期末テスト その2

 浩ちゃんと佳那の3人で期末テストに向け、まずは数学から勉強をしているところに、ドアをノックする音が聞こえてきた。

「飲み物とおやつどうぞ。」

 母がお盆をもって部屋に入ってきた。

「ありがとうございます。」

 浩ちゃんが母からお盆を受け取ると、母は「勉強の邪魔しちゃ悪いから。」と早々に部屋を出て行った。

「裕ちゃん、お母さんと似てるね。」

「昔はそう思わなかったけど、最近似てるなって自分でも思う。」

 男のころはあまり意識してなかったが、女の子の髪形になってから母と似ていることに改めて気づいてしまった。

 

「これカルピスかと思ったけど、ちがうね。美味しい。」

「カルピスより味が濃いし、とろりとしている。何か特別なカルピスなの?」

 ドリンクを一口飲んだ後、浩ちゃんと佳那が顔を見合わせて驚いている。

「普通のカルピスだけど、カルピスを牛乳で割ってる。水で割るより、濃厚で美味しいでしょ。もちろん、いつもは水で割っているけど、お客さん来た時だけの特別なドリンクだよ。」

 少し恩着せがましかったかもしれないけど、思いを寄せている浩ちゃんに特別感をアピールしてみた。


 カルピスでのどの渇きも癒えたところで、再び問題集に視線を戻し勉強に取り掛かった。

「裕ちゃん、この『男子4人、女子3人で、女子が3人とも続く並び方の数』の問題ってどうやって解くの?」

 裕太はわからない問題を浩ちゃんに聞いた。

「女子3人を一つの塊としてみて、男子4人を先に並べてどこに入るかを考えればいいよ。」

「ありがとう。」

 早速、教えてもらったやり方で計算を始めようとしたとき、佳那が裕太の方を見ていることに気づいた。少し笑っているようだ。


「佳那、今の会話に何か面白いところあった?」

「ごめん、その問題で裕ちゃんがいたら男子なのか女子なのかで揉めそうって、想像したら笑ってしまった。」

「一応、男子だよ。」

 可愛いワンピースを着ていながら、『男子』と言い切るには多少抵抗はあるが、浩ちゃんもいるし男子であることをアピールした。

「いや、裕ちゃんは女の子だよ。体は男でも、心は女の子なんでしょ。」

 浩ちゃんから即座に否定されてしまった。最近は忘れていたが浩ちゃんは裕太のことを「女の子になりたい男子」と思っていたことを思い出した。

「えっ、そうなの?クラスでは『男の娘』タイプって言ってなかった?」

 確かにクラスでは、心も女性と言い切る篠ちゃんに気おくれして、男だけどスカートが好きで着ているという設定にしていた。

 

 最近は女の子の楽しさもわかってきたが、もともとは浩ちゃんと同じ高校に行くためにスカート履いているので、本当のことを誤魔化すために嘘をついてきたが、その場しのぎの嘘がバレてしまった。

「自分でもよく分かっていないというか、女の子の服を着るのは好きだけど、男の体が嫌でホルモン治療したいかと言われればそうでもないし、中途半端な感じでごめんね。」

 とりあえず、どちらに対しても取れるようにごまかすことにした。

「裕ちゃんって恋愛対象、男子なの?女子なの?」

 浩ちゃんから、きわどい質問をされた。浩ちゃんのことをはじめ、恋愛体調は女子だけど、女子バレー部のマネージャーしているのに女子が好きって言うのがバレると嫌われてしまうし、最悪部を辞めさせられるかもしれない。

「それもよくわからない。中学の頃は女子の方が好きだったけど、最近男性アイドルグループも魅力的に感じてきたし、高校に入ってからはよくわからない。」

 ここもひとまず、誤魔化すことにした。浩ちゃんも、完全に納得したわけではなさそうだが、これ以上の追及はなくホッと胸をなでおろした。


「なんとか数学の範囲終わったね。」

 試験範囲の演習問題を一通り終えた。続いて英語に移る前に、ちょっと休憩をとることになった。

「裕ちゃんも『推し』とかいるの?ほら、さっき男性アイドルグループが好きって言ってたよね。」

 佳那がクッキーを食べながら、話しかけてきた。さっき言った手前、「誰もいない」というと嘘くさくなってしまう。クラスの女子たちの会話を思い出して、それでいて佳那の「推しメン」でなさそうなアイドルの名前を挙げた。

「そうなんだ。裕ちゃんはそういうのが好きなんだ。」

 佳那は裕太の嘘を簡単に信じてくれた。

「浩ちゃんも『推し』っているの?」

「いるよ。」

 浩ちゃんは、男性アイドルの名前を挙げた。裕太が知らない名前だったので、感想をどうしようかと思っていたら、佳那が「私も推しじゃないけど好きよ。」と会話に入ってくれたので、正直助かった。


 夕方みんなを見送った後、裕太は自宅のPCを立ち上げ「推し」と言ってしまった男性アイドルのことについて調べ始めた。嘘をつくのも楽ではない。

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