夏合宿
8月になるとバレー部恒例の夏合宿が始まった。夏の間蒸し風呂のような暑さになる学校での練習には活動時間には限界があるので、涼しいところで強化練習を行うことになっているみたいだ。
朝早く学校に集合した後バスに1時間かけて着いたのは、山奥にある廃校を利用した宿泊施設だった。
「外はぼろいけど、中は綺麗だね。」
到着後、荷物を抱えて中に入ってみると、廃校になった後、宿泊施設としてオープンする前にリフォームしたみたいで、廊下や部屋は外見よりは綺麗だった。
「じゃ、またね。」
浩ちゃんが部屋に入っていくのを見届け、裕太も隣の部屋へと入った。もともとの教室を半分に区切った大きさの部屋に2段ベッドを2組おいてあった。
一応は男子ということで女子とは別部屋となり、唯一の男子部員なので必然的にこの部屋に一人で泊まることなっている。
隣の部屋からはにぎやかな声が聞こえてきて、静かな部屋にいると寂しい感情がわいてきた。
部屋に一人でいても寂しいので、集合時間よりも早く宿泊施設の横にある体育館に行き準備を始めることにした。まだ誰も着ていない体育館に入った。
体育館の倉庫からネットを運んでいると、浩ちゃんたちもやってきた。
「裕ちゃん、一人でさせてごめんね。ベッドの場所どこにするかで、もめていたら遅くなっちゃった。みんな上が良いって言って、結局じゃんけんで決めてたら、時間かかっちゃった。」
一人部屋でそんなことなかったので、裕太は少し羨ましく感じた。普段はあまり男女の違いを感じることはないが、こんなとき少数派の男子だと思うと寂しい気持ちになる。
合宿場が標高が高く学校よりは涼しいとはいえ、練習が始まるとみんなのTシャツには汗がにじみ始めた。床に落ちた汗で滑らないように、裕太はモップをもって待機して練習を見守っている。
練習中、無意識に浩ちゃんの姿を視線で追ってしまう。真剣な表情の浩ちゃんを見たいのもあるが、汗で少し透けて見える下着を男子高校生として見ないでいるというのは苦行に等しく、いけないと分かっていてもつい見てしまう。
浩ちゃんを見ないようにしたとしても、他の部員も同じ状態なので、練習中は常に女子高生たちの下着が視界には入ってしまう。
見てしまうと下半身の血流が良くなってしまうが、もしバレたら総スカンは確定なので、最近は暑くて蒸れるけどガードルを履いて股間のふくらみを抑えるようにしている。
「学校よりマシだけど、やっぱり暑いね。」
休憩中、浩ちゃんが水分補給しながら話しかけてきた。話しかけられると浩ちゃんの方を向かないといけないが、目のやり場に困ってしまう。
「ドリンクお代わり作ってくるね。」
本当は浩ちゃんのそばにずっといたいが、あまり近くにいるとどうしても胸のあたりを見てしまうので、適当な言い訳を作ってその場を離れた。
最近、浩ちゃんとの距離感は縮まってきている。でも、縮まってきているのは裕太が女の子として見られていることでもあり、近づいてくれば来るほど浩ちゃんが遠く感じることもある。
「佳那、それ盛り過ぎじゃない?」
練習も終わり夕ご飯の時間となった。ご飯と味噌汁は自分でつぐシステムで、佳那はアニメにでてくるような山盛りご飯をお盆に乗せている。
「合宿なんだから、これぐらい食べないと体がもたないよ。」
周りをみれば佳那ほどではないが、みんなご飯を大盛にして食べている。裕太のご飯の量が一番少ない。
「裕ちゃん、それだけで足りる?」
同じテーブルに座った広瀬さんから聞かれた。広瀬さんも当然ご飯は大盛だ。
「みんなと違って、あまり動いてないからね。」
育ち盛りの男子高校生にとっては足りない量だが、体重を気にして食事の量には気を付けている。
「体重気にするなんて、浩ちゃんも女の子になってきたね。」
浩ちゃんから「ゴリラにならないで」と言われたことがきっかけで、体重を気にするようになった。浩ちゃんの好みに合わせて、自分を変えようとしている。
夕食後はお風呂の時間だが、男子は一人ということで女子には申し訳ないが、大きなお風呂に一人で浸かる。
壁一枚隔てた女子風呂からはにぎやかな声が聞こえてくる。「肌が・・・」とか「胸が・・・」とか、刺激的な単語が途切れ途切れに耳に届いてくる。
ずっと聞いていたいが、のぼせる前にお風呂から上がることにした。上がった後体を拭いてからおいてあった体重計に乗った。昨日と変わらない体重に安心して、下着をつける。
トイレとお風呂の時、改めて自分が男であることを再認識してしまう。かといって、脱衣所の鏡に映っている姿をみると男子ともいえない。
普通の男子から離れて女の子に近づけば近づくほど、浩ちゃんとの距離は縮まっていく。でも、完全には女の子になれない自分。戸惑いや悩みもあるが、浩ちゃんと仲良くできること嬉しさの方が勝っている。
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