第17話 反ネグローニ連合

 打倒ネグローニのためダンウィッチ城に騎士たちが集まっていた。

クロエもその場に間に合ったが、城の大広間は既に騎士たちでごった返していて、かなり後ろの方に立たざるを得なかった。

騎士たちを前に、盟主となったミハエル・アンゲロプロスが壇上に上がる。

ミハエル・アンゲロプロスは容姿も優れ、体躯も大きい。

浅葱色のサーコートの下には、鏡面の様に磨かれた鎧を着ている。

それ以上に輝きを放っているのは、やたらに歯並びの良い彼の真っ白な歯であった。


「逆賊ネグローニを討つという崇高な志を持って集まってくれた諸将に、まずは感謝の意を表したい。この同盟の発起人は、我が親友ゼノンであるが、私もまったく同じことを考えていたところであったので、勢力の面から言っても家格の面から言っても私が盟主となることになんらの問題もあるまい。そうだな、友よ?」


「私はそれで構わないよ。続けてくれ、ミハエル」


「我々はティンダロスの関を打ち破り、都アムルタに凱旋し、皇帝陛下を救い出すであろう。戦いを始める前に、皆にこの同盟の主要な面々を紹介しよう。まずは、私、ミハエル・アンゲロプロスだ。かつて四代に渡り大将軍や総主教といった三公を排出したアンゲロプロス家の嫡流たるこの私は、家門に恥じぬ働きをすることを約束しよう。次に、ガブリエル」


立ち上がったひょろ長い男は、その目に猜疑の暗い光を宿していた。

長い金髪の前髪を指で捻じるその様子には、神経質な印象を覚える。

こちらは鎧は着ておらず、ごてごてと刺繍の入った長衣を纏っていた。


「ガブリエル・アンゲロプロスだ。どちらが嫡流かは意見を異にするところではあるが、ここは我が従兄弟を盟主として仰ぐことにひとまず同意する。私のように高貴な家柄のものには戦場で身体を使うよりも、後方で頭を使う大切な仕事がある。そういうわけで、兵站は私が一手に担うので、よろしく」


慇懃無礼といった印象のガブリエルを前に、騎士たちは少しざわついた。

中には、舌打ちをするものもあった。


「次にゼノン・ゲオルギアデスだ。我が親友ゼノンは、果敢にもネグローニの暗殺に挑み、失敗した後もくじけずにこの同盟の発起人となった。不屈の男にして、天下の義士である」


「過分な紹介に預かり光栄だ。わたくしゼノンは参謀を務めるが、必要とあらば前線にも赴く所存だ」


クロエはゼノンを見て、しばらく見ない間になんだか顔が険しくなったな、と思った。

ミハエルの紹介ではかなりの苦労をしたようなので、そのせいかもしれない。

次に促されて壇上に立った者も、クロエのよく知る人物だった。


「ホーソン・レフコンスだ。角帽党の乱を機に、私財をなげうって国防の任に立ち上がった。天魔道ラザロを討った男といえばわかってもらえるかな。前線で剣を振るうつもりさ」


白い鎧を着たその男は、クロエがルシウス先生のもとで共に学んだ学友であった。

続く将軍も知己である。


「ダモクレス・マクリスだ。私を将軍に任じてくださった先帝のためにも、ネグローニを討ち果たす。共に頑張ろう。よろしく頼む」


その時、城門の外から“俺もいるぞ!"との雄叫びにも似た大音声が聞こえた。

開門すると、猪たちに乗ったドワーフの一軍が並んでいる。

旗手の持つ旗には、岩を割って噴き出す炎の意匠が描かれている。

一際大きな猪に乗った、赤毛で眼の青いドワーフが、周囲を睨め付ける。


「アレス・ディアマンテスだ。我ら南方のドワーフは、古き盟約と火神カタンガの導きに拠りて、アルカディア帝国の危機に馳せ参じた。同盟への参加を願うが、返答や如何!」


かくて、役者は揃い、戦いの火蓋が切られることとなった。

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