第4話
継母が戻ってきてから、婚姻の書類にサインをし、その足でヴェルティエ家に出発する。
生まれたときから、暮らしてきたお屋敷。
継母が来てから、使用人もみんな変わり、居心地はわるかったけど、それでも幸せな思い出もあったシュンドラー家。
エレオノーラは、馬車に乗る前に振り返って、じっと玄関を見つめた。
「もう、ここに戻ることはないのね。」
もう少し、この家で幸せになりたかった。お母さま、お父様が生きているときのように・・・。
継母のことを考えると、一秒でもはやくここを離れたほうがいい。
それでも、エレオノーラは一歩をふみだせず、屋敷を見つめたまま、じっとそこにたたずんでいる。
幸せだったころの記憶が胸によみがえる。
思わず目を閉じると、様々な思い出が押し寄せた。
(突然のことだものな、離れがたいだろう)
シルビオは黙ってエレオノーラを待っていた。
事情があるとはいえ、突然来た人間に連れていかれるのだ。彼女の心中は推してしるべしだろう。
ふと、彼女の小さな肩が小刻みに震え、小さな嗚咽に気づいた。
エレオノーラの胸中に、複雑な思いが、一気に押し寄せる。
(泣いてはだめ!)
きっと今頃継母は、屋敷の窓からのぞいて出発を今か今かとまっているはずだ。
そんな女に涙なんか見せたくない。
そう思って必死にこらえていた。でも、涙が一滴こぼれたら、もう止められなかった。
シルビオは何も言わず、自分の来ていた上着を、やや乱暴にエレオノーラの頭からかぶせた。
不器用な優しさに、エレオノーラの涙は余計に止まらなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます