夏合宿 その2
夏合宿の朝は6時のラジオ体操から始まる。裕太たちマネージャーもみんなと一緒にラジオ体操をする。
「朝のラジオ体操って、小学生みたいだね。」
ラジオ体操を終えると、隣にいた浩ちゃんが話しかけてきた。
「朝に体操するのって、気持ちいいね。」
朝ラジオ体操をしていると、眠っていた体が目覚めてくるのが分かる。その感覚が心地いい。
その後部員たちは、朝練のランニングに出て行った。裕太はランニングには一緒に行かずに、2年生のマネージャーである前田先輩と一緒に乾燥室に向かった。
昨日の夜洗濯して、乾燥室に干していた洗濯物は乾いていた。前田先輩と一緒に洗濯物を取り込んで、畳みながら部屋ごとに仕分けを始めた。
「松下さん、香り付きの柔軟剤家から持ってきたの?」
「ダメでした?すみません。家にはそれしかなくて。」
いつも体臭を気にして家では香り付きの柔軟剤を使って洗濯をしているので、合宿での洗濯に使うために家にあったものを持ってきてしまった。香り付きは好きな人もいれば、嫌いな人もいるから無香料を買って持ってくるべきだったかと思い謝ってしまった。
「いや、ダメじゃないし、むしろみんな喜んでるよ。去年まで柔軟剤自体使ってなかったし、タオルがふんわりしていい匂いがするってみんな言ってた。松下さん、ありがとうね。」
怒られるかと思ったら褒められて、少し照れてしまう。
「ところで、松下さんって有川さんの事好きなの?」
「えっ、どうしてわかったんですか?」
「あっ、やっぱり図星だった?」
洗濯物を畳みながら、前田先輩が話しかけてきた。しらを切りつづける方法もあったが、密かな恋心が見透かされた動揺で、語るに落ちてしまった。
「そりゃ、わかるよ。練習中、有川さんの方ばかり見てるでしょ。」
バレてしまったこともあり、裕太は素直に浩ちゃんへが好きなことを認め、浩ちゃんを追って同じ高校に来たことまで話した。
「そうなんだ。純情だね。私そういうの好きよ。」
思わず先輩に話してしまったが、女子バレー部にいながら恋愛対象が女性であることがバレるとまずいことを思い出した。。
「恋愛対象が女子ってまずいですよね。私、バレー部にいられなくなっちゃいます?」
「いいんじゃない。女子でも女子が好きな人っているし、好きな人がいてそれが異性なのか同性なのかは後からついてくるものよ。私もガサツで汚い男子より、かわいい女の子の方が好きだよ。」
百合展開と勘違いされ事なきを得て、ほっとした。
「佳那、朝からそんなによく食べられるね。」
朝ごはんから佳那は山盛りご飯を食べている。
「朝練もしたし、これぐらい食べないともたないよ。」
朝ごはんのおかずは目玉焼きと納豆だけなので、山盛りご飯のおかずとしては少ない。佳那は持参のふりかけを取り出し、それをご飯にかけ食べている。
「佳那、ふりかけ私にも頂戴。」
「私もいい?」
同じテーブルの広瀬さんと浩ちゃんも、佳那のふりかけをかけてご飯を食べている。女の子が美味しそうにご飯を食べている姿は、ただそれだけでかわいい。
朝ごはんを終えると、洗濯物をそれぞれの部屋へと届けて回る。先輩の部屋のドアを、ちょっと緊張しながらノックをした。
「先輩、シャツとタオルもってきました。」
「ありがとう、そこに置いておいて。柔軟剤持ってきてくれてるんだってね。ありがとうね。おかげでタオルふかふかで気持ちいいよ。」
「去年のタオル、ごわごわだったもんね。いい匂いもして、練習にもやる気が出るよ。ありがとう。」
先輩たちからお礼をいわれると、恐縮してしまう。
先輩たちの部屋に届け終わり、つづいて1年生の部屋に届けにいく。こちらは同級生ということもあり気が楽だ。
「おはよ。洗濯もの持ってきたよ。」
「裕ちゃんありがとう。練習きつくても、タオルから裕ちゃんの匂いがして、頑張れる。」
浩ちゃんが抱きついてきた。合宿で同じ釜の飯を食べて、部屋は違うけど同じ屋根の下で寝泊りしていると、心の距離も縮まってきた。浩ちゃんだけでなく、佳那や広瀬さんともより仲良くなれた感じがする。
大好きな浩ちゃんに抱きつかれずっとこのままでいたいが、そのままでいると男として下半身が興奮してしまう。そうなってしまうと嫌われることは確定なので、興奮し始める前に名残惜しいが浩ちゃんから体を話した。
「合宿もあと二日だから、頑張ってね。」
浩ちゃんたちの笑顔で見送られながら部屋を出た。
前田先輩に見透かされた浩ちゃんへの恋心。他の部員、ひょっとしたら浩ちゃん本人にも気が付かれているかも知れないことに思い至ると、恥ずかしい気持ちになってしまう。
でも浩ちゃん本人が気づいていて、さっきみたいに抱きついてきてくれるということは脈があると思えると、嬉しくなってしまう。
浩ちゃんが気づいていて欲しいと願ってしまう。
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