第2話 イケてる男子はソーセージをルアーにする

 その日はサタデーナイト。

 乳首部の練習を終わらせたアーノルドが率いるイケてる男子達は、一晩中遊ぶ為におめかしをして街へと繰り出した。


 アーノルド、ケビン、ダニエル、マイケルの土下座高校のイケてる四人組はもちろん可愛くてイカす女の子をナンパしてやろうと目の色を変えていた。


 ケビンの家は金持ちなため、ケビンのお父さんが乗っているだんじりに四人が乗り込み、土下座高校のダサい底辺男子たちに引っ張らせ歓楽街に繰り出した。


 しかし、ノリノリの三人に比べ、アーノルドは緊張していた。

 実はアーノルドは女の子にモテモテな癖に乳首相撲に夢中なあまり、こう言った事には奥手であったのだ。

 あんなにモテモテなくせに十八歳だと言うのに女の子と手を繋いだり、盃を交わしたりした事すらもなかった。女にチンコがないと知ったのが三日前なほどにウブな男の子なのだ。


「おい、アーノルド。何緊張してんだ! これからお楽しみ何だから、しっかりしろよ!」

「やめてくれよ、ケビン。俺はこう言うことは慣れていないんだ」

「何言ってんだ、学校一のモテモテ男がそんなんでどうする! 今日は思いっきりいい女を捕まえてやれ!」


 そう言って四人はだんじりから降りて、ナンパの準備に取り掛かった。


 この時代のイケてる男のナンパ方法は一つだ。


「おい、アーノルド、服を脱げ。ルアーをつけるぞ」

「え? ルアーだって?」


 アーノルドはそう言ってズボンを脱ぎ出した。するとケビンから『そっちじゃねぇ!』と大声で怒鳴られた。


「なんでズボンを脱いでんだ! ルアーをつけるのに、ズボンを脱いでどうする!」

「え? ルアーを付けるならズボンを脱げばいいんじゃないのか?」

「お前、どこにルアーを付ける気なんだ?」


 ケビンが呆れ顔でアーノルドに聞いた。


 アーノルドがズボンを脱いだ事で、ロサンゼルス警察の黒人ポリスメンが数名、拳銃の弾丸を確認しながら近づいて来た。

 そのパンツの下のちいせぇアライグマを出して、このエロスの街を少しでもメルヘンに変えるもんなら、容赦はしねぇ! と言いたげなポリスメン。


「ルアーって言ったら、乳首に決まってるだろ!」

「え! 股間の竿じゃないのか!」

「何、幼稚なこと言ってんだ、馬鹿か!」


 そうアーノルドはあまりにも幼稚な発想にケビンたちは呆れてしまった。

 こいつはどこまでウブなんだ。


「チンコで遊ぶのは幼稚園児に任せておけ! 大人の下ネタは上半身だろ!」


 ケビン達はそう言って、この時代のイケてる男のナンパ方法『乳首釣り』の準備に入った。

 乳首釣りとは、自分の乳首から糸を垂らし、その糸の先端にソーセージのルアーを取り付ける。

 そして、糸を伸ばして空中に投げる。

 その後、先端のルアーを揺らしたり、左右に降ったり、ぐるぐる回したり、とにかく釣りのルアーのように美味しそうにソーセージが泳いでいるように見せて、それに世の女どもが喰らいつくのを待つのだ。


 アーノルドもケビンに言われた通り乳首に紐をつけ、その先にソーセージのルアーをつけた。


「こんなので女の子が釣れるのだろうか?」


 アーノルドの不安をよそに、その夜のイケてる男たちは街の至る所でイカす女の子を自分のものにしようと乳首からソーセージのルアーを垂らして、イカす女の子を釣ろうとしていた。


時に乳を揺らすイケてる男。

時に乳を上下に振ったりするイケてる男。

時に地面にルアーを落として、菜箸でソレをひっくり返したりして美味しそうに見せるイケてる男。


 みんな、いろいろな方法でソーセージのルアーを美味しそうに見せて、女の子を誘惑していた。


 まさにアマゾンの奥地でメスを奪い合う野生の動物たちのような。その証拠にディスカバリーチャンネルのスタッフが遠巻きにカメラを回して、この男たちと女たちのラブゲームにナレーションをつけていたのだ。


 さらに致死量の男性ホルモンが辺り一帯に充満した事で、もはやこの男の誘惑を全身で受け止める体力がない近所の老女たちには避難勧告が出され、同じオスとしての自信を失ったネズミやゴキブリ、はたまたアナコンダ、グリズリーが地震の前兆のようにイけてるシティから一斉に逃げ出したのだ。


 ここが男性ホルモンの頂上決戦。

 果たして勝利の女神は誰のソーセージに微笑むのか?



 一方その頃。


 土下座高校の隣にあるお嬢様高校『全裸相撲女学院』に通うアンジェラもまた、その晩、クラスメイトのヤリマン達と夜の街に繰り出していた。

 アンジェラは全裸相撲女学院の優等生で生徒会長もしている。成績はもちろんオールAで他校の男子生徒にはストーカー100人、強姦未遂100人、痴漢200人を従えているモテモテ女の子なのだ。


 にも関わらず、アンジェラは厳しい家に育った箱入り娘のため、18歳なのに関わらず男と話した事すらない。『男というのは空想の生き物なのではないか?』と先週まで思っていたほどの奥手なのだ。チンコは日本の急須が進化したポケモンだと思っていた程のウブさであった。


「さぁ、アンジェラ、あなたも種の保存の法則に貢献する日が来たのよ」


 アンジェラ、ジェニファー、ステファニー、クリスの全裸相撲女学院のイケてる四人が夜の街を歩くと、たちまちアチコチの男性ホルモン所持者から「ヒュー!」という声が上がった。


「ほら、アンジェラ。あそこに乳首にルアーをつけてる男たちがいるわ」


 アンジェラの視線の先、上半身裸になった男達が、汗を迸らせながら一生懸命、ルアーを揺らしている。


「あれが乳首釣りなのね……」


 ドンドコドドスコ ドンドコドドスコ ドンドコドドスコ


 どこからともなく現れた和太鼓の音色と共に男たちは女たちに求愛ダンスを送る。

 その無駄なエネルギーの迫力を目の当たりにしたアンジェラは『なんでそんな苦しい思いをしてまで女を欲しがるの?』と、交尾後にメスのカマキリに食われると知っていながら交尾を挑むオスのカマキリの無策ぶりを思い出した。


 まるで負けると分かっていてもなおアメリカに戦いを挑んできた第二次世界大戦の頃の日本のようだわ。


 男は獣。

 アンジェラには全ての男の乳首の先についているソーセージのルアーが穢らわしいものに見えた。


「ねぇ、ジェニファー。私はどうすればいいの?」

「簡単よ。自分が食べたいを思ったソーセージのルアーにくらいつけばいいのよ!」


 ヤリマンはバカな回答で返してきた。

 「だからヤリマンの世間の評価は低いのね」とアンジェラは思った。


 アンジェラは道の左右に並んでいる乳首釣りの男達を見て回った。やはり、全員、獣よ。

 どうせ、ろくな男なんているはずが……


「えっ!」


 その時、アンジェラの視線の先に他のソーセージとは違い、一際美味しそうに空中を泳いでいるソーセージが見えた。


 ぷにゅん ぷにゅん ぷにゅん ぷにゅにゅにゅん! しもん! しもん! まさとまさと!


(なんて、なんて、美味しそうなソーセージなの? フライパンの上でパチパチ跳ねてる様だわ! あのソーセージに比べたら、他のソーセージなんてポコチンにしか見えないわ)


 アンジェラは灯りに誘われるアンコウの獲物の様に、そのソーセージに徐々に徐々に引き付けられて行った。


(ああ、美味しそう。ドイツに降伏してでも、このフランクフルトは私のものにしなけれ……)


 ぱくっ。


「フィぃぃぃぃぃぃしゅ!」


 アンジェラがソーセージのルアーに喰らい付いた瞬間、ルアーの主が上半身をラブストーリーは突然にの小田和正ぐらいにのけ反らせて、喰らい付いたアンジェラをハングオン!


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」


 アンジェラはのけぞられた事でルアーについていた針が口の中に食い込み、痛い痛いと暴れ回った。


「おい! 何やってんだ、アーノルド!」


 すぐさま、ルアーの主の友人が駆け寄ってきて、のけぞっている馬鹿者の頭を叩いた。


「大丈夫、アンジェラ!」


 対するアンジェラの友人も強欲な男のルアーに食われた、この悲しき乙女から針を外そうと駆け寄った。


 二人の騒ぎを聞きつけ、周りにいた二人の仲間が集まって来たのだ。


「馬鹿野郎、アーノルド。これは釣りじゃ無いんだよ! ルアーに食いつたからって竿を引っ張るな!」

「え! 釣りじゃないの、これ! 引っ張っちゃダメなの!」


 なんと、おっちょこちょいのアーノルドは、『乳首釣り』って名前から勝手に釣りだと独り歩きしてしまい、竿を引っ張ってしまったのだ。


「え? 乳首釣りを釣りだと勘違いしたですって。そんな男の子がいるの?」

「あんなにイケてる外見をしているくせに」

「あの人、土下座高校のアーノルド様よ」


 アーノルドのウブな発言を聞いたアンジェラの友達のヤリマン達はクスッと笑ってしまい、


「アーノルド? この人ったら……イケてる顔をしている癖にユーモアセンスもあるのね」


 とアーノルドに好感を抱いた。


 それからアンジェラの口に食い込んだ針を外す作業になった。無事に外せはしたが、アンジェラの唇に小さな穴が空いてしまった。


「だ、大丈夫かい、君? ごめん! 怪我はない!」

「あるに決まってるじゃない! 唇に穴が空いちゃったわよ!」


 そう言ってアーノルドの顔とアンジェラの顔が近付く。


 プリンターのCMの様に見つめ合う二人。


 その瞬間、二人は恋に落ちたのだ。


「僕の部屋に来てくれないか?」

「はい、喜んで」


 学校一のイケてる男と学校一の美少女カップルが誕生した瞬間だった。


 その後、二人はケビンのだんじりに乗り込んでアーノルドの部屋へと向かい、今夜はスケベを仕事とするのであった。










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