節を打ち抜いたようだ。右前脚でうまく地面を捉えられなかったユニコーンは、前回り受け身をする様に地面に転がった。

 緑の人は全員で倒れたユニコーンに群がり、頭や身体を殴りだした。ユニコーンは立ち上がろうともがき、角や後ろ足で攻撃をする。しかし、右前脚の踏ん張りが効かない。ユニコーンは再び倒れ、やがて動かなくなった。

 

 緑の人達はそれぞれユニコーンの腹に直接齧り付き、皮を引きちぎり、頭を腹の中に突っ込み、内蔵を引きずり出して食べ出した。ユニコーンからあぶれた奴らが仔馬に、仔馬にもあぶれた奴が死んだ仲間の内臓に喰らいついた。やがてその内の一人が、ユニコーンの肋骨の内側に手を入れ何かを引きちぎった。引きちぎった何かをそのまま飲み干すと急に身体が光だし身体がひと回り大きくなった。

 

「ナイフとか包丁とか持ってないのか?しかも直接腹の中に頭を突っ込んで食べるなんて、犬か狼みたいだな。それに何だ?体が光って大きくなったぞ?あんなのとコミュニケーション取れるのか?無理だろう?」

 

 内蔵を食べ終わったのか、一先ず満足出来るだけ食べたのか分からないが、緑の人達はユニコーンと仔馬の死体を引きずって、何処か西の方に行ってしまった。


(もしかしたら、あっちの方に集落とかが有るのかも知れないけど、あれがこの世界の現地人だとしたら仲良く出来る気がしないな。というか俺まで食べられそうだ)


 あの緑の人達が向かった方向とは、逆の東にドローンを飛ばす。途中何度かテレビで見たアフリカのサバンナに住む動物に似た生き物を見つけたが、やはりどこかが違っていた。

 

「地球のパラレルワールドかも知れないな……なんかSF小説みたいだな」


 っと他人事の様に考えていた。

 

 やがて、さっき上空からでは分からなかった小川を見つけた。幅10㎝も無いような小川だ。大きくえぐれている所もあるので、雨期にでもなれば水かさが増えて大きな川になるのかも知れない。川に沿って南にドローンを飛ばすと、すぐに水が枯れ川は途切れた。

 

「水が枯れた先には集落とか無いよな。川沿いに北へ向かうか」

 

 ドローンを回収してキャンピングカーを東に進める。程なく川に到着した。キャンピングカーから降りて周辺を調べてみる。動物の糞や足跡がいくつも見つかった。鹿とか馬のような足跡の他に肉食動物らしい足跡もある。ただ人の足跡や靴の跡は無かった。


「川沿いに北上する事は決めたけど、さっきの緑の人達には会いたくないな。ドローンを飛ばして、少しづつ安全を確認しながら進もう。幸い水も食料もたっぷりあるしな」

 

 ドローンを2〜3㎞先まで飛ばし、目印を見つけたらそこまで車を進める。何度か繰り返し、お昼になったので、朝買っておいたコンビニの弁当をキャンピングカー備え付けの電子レンジで温めて食べた。

 

「人に会えるか、生きていけるか心配は有るけど……まあ、訓練や教育よりも遥かに楽だなぁ。天候さえ良ければ電気も使えるし、水もポンプで川から汲めばいい。肉も狩れば良いけど、後は野菜かぁ。どこかまともな集落でも有ればそこで売ってもらえないかな?」


 ドローンで偵察して進むを何回か繰り返してるうちに夕暮れになった。

 

「さて、どこで夜営しよう?物陰に隠れるのも良いけど、上から襲われて太陽光パネルを壊されたら治せないしな」

 

 少し高さのある丘の上にキャンピングカーを駐める。360度見渡せるし、どちらの方向へも走っていける程度の坂だ。車体が水平になるように電動ジャッキを操作し駐車した。これで揺れも無く、傾きも無く、ぐっすり寝られるだろう。そして運転席のカーテンを閉め、外から光が見えないか念入りに確認した。


「よし、これで光で変な奴を引き寄せることは無いかな?」

 

 パスタを茹でて軽い夕食を取ると、タブレットをPCに繋ぐ。図鑑を見て今日見た動物を調べるが、やはりどこにも載っていなかった。

 

「やっぱり、ここは異世界なのかな?でもアニメじゃ大抵、神様や女神さまが出て来て説明してくれるんじゃないのか?それに俺、死んで無いよな?トラックにぶつかって死ぬのが定番だよな?」

 

 もしかしたら、あの霧の中で間違って崖から落ちたのか?等と考えていたが、このキャンピングカーには傷1つついてない。生きたままこの世界に飛ばされたのだ。


 考えても答えの出ないことを、いつまでも悩んでも仕方ないので、まだ、21時過ぎで早いが寝ることにした。一番後ろにあるセミダブルベッドに横たわり電気を消した。


 

 ドンドンドン

 

 寝ていると車体を殴っているような音と振動がする。慌ててベッドにあるTVの電源を入れて、アラウンドビューモニターに切り替える。車体の周辺360度全域を映すモニターに、リヤバンパーを緑色の人が3人こん棒で殴っている姿があった。

 

「くそ、買ったばかりの車に傷をつけやがって!」

 

 運転席に行き電動ジャッキを元に戻す。数十秒の事だが、その間も緑色の人達はリヤバンパーを殴っている。ジャッキが戻り、警告灯が消えると直ぐにメインスイッチを入れ、ギヤをバックに入れる。すると衝突防止のアラームが鳴り、モーターが動かない。急いでギヤをパーキングに戻し安全装置を全て切る。再度バックに入れると、今度は警告音は鳴らない。アクセルペダルをべた踏みした。3人の緑色の人は、今まで殴っていたリヤバンパーに弾き飛ばされて、倒れたところをキャンピングカーが乗りあげていく。リヤタイヤが障害物を乗り越えて地面に落ちた感触で、今度は前進にギヤを切り替えまた乗り上げていく。バックモニターを見ると、左右の人は車に押しつぶされていたが、真ん中に居た人は撥ねられて仰向けに倒れていた。身体をねじって手を付き、四つん這いになり起き上がろうとしていた。俺はハンドルを切って、今度はその緑の人を右リヤタイヤで引き潰した。


 モニターで少し様子を見ていたが、動く様子も無いので散弾銃を構えながら車を降りて見に行った。

 

「なんだこいつら?二足歩行だったけど人じゃないよな?」

 

 緑色の人たちは、身長130㎝ぐらいでやせ細っている割には膨らんだ腹部。マダラに生えた長い髪……昔見たことのある日本画の餓鬼そっくりだった。ドローンの映像で見た時は普通の人のサイズに思ったが、思ったより小さかった。

 息の根が無いことを確認して安心すると、周りの状況に目が行った。夜明け前であるが、もう周りが明るくなってきている。おそらく明るくなったことで見つかったのかもしれない。バンパーの塗装が少し剥げていたが凹んだりしてないことに安心した。

 

「ここに居たらまた襲われるか?さっさと飯食って移動するか」

 

 昨夜、水に付けていた米を炊いて、即席の味噌汁と目玉焼きで朝食を食べた。


 前日と同じように、ドローンで索敵しながら車を進めた。岩や崖を避けるため、時々川から離れることが有ったが、出来るだけ川沿いを走った。一日走っても変わりない風景が続く。そして日が暮れた。昨夜と同じように夜営するが、今度は襲撃も無くぐっすりと寝ることが出来た。

 

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あけましておめでとうございます。

本日、2話投稿です。

第0話プロローグもよろしくお願いします。


日曜と木曜に掲載予定です。


youtubeで朗読させてみました。

https://www.youtube.com/playlist?list=PLosAvCWl3J4R2N6H5S1yxW7R3I4sZ4gy9


小説家になろうでも掲載しています。

https://ncode.syosetu.com/n3026hz/

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