第38話 義人
クロエの部下たちによって、ゼノンの妾達とチャギスの首が都エイレーネに護送された。
しかし、彼女らと首桶を見て、ゼノンは却って苦々しい表情を浮かべた。
腹心のエルフ族ジュリアスは恭しく述べる。
「これで御父上の直接の仇は誅されましたな。クロエ殿は閣下が怒りを納め、兵を退くことを提案されています。いかがなさいますか」
ゼノンは細い目を引き攣らせる。
「は、何を今更。このゼノン、トゥーギンを討ち取るまでは決して兵を退くことはない」
かくて、ゼノンの軍は都を発し、ジョシュア州へと猛烈な勢いで迫って行った。
◇
ジョシュア州に侵入したゼノン軍は、小村を屠りながら進軍していった。
エルフ兵は黙々と動くもの全てに矢を射かけ、人のみならず家畜までもが屍を晒した。
領土の端から順に届く凶報を受けて、太守トゥーギンは蒼ざめた顔で部下たちに言った。
「ゼノンのあの強力な軍にどうして抗えよう。この度の災厄を招いたのは、わしの不徳である。この白髪首をゼノンに献じて、どうか領民やお前たちの命を助けてもらうように図ろう」
部下達は目に涙を浮かべて、彼を止める。
「どうして太守様を見捨てて我々だけ生きながらえられましょう」
部下達は策を議して、タイシャン郡の郡守で聖者コンフシウスの二十世の孫であるコンジチョルに助けを求める急使を送った。
コンジチョルはトゥーギンの知己で、事あるごとにゼノンを批判する文書を流布している人物であったからだ。
しかし、ゼノン軍の進撃は素早かった。
ゼノン軍はたちまち州都ジョシュアの目と鼻の先まで到達してしまった。
威嚇のためか、エルフ弓兵は一斉に弓を構えて
金属を擦過するようなその音に、トゥーギン達は恐れ慄いた。
城兵達が死を覚悟したその時、包囲軍に異変が生じた。
包囲の一角を文字通り切り開いて、蛸のような紋様の旗を掲げた騎兵の一群が城壁へと向かってきたのだ。
先頭を走る
トゥーギンが目をこらすと、蟲人と蜥蜴人の騎士に続いてやってきた指揮官らしき馬上の人物が高らかに声を上げた。
「我が名はハーゲン郡守クロエ・アルカディウス!ゼノンの此度の軍旅は、敵討ちにかこつけた侵略である。義によりて、太守トゥーギン殿を助けに参った。開門されたい!」
トゥーギンは門番に開門を命じると急いでクロエ達を招き入れた。
彼はクロエの手を取った。
「今の世にも、
トゥーギンは目に涙を湛えて、そう言った。
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