第7話 稲妻

 騎士ダモクレスに率いられ、クロエたち九頭竜騎士団は州都ブレから北に向かって進軍していく。

彼らは遂に角帽党の軍と平原で相対するところとなった。

敵の指揮官と思しき一つ目帽子の魔道が呵呵大笑する。


「ここから先は既に我ら角帽党の支配するところとなっている。貴様らも、罪を悔いてエナン教の教えに帰依するならば魔卒に取り立ててやるぞ」


騎士ダモクレスは剣を抜いた。


「鼠賊めが生意気をぬかすな。こちらは良民を虐げる畜生どもの降伏は認めない。根切りにしてやる」


騎士ダモクレスが号令をかけると州兵達は怒涛のごとく、角帽教徒達に殺到した。

ダモクレス自身も戦場を駆け、白刃を振るう。

ゲインがその様子を見てパルチザンを構える。


「うおっ、あのオッサン思ったよりやるじゃねえか。負けてらんねぇ、行こうぜ」


ゲインがまず乱戦に駆け込んでいき、次いでユスフもグレイブを引っ提げて馳せ参じる。

遅ればせながらクロエも剣を振るい、魔卒達を倒していった。

戦いは夕方まで続き、角帽教徒達は遂に後退していった。


 「昼間に倒した敵兵らは、近隣の沼地へ逃げ込んだようだ。追撃したいところではあるが、いかんせん足場に難がある」


騎士ダモクレスが苦々しげに言う。


「ダモクレス殿、我ら九頭竜騎士団にお任せください」


「ふむ、貴公らの今日の働きは中々のものであったが、それとてそこのご両人個人の武勇によるところが大きい。沼地では縦横に駆け回ることは出来ないぞ」


「私に考えがあるのです。もし失敗したならば、軍律に照らして私の首を刎ねてもらってかまいません」


「……その言葉に二言はないな。よし、やってみなさい」


クロエは直ちに騎士団の兵を集める。


「まず、みんなを三つの小隊にわけます」


「待ってくれ、姉貴。そんなことをしたら各個撃破されるんじゃないのか?」


「大丈夫、私を信じて」


クロエは三つに分割した部隊それぞれに、一人当たり二本の松明を持たせた。

夜陰に乗じて三方向から沼地に接近し、松明を灯す。

クロエは精一杯声を張り上げる。


「やぁやぁ!貴様らは包囲されているぞ!大人しく降ればよし!抵抗するならば天に代わって誅滅してくれる」


松明の数が十重二十重、実際には兵の数は大したものではないのに、角帽教徒たちは大軍に囲まれたと錯覚して慌てふためいた。


「今だ!」


クロエが剣を掲げると、松明を投げ捨てて兵士たちは角帽教徒に襲いかかった。

殺戮は一方的なものとなったが、冷静さを取り戻した敵の一群が乱戦を突破して沼地の外に脱け出した。

その中には敵の指揮官たる魔道らしき姿があった。


「ああっ、取り逃した!」


駆け抜けていく敵兵達の前にしかし、稲妻のごとく輝く一軍が斬り込んでいった。

それは白銀の鎧に黄色のサーコートをつけた騎士達であった。

騎士は次々と角帽教徒を屠り、魔道をも斬り伏せるのであった。

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