第3話 お、お兄ちゃんなんて呼んであげないぞ!
その晩、アンジェラは朝の五時に家に帰ってきた。
「た、たでぇまぁ。いんやぁ、壮絶な負け戦だったっぺ」
アーノルドと『世界新記録が出たんじゃないか?』というほどの熱い夜を過ごして午前様のアンジェラ。
なんせ、あまりの激しさに「第三次世界大戦が始まった!」と勘違いした、隣の部屋の老夫婦が竹槍をもって部屋に飛び込んで来たほどなのだ。
ベトナムの思ひで。
その衝撃に耐えきれず、ロス生まれロス育ちだというのにアンジェラは、別に手品をしてるワケでもなしに、マギー司郎みたいな茨城訛りが出てしまうほどであった。
「来年は海苔の養殖でもすてみっか」
と、2階の自分の部屋に入ろうとした瞬間、
「どこへ行っていた! こんな遅くまで!」
ぎくっ!
ドアの手を当てて、1階から聞こえて来た声の方を振り返ると、
「お、お兄ちゃん!」
一階のリビングから兄のゴンチチが怒りの形相で現れた。
「なんで起きてるのよ? こんな時間に」
「俺は毎日、朝練をしている時間だ」
そう言ってゴンチチは自分の乳首を挟むように両手に持っていたシンバルを思いっきり叩いた。
バイーン!(あっ!!!)
シンバルの大きな音が家中に響く。
シンバルにお乳首を挟んで飛び出したゴンチチの喘ぎ声が聞こえないほどの大きな音が響いた。
こうやってゴンチチは毎日、朝日の出ない内から500回乳首をシンバルで挟んで鍛えているのである。
名付けて『バンズがシンバル!? ゴンチチちゃんのお乳首朝マックの巻!』である。
「門限は十時のはずだぞ。こんな時間まで何やってたんだ」
バイーン!(あひっ!)
「別にお兄ちゃんには関係ないでしょ!」
「男のところへ行ってたんじゃないのか!」
ぎくっ!
アンジェラはピンポイントで針の穴を通す絶妙な兄貴の読みに「さすがだわ、伊達男!」と思わず感心してしまった。
バイーン!
「どんな男か知らんが、やめておけ、そんな男! こんな時間に外を歩いている奴など、どうせ碌な奴じゃない!」
「お兄ちゃんに何がわかるのよ!」
「お前、何だ、その口のところの穴は?」
「こ、これは!」
しまった!
「お前、まさか、男のルアーに引っかかったんじゃないんだろうな!」
「ち、違うわ!」
鋭い兄に次々とカウンターを喰らうアンジェラ。必死に言い訳を考える。
「こ、これは座薬を入れた時にパンティが裏返っただけなのよ!」
「お前、パンティが裏返ってんのか、今!」
し、しもうた!
次々と墓穴を掘っていくアンジェラ。
それもそのはず、アンジェラにとっては初めての朝帰りである。
『朝帰り 新聞配達 バカを見る』という川柳があるように、アンジェラは事前に親にバレないようにあらゆる言い訳を一応考えていた。
しかし、初めての朝帰りで言い訳を言い慣れておらず、言うタイミングを間違えてしまった。
今の『座薬でパンティが裏返っている』は帰路の途中に麻薬捜査犬の警察に職務質問された時用の言い訳だったわ。
「言え! どこの誰とニャンニャンしてたんだ! その相手をこのシンバルで真っ二つにしてやる!」
「ち、違うわ。これはパンティ麻雀をやってて裏ドラが乗ったから、その場で裏返したのよ!」
「お前、友達と何して遊んでんだ!」
しまった!
兄にバレない様に嘘をつこうとしたら、現実にした事よりも遥かにエロい事を言ってしまって、真実よりも変態になってしまう、うっかりミス!
ところで何なの、パンティー麻雀って?
「何なんだ、そのパンティー麻雀って!」
案の定、見逃さない兄にそこを詰め寄られるアンジェラ。弱っている相手の弱点を突く、いい攻撃だ。
「し、知らぬ! 存ぜぬ!」
「惚けるな、この下忍が!」
これは困った。
思わずパンティー麻雀と口走ってしまったけど、マジでなんなのか知らん。何だ、それ?
「何だ、パンティ麻雀って、お兄ちゃんに事細かく説明してみろ!」
「ほ、本当に知らないんです。勘弁してください、お兄様。私が聞きたいです、何なんですか、パンティ麻雀って」
その後、二人で『パンティ麻雀』でググってみたが、めぼしいものは何にも見つからず、そんなものはこの世にないことが判明した。
『ジャパニーズ SOD 企画もの』でも出てこなかったので、「本当にないんだな」と兄も納得してくれた。
バイーン!
「じゃあ、何だその口の穴はなんなんだ!」
「こ、これは!」
そうだ、元はそっちだった。
「白状しろ! お前、男にルアーで釣られたんだろ!」
「違うわ!」
「ルアーを認めたら、パンティ麻雀の件は許してやる!」
「ずるいわよ! そんなのインチキじゃない!」
卑怯な兄。
元は自分で言い出した事だが、アンジェラ、パンティ麻雀で崖っぷちです。
「釣られたんだろ!」
「ああ、そうだよ! 私がソーセージが美味しそうでルアーにパクついたバカ女だよ! 文句あんのか! 早朝シンバル乳首潰し野郎!」
「お前、ルアーに引っかかるなんて、下劣な女に成り下がりやがって!」
「仕様が無いじゃない! 超美味しそうだったんだから!」
「その男と今までよろしくやってたんだな!」
「そうよ!」
「どこの誰だ、その男は?」
「土下座高校のアーノルドよ」
「なに!」
アーノルドの名前を聞いて、ゴンチチの顔色が変わった。
「あの乳首レスラーのアーノルドだってのか! あんな奴のルアーに引っかかったってのか!」
「アーノルドのルアーは最高よ! あんなジューシーにソーセージに暴れられたら、どんな女だってイチコロよ!」
それを聞いて、ゴンチチの中にアーノルドへの嫉妬という感情が生まれた。
「あんな男とは別れろ!」
「何でお兄ちゃんにそんな事言われなきゃいけないのよ!」
「今まで、お前が選ぶ男に碌な奴なんていなかっただろ!」
「ぐっ!」
そう、過去にはアンジェラは幾度とボーイフレンドに言い寄られ、まんざらでもなく、恋仲になっていた。
しかし、アンジェラが惚れる男、惚れる男は悉く、なぜか付き合って一ヶ月くらいで「ぐああああああああ!」と突然奇声を上げてショッカーの怪人に変身してしまうのであった。
その度に仮面ライダーや兄のゴンチチが怪人を倒してきた。
以来、アンジェラは『怪人上手のアンジェラ』と改造を恐れた男達に距離を置かれ、こんなに可愛いのに男っ気ゼロだったのである。
「それは過去の話よ! アーノルドは違うわ!」
「どうかな! よし、俺が今度の大会でアーノルドをコテンパにしてやる! それで二度とお前には近づけさせん!」
「そんな、ずるいわ! 大学生が高校生相手に本気を出すなんて! お兄ちゃんはアーノルドに嫉妬してるのよ。ハンサムで乳首相撲の才能もお兄ちゃんより上だから!」
「なんとでも言え」
「童貞、ケツ毛畑、うんこ、ゴミ、しね」
「くだらん」
「もう、お兄ちゃんって呼んであげないんだから!」
「えええええええええええええええええ!」
アンジェラは怒って部屋に戻って行った。
「アンジェラ!」
アンジェラは怒ってしまった。
お兄ちゃんと呼んで貰えるのは、お兄ちゃんの特権。ソレを奪ったアーノルド。
ゴンチチは心に決めた。
何と言われようと妹に寄ってくる汚いハエは俺が追い払う。
アーノルド、待っていろ。
二度と妹に近づけさせないようにしてやる。
バイーン。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます