キャンピングカーで異世界放浪
D助六
第0話 プロローグ 西暦2035年11月1日
「よし、これで忘れ物は無いよな」
買ったばかりのキャンピングカーに、食料や生活雑貨、工具等を積み込む。そして一番最後に、助手席の後ろに特注で設置してもらったガンロッカーへ、祖父が愛用していたライフル銃 BEER MK3 HUNTERと散弾銃 MOSSPARK 500 コンボを入る。装弾ロッカーには実包、ライフル用に.308winと散弾銃用に装弾とスラッグ弾、合計800発。更にライフル用の火薬3㎏、火薬の入ってない弾丸を1000発分入れ、共に鍵を掛ける。
俺は松村博25歳。尊敬する祖父の跡を継いで、小さい頃からの夢であった職業猟師に昨年転職した。しかし、わずか一年で育ての親でもあり、猟師の師匠でもある祖父母が相次いで亡くなった。祖母が亡くなるのを見送る様に、翌日祖父も亡くなったのだ。共に大往生だった。「仲の良かった二人らしい」と葬式に来てくれた人達は、微笑ましそうに二人の遺影を見ながら手を合わせてくれていた。
ここは中部地方のとある小さな町。中学校までは有るが、高校は隣町まで行かないと無い小さな町。ここに俺の家はある。祖父が祖母の為に建てた家だ。元々1年中、山の中に住んでいて、町に家なんて必要なかった祖父が、祖母と出会って一目ぼれ。祖母が「人も居ない山の中で暮らすのは無理。人里に家が無い人とは結婚できません」と断ったら、この家を建てたそうだ。
俺も、事故で両親が無くなった3歳から中学を卒業するまでの間、この家に住んでいた。祖父に憧れていた俺は、小中学生の間、弟子と称して一緒に狩りに行っていた。雪深い山の中で共に獲物を追い、祖父が倒した鹿や猪の解体をし、山小屋に寝泊まりした。当然、銃には触らせて貰えなかった。
そこで少しでも早く、ライフルの扱いに慣れたいからと、陸上自衛隊高等工科学校に俺は入った。そして昨年24歳で除隊するまで自衛隊に居た。その間も、20歳で散弾銃の所持許可を取り、休みの度に任地の松本市周辺の山に入り、知り合った近くの猟師と共に狩りを続けた。
そして昨年、祖父が職業猟師を引退すると言い出したので自衛隊を除隊した。祖母がもう長くないという理由だった。
晩秋の頃、この家に戻った俺は、祖母の側に居ようとしたが、祖母から祖父と二人、家から追い出された。
「爺ちゃん、今年で隠居するらしいから、二人で山に行って最後の修業を付けて貰って来なさい」
そう言われた俺たちは渋々二人で山小屋に行き、猟師に必要な知識とコツを教えてもらった。
猟期が終わって家に帰ると、祖母が嬉しそうに出迎えてくれた。
「本当は毎年、冬が来るのが嫌だったの。山に爺ちゃんを捕られる冬が。もう、これからはずっと一緒に居られるのね」
と、喜んでいた。その夜は祖父の晩酌に珍しく祖母も付き合い、「今度の年末年始は温泉に行こう。」「家族風呂で露天が有るところが良い。一緒に雪を見ながら温泉に入ろう。」等と、どこの熱々カップルですか?と言いたくなるぐらい楽しそうに次の冬を楽しみにしていた。
その翌朝、祖母は布団の中でにこやかな笑顔を浮かべながら遥か高みに登っていた。
祖父は祖母を抱きしめながら「そっか、そんなに次の冬が楽しみか。一緒に温泉行こうな」と言いながら涙を流していた。
そして翌朝、祖父は祖母の横で添い寝をしながら頬杖をついて、祖母の顔を見つめたまま遥か高みへと登っていた。
11月15日から始まる猟期の前に、さらに山奥にある拠点の山小屋に移動する。半月も早く出発するのは、小屋の横にある小さな畑から野菜を収穫し、雪に備えるためだ。雪深く長期間閉じ込められる可能性もあり、肉や米だけだとビタミン不足が心配になる。
凍結すると痛む芋類や玉ねぎは小屋の中、囲炉裏の近くの地下収納庫に入れる。白菜は直接霜や雪が付かないように、外側の葉で全体を包み藁や紐で頭頂部を括り、キャベツや人参と一緒に雪室に。ネギは根っこから抜いた後、小屋のすぐ近くにまとめて植え替え、白い部分をしっかりと土の中に埋める。
「白菜、キャベツにネギは雪の中で寝かせると、甘くなって美味しくなるんだよなぁ。今年はいろんな種類の鍋のストレート出汁を買ってきたから、雪に埋もれて身動き出来なくなっても楽しめるな」
電気も電波も水道も無い、雪に埋もれた山奥の小屋。時折、捕まえた猪や鹿を4WDの軽トラで山裾の肉屋に持っていく以外、人とは会わず猟犬のシロと二人で過ごす。昨年までは家で祖母が待って居た為、時折家まで戻っていたが、今年からは誰も居ない。
雨戸を閉め、鍵を掛け、キャンピングカーに乗り込み出発した。
このキャンピングカーは、トンヨタのカンムリロードをベースに作られた電気自動車で、天井一面に設置された太陽光パネルは効率がかなり上昇し、晴天ならば高速で500㎞走りながら、一日中エアコンや冷蔵庫を使い続けても充分な発電能力がある。駆動系はホイールの中にモーターが仕組まれている4WD。さらにエンジンが必要無くなったため、床面が全面フラットになり、停車時は運転席と助手席が回転して後ろ向きで座れるという、居住性がかなり向上したモデルだ。屋根の上の雪さえこまめに払えば、今年からは小屋の中で電気が使えるだろう。水も井戸から電動ポンプで小屋の中に引き込む予定だ。その為の工具や材料も積んである。
山小屋では収穫出来ないひと冬分の米60㎏や小麦10㎏に漬物で使うつもりの塩10㎏、工具や水中ポンプ等の重量物を載せていても、十分なトルクで山道を駆け上がっていく。国道から町道、町道から農道、農道から山道、そしてガードレールも無い谷側は崖、山側は急斜面、道幅は車1台がやっと通れる道をゆっくりと登っていく。ここから先は所々に対向車とすれ違う為の待避所が何箇所か有るだけだ。とは言っても未だかつて1度も対向車と出会った事は無いが。
何度かカーブを曲がった所で異変に気が付いた。霧が出て来たのだ。
「あれ?こんな時期に霧が出るなんて珍しいな。濃くなる様だったら待避所に入れて晴れるのを待つか」
しかし、悪い予想は当たるもので、ドンドンと霧は濃くなり数メートル先までしか見えなくなった。俺は崖から落ちないように、歩くよりも遅く徐行をして、どうにか待避所に車を入れた。その時にはもう雲の中にでも入った様に一面白くなり、サイドミラーもバックカメラも全て白い霧しか映さなくなった。
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あけましておめでとうございます。
処女作です。よろしくお願いいたします。
本日は第0話プロローグと第1話草原と小川を投稿させていただきます。
日曜と木曜に掲載予定です。
youtubeで朗読させてみました。
https://www.youtube.com/playlist?list=PLosAvCWl3J4R2N6H5S1yxW7R3I4sZ4gy9
小説家になろうでも掲載しています。
https://ncode.syosetu.com/n3026hz/
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